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井上リカは憂鬱です  作者: ジャポニカダージリン
一章です。
3/78

高校生活は大変だけど楽しいです。

優子の話を聞いてからリカはそのことばかりを考えてしまい、勉強も手がつかない。

しかし、考えれば考えるほど、健太郎をどうにかしなければという使命感が燃えてくる。

リカは自室の学習机に向かい、明日の予習をしているが、どうにも集中できない。

問題を解こうとしてもそれ以上に昼間の優子の話が気になってしまう。


「ーーアニキ最近やばくてさ、女の子のフィギュアとキスしてたり、人形に一人で話しかけたりしてるみたいなんだよ、こないだは口喧嘩みたいなんもしててさーー」


(……現実逃避、よねきっと。そんなタイプじゃないと思ってたのに……)

リカは何気なく机の隅に目をやると、昔両親に買ってもらったプリキュアに出てくるピンク色の妖精のキャラクター、ミップルの人形と目が合った。


「ねぇ、あなただったらこういう時なんていうの?」

話しかけてもミップルの人形は可愛らしく微笑むだけで何も答えてくれない。


(……そうよね、人形が答えてくれるわけないもの)

リカは犬歯で親指の右手の爪を噛む。

無意識に行ってしまうこの癖をリカはここしばらくしていなかった。


(どうしよう、健太郎さんこのままだとどんどん二次元の世界に逃避して、現実と向き合おうとしなくなっちゃうかもしれない)

ーーパチン。

鋭い犬歯で親指の爪先が割られる音がする。

健太郎の事を考えると自分のこと以上に不安感が募ってくる。


(……そうよね、やっぱり私がなんとかしないと、健太郎さんを理解してるのは私だけなんだから、私があの人の自信を取り戻してあげなくちゃ。でも、どうやって……?)

ーーパチン。

親指の爪先を整えるようにリカの犬歯は再度爪先を噛む。


(うん、やっぱり私が健太郎さんと付きあってあげて。私なら自慢にもなるし。年齢的にあまり周囲には話せないだろうけど。問題は健太郎さんビビリだから中々自分から告白しない事よね。私の方からおせばいいんだけど……)

リカは考えを纏めにかかると、親指を口元から離した。

そのまま握った拳で顎を支えるようにしてウンとうなずく。


(やっぱりこういうのは健太郎さんから告白して欲しいじゃん?後はそういうふうに持ってくだけよ……楽勝よ、健太郎さん絶対私に惚れてるから)

リカは毎度のように言い聞かせる。健太郎は自分に気があると。


リカは健太郎に惚れている。

それもいつからかわからないが、それがただの好きではなく恋であると自覚したのはあの時からだ。

以前、リカから優子に相談を持ちかけた帰り道、たまたま仕事からトボトボ帰ってきていた健太郎に道で会い、近くのイトーヨーカドーのフードコートで話を聞いてもらったあの時から。


(あの時から私は変わったわ。全部健太郎さんの言った通りだったのよね。みんな気づかずに自分勝手に人を傷つける。私だって傷つけられたし、健太郎さんはずっと、あんなんだからきっともう何十年もサンドバックよ。そりゃあ現実逃避だってしたくなるわよね!まっててね、健太郎さん。今度はリカがアナタを助けに行きます。そう思うと次健太郎さんに会うの楽しみになってきたわ。早く何かきっかけを作らないと)

そう思い直し、リカはシャープペンシルを握り、予習へ戻る。


そうよ、あの時、あの時から私は変わったんだから。


ーー1年前ーー


「リカ、学校はどうだい?」


「凄く楽しくなりそう。素敵なお友達も沢山出来たの」


「そっか」


「……あんた、楽しいのもいいけど勉強もしっかりしなさいよね、高校から勉強は難しくなるんだから」


「はい」


「まあ、いいじゃないか、勉強よりも大事な事もあるよな!せっかく出来た友達を大事にしなきゃな」


「うん。ありがとうお父さん」


「まあ、なんだ、リカは優しいから大丈夫だろうな」


「また、あなたは……いい、貴方が通う高校は他よりも勉強も進むペースが早いのよ?今までみたいに優子ちゃん達と同じふうにはいかないんだからね?アナタもあまりリカを甘やかさないでね」


