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井上リカは憂鬱です  作者: ジャポニカダージリン
一章です。
2/78

この話、聞き出すまで絶対に帰れない。

優子によって健太郎との会話を打ち切られたリカは急かされるように優子宅へ。通いなれたそこではいつものように優子から相談を受けることになるが。

リカは優子にひっぱり込まれるようにして玄関の敷居をまたいで優子宅に上がると、昨日白いワンピースに合わせて買った、高校生のリカには少し背伸びしたチャンキーヒールの白いサンダルを丁寧に揃える。急かす優子を宥めるように静止して、リビングでインスタントコーヒーを飲みながらゴシップ雑誌を読んでいる優子の母に育ちの良さを思わせる丁寧なお辞儀をし、リカの来訪に喜ぶ優子の母と少し会話をした後、これまた強引に優子に会話を打ち切られ、引っ張られるように優子の部屋へと向かった。


ガチャリ、

(ああ、優子の部屋だ、いつきてもホッとする。部屋の色んなところに飾ってあるものは中学生の頃から全然変わらない細々した雑貨や可愛らしいお人形さん達。そしてその中に何故か北海道で売ってる木彫りのクマ。高校生なのに全く匂いに気を使ってないのね、畳のいぐさの匂いがしてきそうだわ。フローリングだけど。けどそれでいて整然としていて落ち着ける。優子の人柄が部屋にあらわれてるのかしら?)

「お邪魔するね」


「そんなかしこまらなくていいからいいから、早く座って座って!」


「も〜、そんなに急かさないでもちゃんと座りますから」


「それもそっか、はは。そだ!外暑かったでしょ?!何か飲み物出すよ、お茶でいい?」


「あ、ううん、大丈夫。それよりもどうしたの今日は?」

「いいよいいよ、遠慮しないで!私お茶持ってくるよ、ちょっと待ってて!」

リカの返答を意に返さず、優子はトテトテと急いで部屋を出て一階へ飲み物を取りに行った。

先程のやり取りの意味は一体何だったのだろうと思うといつものようにリカの心の底から何やら嘲りにも似た笑いがこみ上げてきて、リカは一人部屋の中でフフッと笑い声を漏らしてしまう。


ーーコト、


「?!」

(何かしら?何か音がしたような……)

音の方に振り返ってみてもそこにあるのはさまざまな可愛らしいキャラクターもののフィギュアが飾られている学習机。その中に何故か紛れている鮭を咥えたゴツい木彫りのクマと目があうが、他にこれといって気になるものはない。

(ま、いいや)


ガチャリ、

「ごめんー、お待たせー!お茶持ってきたよ!それとお母さんがこれ持ってけって」

そう言って優子はお盆の上には、注がれたお茶にぷかぷか氷が浮かんでいるストローの刺さったグラス二つに、その隣には優子の家ではよく出てくるチョコレート菓子のエリーゼ

「うわぁ、ありがとう。後でおばさんにお礼言わなくっちゃ」


「いいよいいよ、こんなのいつもお菓子だなに入ってるようなやつだから」


「そうは行きません。食べ物の怨みは怖いんだから……」


「何それ?!なんかお母さんが怨みがましく出してるみたいじゃん?!」


「おばさまの事だからそうに違いないわ」


「……ぷっ」

「ぷっ」


「アハハ、おっかしー!!リカいつもお母さんのお菓子食べる時同じこと言うよね!」


「フフッ、わかってるわよ。けどやっぱりお礼は言わないとね、いつもおばさんには良くしてもらってるから」


「はぁ、わかった。ほんとリカ、育ちいいよね、何で私の親友なのかわからないや」


「私もわかりません。ふふ。それより、どうしたの今日は?何かあった?」

(優子が突然連絡してくる時って大体何か相談事があるのよね、そして、私から聞き出さないと中々本題に入ろうとしない。このお約束、結構めんどくさいわ、優子)


「それがさ……リカに聞いて欲しい事があるんだよ、アニキの事なんだけどさ……」

(?!健太郎さんの?!珍しいわね、優子の口から健太郎さんの話が出てくるのは、これは一聞の価値ありね……)


