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井上リカは憂鬱です  作者: ジャポニカダージリン
一章です。
1/78

闘いに負けは許されない!!

「ハァ……」


自分の部屋の立ち鏡の前で、期待と緊張に揺れ動きながらこれで12回目になる白いワンピースに身を包んだ自分の姿を観て井上リカは大きなため息をついた


(……でも、絶対に大丈夫……)


深くため息をつき、再度見直した正面の立ち鏡の中ではーー昨夜、夕飯時に送られてきた親友からのLINEを見た後、これまで貯めていたお小遣いを即座に豚の貯金箱から抜き取り、あわてて向かった新宿の某デパートで買うことが出来た真っ白なワンピースに身を包むもう一人の一人の自分が、鏡の前の自分を妖艶に見つめていた。


(他の男達と一緒よ。健太郎さん絶対私に惚れてるから……)


井上リカはそう結論付け、着ているワンピースを脱ぎ、クローゼットから取り出したハンガーにそっとかけてベットの上に寝かせた後、ひっきりなしにクローゼットにかかっている衣服を一つ一つ丁重に右へ寄せて作った空間にーーベットで寝そべっている新しいワンピースのぶら下がったハンガーを丁重に引っ掛けた。


「やっぱり、グレードを変えたデパートの服は繊維の輝きが他と段違いじゃん……」

そうひとりごちた後、地面に投げ捨ててあったアニメ『プリキュア』の主人公達がプリントアウトされたパジャマを拾い、袖を通し、部屋のライトを消してベットに向かった。


7月中旬、日曜日、気温は36度、快晴

外のオスゼミ達が他のオスより抜きんでようとつんざきあっている音を合図にリカは目を覚ます。

時間は6:12分、セットしていた携帯のアラームより2時間以上早く目を覚ましたリカはすぐに窓のカーテンを開き、外の天気を確認する。


(あつ……良し、天気予報通り今日は快晴。まあわかってた事だけど)


リカは外の天気を確認した後、ベットから飛び降り、一目散にクローゼットを開き、一際悠然とぶら下がるワンピースを確認する。

それを見て(絶対行ける)と確信し、鼻歌を唄いながらお風呂場へと向かった。

パジャマ、下着を慣れた手つきで脱いで洗濯カゴの中に放り込み、風呂場へ入り、シャワーの蛇口をキュッと捻って出てくる水を適温になるまで掌で確認し続けるーー


(今日のワンピースは多分、絶対に決まる。けど問題は健太郎さんと会えるかどうかじゃんね?優子は普段休日は部屋に篭ってるって言ってたけど、部屋から出てくるかどうかが問題じゃん?優子ブラコンだから私が健太郎さん意識してることに気づいたら絶対妨害しようとしてくるから下手な行動取れないし、どうしよっかな……)


シャワーを浴びながら正面の壁に手をつけ、俯きながら思案にふける優子はシャワーを浴び始めてから既に10分は経過していた。

(あー、考えても仕方ない。私は現場主義。どうとでもしてやるわ、健太郎さんがトイレに向かった時とかに適当な理由を作って私も部屋を出ればいいのよ、楽勝。優子馬鹿だから)


そう開き直って正面の鏡を睨みつけた後、お気に入りのラベンダーの香りのするシャンプーをいつもよりオオメニプッシューー


リカはお風呂から出てバスタオル姿で髪にドライヤーをかけた後、学習机に置いてある縦鏡の前で自信の顔に薄めのナチュラルメイクを施すと、クローゼットから取り出した例のワンピースにスルスルスルと身体を通し、立ち鏡の前で再度確認する。


(あらら、いつ見ても可愛いわね私、自分の姿を見てると神様を信じたくなる気持ちになってくるわ。……けど……昨日一緒に買った麦わら帽子をかぶってこうかどうか悩むな……)


そうやって立ち鏡の前でセンターテーブルの上にほうり投げられていた白いリボンのついたレディース用の麦わら帽子を頭に乗せては外しまた乗せて、色々なポーズと角度から自分の姿を確認する。


(どっちもほんと可愛い……個人的には無い方が好みかな??……けど健太郎さんみたいな人って多分、麦わら帽子が似合うような女の子が好きよね?昭和産まれだし……よし決めた!!)

そうして麦わら帽子をヒョイと頭に乗せ、お小遣いを貯めて買った、足元に置いてあるベージュ色の小さなトートバックを両手にもって立ち鏡の前で正面にそえてみる。

(やっぱり私天才じゃん?このバックが白いワンピースとマッチしてるの絶対偶然じゃないわ、多分……今日絶対に合うな……)


鏡の前で今日どういう風に意中の男性に話しかけるか思案するがーーリカは大抵の物事は計画通りに進まない事がわかっているので考えるのをやめ、部屋を出たーー


「じゃあお母さん、優子ん家行ってくるから」


「ん!……あら、綺麗に着飾って、実はデートとかなんじゃないの?」


「……そういうの邪推って言うの知ってる?とにかく優子んち言ってくるから……あ、今日は晩ご飯いらないから」


「フーン……行ってらっしゃい」


リカはそう言って玄関の扉を閉める。

「ウザッ!……」

リカは自分の行動に何かと干渉したがる母親が嫌いだった。母親は無自覚のようだが、今まで母が自分にして来た事を思い返すとどうしても昔みたいな関係に戻りたいとは思えない。(バカばっか。バカッバカッ、皆バカ!!……健太郎さんも馬鹿だけど……あの人は別。)


そう思い、玄関前で一人でフフッと笑った後、リカは玄関前に止めてあるママチャリを見て考えるーー幼馴染みのリカの家と優子の家は歩きで10分もかからない。少し霞んでいるシルバーの通学自転車をチラリと見た後ーー

「ヨシ行くぞ!!」

頭にのせている藁帽子のツバを摘んでギュッと下に引っ張り、優子の家に向け歩き始めた。



ーー井上リカは腹黒なのだーー



無数のセミの泣き声を掻き分けるように通い慣れた道を勇み足で進み、

インターホンを押したら出てくるのは健太郎さんかな?