「う、うむ……」


「大丈夫、勉強もちゃんとするから」


「わかったらいいんだけど。そういえばさっき田中さんとこの健太郎さん見かけたわ。なんかいつも通り俯き顔で元気なさそうにトボトボ歩いてたわねーー」

いつものように三人で食卓を囲む。

リカは父親が好きだ。いつも話を楽しそうに聞いてくれ、励ましてくれる。

母親は怖いから少し苦手だ。

しかしそれも自分を思っての事だと思うと仕方ないかと思えてくる。

母親の一番の自慢は中学時代、リカの学年成績が常にトップ3に入っている事だった。最後の期末試験では1位になり、高校も第一志望であった難関高の幕張高校進学コースに合格した。下から順位を数えた方が早い優子は同じ高校でも進学コースのリカとは別の校舎なのでいくつかの専門授業以外はほとんど会うことがない。他の仲の良かった友達と別れるのは辛かったが、今は新たな生活に期待も膨らんでいた。


「ごちそうさま〜」

食事が終わり、リカは自室の学習机に座り、携帯をチェックする。


(あ、安堂君と加藤君とリコちゃんからLINE入ってる、早く返信しなくちゃ)

稲田リコとは同じクラスで出席番号が隣同士で名前が似ているという事ですぐに仲良くなれた。リコは誰とでもすぐに打ち解けていく性格で、クラスの人気者グループの男子の加藤足人かとうたると安堂夏樹あんどうなつきともリコ繋がりで仲良くなれた。3人とは毎日ラインで話し合っている。


ーー駄目だ、数学早速わからん。笑

(フフ、加藤君また勉強の弱音はいてる)


頑張ろ、わからないところあれば教えるよーー


ーー井上さん、めちゃ優しい。笑


ありがとうーー


ーーそういや部活何入るか決めた?


うーん、まだ決めてないかなーー


ーー良かったらサッカー部のマネージャーとかやってみない?女子足りてないみたい


ちょっと自信ないかもーー


ーー井上さんなら絶対いいマネージャーになれるって


ーー部の連中も絶対喜ぶよ。笑


ありがとうーー


リカは内心では自分の中学にはなかった科学技術部に入りたいと思っていた。しかし、リコや他の女子達に話すと、せっかくの女子高生だから絶対にやめた方がいいと止められ、決めきれずにいた。

(マネージャーか。私サッカー全然わからないけど加藤君は熱心に誘ってくれてるし……)


考えてみるねーー


なのでリカは煮えきらないような返信を送る。

同じような感じで稲田リコや安堂夏樹ともLINEが続く。

(予習したいんだけど、中々集中出来ないな、せっかく出来た友達は大事にしたいし、高校って大変だな)


結局予習には時間がかかり、ベットで眠りについたのは1時頃だった。


次の日、リカはいつも通り目覚まし時計のベルで目を覚ます。

顔を洗い歯を磨き終えると、パジャマを脱いでハンガーに掛かっているグレーの制服に袖を通す。

まだ着なれないこの制服を着るとなんだか自分が随分と大人になったような気がしてくる。

(高校生になったんだから恋愛とかもしてみたいな、けど人を好きになるってどういう感じなんだろ?)


リカは今まで漫画で見るような異性にドキドキして目も合わせられないというような感覚に陥ったことがない。

鏡に映る自分を眺めながらそんな事を考えていると、


「ご飯よー」

母親に朝食に呼ばれたのでカバンを持って一階へと降りていく。

朝食中流れているテレビのニュースでは最近大きな自動車会社の社長が不正を働いたという事件で持ちきりだった。

(せっかく朝なんだからもっと心がホワッとするニュースとか流せばいいのに……)


「ゴーンも不憫だな、せっかく今まで頑張ってきたのに……」


「うん、よくわからないけど、この人なんか可愛そう」


「リカはやっぱり優しいな」

(優しいって言われるとやっぱり嬉しいな)

リカは優しいと言われるのが好きだった。

昔から優しくて強い女の子になりたいというのがリカの夢なのである。


「あのね、人間権力もてば皆んな悪いことするのよ。それよりリカ、あんた眠そうね、昨日夜更かししてたんじゃないの?」


「ちょっと勉強が長引いちゃって……」


「それで授業に集中出来なかったら意味ないからね、気をつけなさいよ?」


「うん」


「……俺なんて高校の時は毎日寝てたけどな、金縛りにあった時に先生に当てられたこともあってさーー」


「だから二流大学しかいけなかったんじゃない。リカ、お父さんの言うこと聞いちゃ駄目だからね」


「……私、大学とか関係ないと思うの、お父さんこうして毎日頑張って働いてくれてるし」


「リカ……」


「いい?いい大学出れなかったから頑張って働くしかないの、わかってる?」


「うっ……」


「リカは授業中に居眠りとかしたら駄目だからね?」


「はい……ごちそうさま。それじゃあ学校行ってきます」


「頑張るんだぞ!」


「うん」


そうしてリカはソファに置いてあったカバンを手に取り家を出る。

学校までは歩いて20分程度の距離なので毎朝歩いて向かう。

(ふぁ〜、やっぱり眠い。7時間は睡眠取れるように気をつけないと)