「どうしたの?」


「いや、ほんと言いづらいんだけどさ、リカ以外誰にも言えなくて……」

(はぁ、めんどくさいわ、優子、どうせ言うんだから毎回もったいぶらずにバサっと言う事出来ないのかしら、あの木彫りのクマみたいにバサっと悩みを打ち明けなさいよね)


「うん、聞くよ」


「ありがと。それがさ、明日うちらパソコンの授業で環境についてのプレゼンしないと駄目じゃん?」

(あぁ、明日の班の環境問題についてのプレゼンテーションか……めんどくさいのよねあれ、私が一人でやれば全部1日で終わるのに班の連中の顔立てないといけないから意味のない議論に参加して相槌打って。それで出来上がると小学生の読書感想文に毛が生えたようなもんになるし。何より男子の不必要なウケ狙いとかほんとに不毛よね、せっかく毛が生えたのに不毛って意味がわからなくなっちゃってるわね、まぁ、そこは置いておいて)


「ああ、あれね……プレゼンで何か問題があったの?」


「いや、プレゼン自体は何も問題ないんだよ」


「そう、じゃあどうしたの?」


「私ってさ、班の役割の中でまとめたプレゼンのデータをUSBに入れて学校に持っていく係だったんだけどさ」


「うん」


「先週、送られてきたデータをUSBに入れようとしたら、私USB持ってないじゃんね?で、使うのどうせ明日だけだし買わなくてもアニキ持ってたらそれ借りようとしたんだよ」


「うん」


「で、アニキに借りようとしたけど、その時アニキなんか珍しく出掛けてて部屋にいなかったからさ、後で言えばいっかなーと思ってアニキの机から勝手にUSB持ち出したんだよ、そしたらさーー」

(ちょっと待って、兄妹ってそういうものなのかしら?!部屋の物勝手に持ち出しあったりしていいものなの?そこら辺の感覚は私一人っ子だからわからないわね……けど優子だからそれを間に受けるのも危険よね。そこら辺は優子クマみたいなところあるから……それにしても羨ましいわね、妹だからって健太郎さんの部屋に無断で入れるなんて、私だって健太郎さんの部屋に入り浸りたいのに。。)


「そうなんだ……それが何か問題でもあったの?」


「うん、それをパソコンで開いてみたらさ、なんかファイルが入ってたんだけどさ、そこにマル秘って名前つけられてたんだよ」

(……薄々気付いてたけど、多分そうよね、健太郎さんも男だからそういう画像とか持ってて、優子うぶだからそれみてショック受けたとかそういう感じよね。まあ、良くある話よね。けど、秘密のUSBの中にマル秘って、それって『どうぞ開いて下さい!!』って言ってるようなものに思えるんだけど、健太郎さんそういう事考えないのかしら?馬鹿に思えるけど男の浪漫ってやつなのかしら、相変わらず謎よ、健太郎さん読めないところあるから……)


「それは、開かない方が良さそうよね……」


「だよね?!やっぱそうだよね??けど私、どうしても気になっちゃってさ、それでダブルクリックしちゃったんだよ、ちょっとだけと思って」

(まあ、そうよね、私でもきっとそうするもん)


「うん……」


「で、ファイル開けたらさ、その、男子とかが好きそうなエッチな画像とかが大量に出てきてさ、しかもみんな女子高生の制服着てて、私気持ち悪くなってすぐに閉じたんだけどさ、悪い事したのは私なんだけど、私達と同じ年代の子達意識してるって事じゃんね?アニキ33なのにだよ?!それ考えると私ますます気持ち悪くなってきてさ……」


「それは、ちょっと引くかも……」

(私は健太郎さんが好きだけど健太郎さんの年代の人が女子高生とか、いざ聞くと結構ショックでかいわね……けど、それよりも早く健太郎さんをなんとかしないと、やっぱりこのままだとおかしな犯罪とかに手を染めてしまいそうだわ。ナイスよ優子)