見たら笑顔で目を見るんだ……などと考えながら歩いていると

視界の先に優子の家が見えてくる。

そして優子の家の前にきて足を止め建物全体を眺めるように首を上に持ち上げているとーー


ガチャリと玄関の扉が開く。

「あ、おはようございますお兄さん!!」

(あ、健太郎さん!!やっぱりね……最高のタイミング)


「あ?!おう、リカちゃん、久しぶり……」

(目を伏せたわね、よし、決まった!!これまでで一番のきょどり様じゃないの……次はあんたから何か話題ふって来なさいよね……って無理か……会話のリードを任せようとするとこの人訳わからない事言い始めるから私がリードしてーー)


「今からお出かけですか?」


「あ、ああ、うん、ちょっとね」

(相変わらずのきょどりようね、それにチラチラ私の体全体をみたりして……もっとしっかり見ていいのよ?どうこのワンピース?太陽光に照らされて輝いて見えるでしょ??

……それはそうと健太郎さんちょっとオシャレしてるわね、ポロシャツにトートバック付けてるあたり相変わらずダサいけど……まさか女って事は……ないわよね、健太郎さんの場合。お風呂上がりみたいだからコンビニってわけでも無さそう……優子の事前情報にはなかった展開だけどここで勝負かけてやるわ!決めるのよ私!!行け!!女性らしくあまり押し切らずに引いたあと、チョンガケで顔面からこかしてやるのよ!!)


「そっか……残念です……久しぶりにお兄さんとお話し出来ると思って楽しみにしてたのに……」

(はい、千円払いなさいって他の男には言うとこだけど、本心だから特別にただにしてあげる)


「?!イヤー、嬉しい事言ってくれるね〜!!リカちゃんくるって知ってたらプリンでも焼いて土下座でお迎えしてたんだけどさ!!コンクリで焼かれるのは自分ってね!」


「ウフフ、もぉ〜なんですかそれ?おかしぃ」

(この人、今のジョークが面白いと本気で思ってるの??合わせるのちょっとしんどい……それにプリンの事会えば毎回言ってくるけど、必殺トーク?……まあ健太郎さんだから許すけど……)


「わぁわぁ!!プリンですか?お兄さんが焼いたプリン絶対食べたいです!!次はお兄さんにも伝えるように優子に言うようにしますね!!」

(ちょっとオーバー過ぎるきらいもあるけど、健太郎さんだったらこれくらいの反応でも大丈夫かな?プリン好きだし)


「……けど、いや、俺に合わせて無理とかしなくていいから……」


「無理なんてそんな……ところで今日はどこまでお出掛けするんですか?」

(どうせ大通り添いのイトーヨーカドーあたりだろうけど、流れがないならオールをこぎ続けなくちゃ)


「あ、そうだな、東京まで行くから帰るのは遅くなるのかな、色々回るだろうし」


「そうなんですか?……せっかくお兄さんに会えると思って楽しみにしてたのに……」

(……)


「そ、ま、邪魔ものはいない方がいいだろうし気楽に楽しんでってよ!」

(自虐ネタはやめた方がかっこいいと思うんだけどな……けど自虐ほど見破るのが簡単な本心はないのよね)


「いえいえいえいぇ……せっかく会えたんだし、私お兄さんともっとお話ししたいです!!」

(これは私の本心よ……よし、感情のノリが違う。押しが効くわ!!ここでやっと健太郎さんも両手を土俵に添えるはず、動きを注視するのよ!!)


「え、そ、そう?リカちゃんは今日は優子と何する予定なの?」

(はい一丁上がり〜〜男なんてボンカレーをチンするより簡単。笑。後は予定を言って何かしら褒めてきたところに弱さを見せればイノシシみたいに突進してくるんだから)


リカは心の中で思い通りに事が運んだお祝いの打ち上げ花火をあげようとしたその瞬間ーー


ガチャリ!!

「ちょっとリカ、なんで外にいんの??暑いっしょ?早く家入りなよ!!」


……優子っていつもこれよね、これからって時に……何か私を妨害する変なセンサー持ってるとしか考えられないわ……

幕引きね、ここは素直に怯える本心に従ってあげる。

私、優子にだけは誠実でいたいもの……


『本能型の優子の前でこれ以上粘るのは危険じゃ!!!』と、リコの脳内リングのセコンド役である本心は、理性が闘う土俵の中に白タオルを投げ込んだ。

まだ疲れていない。計算上まだ全然やれるはずなのだが。


普通は本心と理性の立場は逆なのであるが、一般とはかけ離れて優秀な前頭葉を持つリカは、いつも本心を隅において物事にあたろうとするところがあるのだ。


……けどいいわ、この感触、健太郎さんは今や外堀を埋められた城、あとひとふきで落ちるから。焦る事ないわ、次で必ず決めるからーー

そう、今の私の信条は勝負には絶対に勝つ事。自ら挑んだ闘いに負ける事は絶対に許されないのよ!!


まってなさいよね、次回!!









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