「あ、リカおはよ〜!」


「あ、おはようリコ!」


「リカ、数学の宿題やった?」


「うん、ちょっと難しかったね」


「それが全然わからなくてさ〜、リカお願い、ノート見せてくんない?」


「え〜、それだと意味ないよ、数学5限目だから昼休みに一緒にやろ?」


「あ〜、じゃあいいや、それより部活決めた?」


「えっ?まだ決めてないけど……」


「それだったらバトミントンやらない!?私中学からやってるんだけど一人で入るの勇気いってさ!リカ決めてないんだったら一緒にやろ!?」


「バトミントンか〜、面白そうだけど……」

(私あまり運動とか得意じゃないから困ったな……)


「だったら一緒にやろ?ね!?私リカに教えられるし!!」

(リコがそう言ってくれるならバトミントンもいいかもしれないな、運動にチャレンジしてみるのもいいかもしれない)


「う〜ん。考えてみるね」


「こういうのは早く入った方がいいよ!!一年の間でもグループとかどんどん出来ちゃうから!ね、やろ?!」


「じゃあ今日見学に行ってもいい?」


「よし決まり!!授業終わったら一緒に行こ!!あといのっちと瞳と……セコムも誘お!」


「うん、そうしよ!」

(みんなで同じ部活入れたらきっと楽しいよね、なんかテンション上がってきちゃった)


そんな話をしながらリカとリコは学校の教室まで二人で向かう。

ガラガラー

「おはよ〜」


「あ、おはよー!昨日のドラマ見た?!」

リコは教室に入ると机にカバンを置き、早々に猪股友紀と倉田瞳、瀬古麻美が話している所へ向かう。リカもそれについていく。

(リコと友達になれて良かったな、リコのおかげで教室に入るのも全然緊張しない)

元の作りだけを見ればリカは大層な美人であるが、リコ、ひとみ友紀ゆきも美形であり、そしてお洒落に無頓着なリカと比べると高校生一年生にしては慣れたお化粧や制服の着崩しなど、リカよりもずっとキラキラした高校生といった雰囲気が見て取れる。リカはそんな3人といつも行動を共にするので、教室では言わば美人グループの一人だった。性格が大人しいリカ自身、リコがいなければ瞳達とは仲良くなれなかったかもしれないと思うとますますリコと仲良くなれて良かったという気がしてくる。


「みたみた!やっぱ蒼太君かっこいいね〜!」


「よねー!!蒼太神ってるわ!」


「セコムは見た!?昨日の『蒼太のYESフォーリンラブ!!』?」


「私はドラマとか見ないからいいよ。アニメしか見ないから」


「……あー、そうだっけ」

(瀬古さん正直だから……、ちょっと空気がおかしくなっちゃったな)


「瀬古さんはどんなアニメみるの?」

(フォローしてあげないと……)


「アタシ?う〜ん、深夜系もみるし、プリキュアとかみたいな小さい子向けのもいけるわよ、ようは雑食よね」

(あ、プリキュア見てるんだ!私もって言いたいけど、リカ達はアニメみなさそうだし……)


「そうなんだ、ドラマも結構面白いよ?瀬古さんも同じの見てみたら?」

(私も実はリカに勧められたから見てるんだ)


「いいよ、三次元に興味ないし」


「そうなんだ……そういう人もいるよね」

(ちょっと心配になるけど、触れない方がいいのかな……)

出席番号の関係で瞳の隣の席だった瀬古麻美せこまみもリコが話しかけて以来行動を共にする同じグループの一人であるが、他の3人比べると地味な感じであり、リカ的に感性も3人とズレているように感じる。

しかし、周囲を気にせず自分の気持ちに正直に見える麻美はリカにはどうにもほうっておけない存在だった。


「何なに?リカめっちゃ大人じゃん?!」


「別に大人って訳じゃーー」


キーンコーンカーンコーン


「あ、時間だ、じゃね〜〜行こリカ!」


「うん、じゃあ後で」

(ほっ……いつか瀬古さんとプリキュアのお話出来るといいな。けどリコ達には知られたくないし……)


いつものような朝のお話は終わり、リカは席についた。一限目は国語。リカはいつの間にか眠気は何処かへ行っていた。

授業のチャイムに内心安堵し、リカは席につき、カバンから教科書とノートと筆箱を取り出した。

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