その1
あらすじでも書きましたが、のんびり更新します。
エタることはありません。長い目で見守ってください。
「おーい、起きろーしずくー。俺はもう帰るぞー」
夕日の射し込む部屋の中、俺は幼馴染みを起こしていた。
あ、幼馴染みといっても男だぞ? 美少女を想像したやつは、ラノベの読みすぎだな。
ペチペチ、と雫の頬を叩く。
「……んっ、たっちゃん? もっと……寝か、せ……」
我が親愛なる幼馴染み様は言葉を言い終える前に寝てしまった。
仕方ない。最終手段だ。
「必殺! 布団返し!」
「きゃっ!!?」
黒い髪を肩の少し先まで伸ばしていて、男にしては身体が細く、色白な雫が、目に涙を浮かべて俺を見上げてくる。
「う~~! ひどいよ、たっちゃん!」
ほんの少し頬を朱に染めて、文句を言ってくる雫。
いや、ベッドから転げ落ちたのは俺のせいじゃないぞ? 俺は布団を取っただけだからな?
一瞬、頭によぎった『可愛い』という単語を振り払い、涙目で抗議してくる幼馴染みに反論する。
「仕方ないだろ? 俺が帰る時間なのに起きないんだから。ったく、勉強教えてやったというのに」
机の上に広げた筆記具を片付けながら言うと、「え、もうそんな時間!?」と、慌てる声が聞こえた。
「ごめん、たっちゃん! せっかく勉強を見てくれてたのに!」
「ほんとだよ」
荷物を鞄に詰め終え、振り返る。
「んじゃ、帰るわ」
「あ、待ってよ。玄関まで送るから」
雫はそう言うと、俺の後ろについてきた。
「なぁ、雫」
「どうしたの?」
コテン、と可愛いらしく首をかしげる幼馴染みに向かって、口を開く。
「昨日何時に寝たんだ?」
「9時だけど?」
「それがどうしたの?」とでも言いたげな表情で見つめてくる雫に頭を抱える。
あれ、俺がおかしいのかな? 高校生が9時に寝るって早い筈だよな? なのに何で、あんなに昼寝してたんだ?
俺は心の中で疑問に思いながら階段を降りる。
降りた先に、雫の母親、清音さんがいた。
「清音さん、お邪魔しました」
清音さんに挨拶をして、玄関までくる。
「龍生ちゃん、うちの子とどこまでやった? A? B? C ……」
清音さんの言葉を全て聞き終える前に外に出る。
ったく、この母親は。アイツは男だぞ?
しっかりと心の中で文句を言いつつ、後ろに振り向く。
「またねー」と、手を振る雫に手を振り返し、いつの間にか日の沈んだ道を歩く。
──俺、桜井龍生の幼馴染み、鳴無雫は男の筈なのに可愛いすぎる、と思いながら。