「でしょでしょ?!いやー、けどもーどうしたらいいかわかんなくてとりあえず黙っとこうと思ってアニキの部屋にUSB戻しに行ったんだよ」


「うん。それがいいと思う」


「でしょ?!で、アニキの部屋の扉開けたらさ、まさかいたんだよアニキが、さっきまでいなかったのに、部屋の真ん中に座ってたんだよ、胡座で」

(ホラー?ごめん、優子、ちょっと面白いわ、この話。私だったらその場で上手いこと取り繕えるだろうけど……)


「最悪ね……」


「でしょ?!アニキ戻ってくる時全く物音しなかったんだよ?!私咄嗟のことでどうしたらいいかわからなくてさ、で、部屋から出ようとしたらアニキの方から持ってるUSBについて質問してきてさ、私、咄嗟に中身は絶対見てないって嘘ついたんだけど、もうパニックで何話していいかわからなくてさアニキにUSBだけ渡して部屋から出たんだよ」


「そうだったんだ……けど、しょうがないよ、優子。健太郎さんも男の人だし、男の人って若い女の人が好きって聞くからそんなにおかしな事じゃないと思う。USBがバレちゃったのはあれだけど、優子がそんなにショックに感じることでもないと思うけど?」

(まあ、そんなものよね。どこにでもある話よ。今思うと健太郎さんが女子高生好きっていうのは寧ろ私に有利なわけだし、好都合だわ。後は男子の愚痴でも話題をふってと……)


「ありがと、リカ。けど、問題はこれからなんだよ」


「えっ?!」


「うん。私さ、その後ちょっと考えて、リカが言ってくれたことと同じ感じのこと前先輩が話してたの思い出してさ、アニキに謝りに行ったんだよ、さっきはごめんって」

(ふむふむ、内省したってわけね、好きだな優子のこういう所。人としてずるさがなくていじらしくなってくるのよね)


「っで、また扉を開けたら今度はさ……あぁ、駄目だ……これはリカでも……言えない、言えないよ……!!」

(ちょっとなに?!ここまできてひき?!優子のクセに舐めたマネしてくれるじゃない?これは今日は聞くまで死んでも帰れないわね)


「頑張って、優子!!ちゃんと聞くから、ね?」


「いや、だって、これは兄妹として言っちゃいけない気がする、うん、駄目だよ……」


「お願い、優子、話して。私達親友でしょ?!」


「ううん、親友のリカでもやっぱり言えない!ごめん!!」

(なっっっ!?何よそれ、それを言う為に私を呼んだんじゃないの??こっちは健太郎さんとの会話打ち切ってまで話に付き合ってあげてるのに一番肝心な所で手のひらクルー?!クッ、許せないわねこの馬鹿だけは………いえ、落ち着くのよ、リカ、冷静になって!!熱くなって攻めすぎちゃ駄目、ここはいったん引いて)


「……そう、わかった。優子、お兄さんが大好きだもんね」


「いやいやいゃ、別に好きってわけじゃーー」


「ううん、昔から見てるからわかるよ。私も仲のいい二人を見てて優子みたいにお兄さんがいたら良かったなってずっと思ってたの。だから、優子のお兄さんを想う気持ち、大事にしたいと心から想うの」


「リカ……ごめんね」

(よし、ここら辺で優子の心を揉み解して)

「ううん。けどね、ホントに苦しかったら言ってね?私、優子の事、親友、ううん、それ以上、家族みたいに大事だって思ってるから、優子が辛そうだったら少しでも力になりたいの。だから、言いたくなったらいつでも言ってね、優子の苦しんでる所は絶対に見たくないから」


「リカ……」

(あらあら、感動しちゃって目が潤んでるわ。ここまで私に言わせたんだからとっとと吐きなさいよね。さ、ここで帰る演技でも入れてと)


「じゃあ、そろそろーー」


「あっ……ごめんリカ、やっぱり話したい!ううん、お願い、聞いて!!」

(はいやっぱりね〜。はぁ、優子の相手は疲れるわ。けど、聞かせてもらうわ、もとこら聞くまで帰るつもりなんて毛頭なかったんですからね!)


「それがねーー」

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