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セリカの両親

セリカの両親を見つけたが

積もる話もあるだろうからと、セリカたち家族を家に残してオレは外に出た。


朝から降っていた雨はすっかり止んでいた。


大樹の真ん前にあるログハウスは、1棟では4人住むには手狭だ。

セリカの両親と住むのもお互い気を使うだろう。


セリカ一家のためにもう一棟必要だな。

そんな決断(?)をした次の瞬間、オレのログハウスの右側に同じログハウスが出現していた。


もう、何でもありだな。


とりあえず、中に入ってみるか。

間取りや電化製品に至るまでオレのログハウスと同じだ。


使い方は分からないかもしれないが、調理家電もそろっている。

これはセリカに使い方を教えたし、セリカに習ってもらったら大丈夫だろう。



確認が終わったので、自分の家の方に戻って、セリカ一家に新しいログハウスのことを知らせた。


お父さんは両膝をついて手を合わせてオレにお礼を言った。

ああ、このポーズは神様に感謝するときのポーズなのか、ようやく理解した。

セリカは最初からずっとオレを神様だと思っていたわけね・・・


お母さんは驚いて気を失った。

人って驚いたら本当に気を失うんだな。


お父さんと一緒にお母さんをベッドに寝かせた。


セリカも家が出来たし、オレはまた一人暮らしが戻ってきたし、住むところも食べるものもあるし、また引きこもり生活を再開しようか。

そんなことを考えていた。


考えてみると、この世界では基本的に食べて、寝るって生活だ。

会社にも行かない・・・と言うか、会社もないだろうし。

食べることで精いっぱいみたいで、狩りとかに1日の多くを費やすのだろう。


オレの場合は、脳内ネットスーパーもあるし、食事の準備に時間はかからない。

それ以外の時間がすごくたくさんあって、正直持て余す。


ゲームもなければ、ネットもなければ、スマホもない。

暇なので、初日位セリカ一家を食事に招こうと思った。


セリカには食事に招く旨伝えたので、両親にも伝わっただろう。

嬉しいことにセリカは料理を手伝ってくれるそうだ。


オレ自身ほとんど料理はしたことがないので、レシピなんかはクックパッドで調べたいところ。

この世界にはないので、ヘルプデスクのお姉さんに聞きながら、カレーを作ることにした。


キャンプと言えばカレーだろう。

そう、オレにとってはログハウス生活は家っていうよりキャンプっていうイメージかな。

自分の家じゃないし。

知らないところだし。


下手にうろつきまわったらモンスターが出てくるような世界だ。

別に勇者でも何でもないオレは、引きこもり生活を決め込んでも何も困らない。



セリカはカレーのルーに食いついた。

「食いついた」と言うのは、もちろん、かじりついたと言う意味ではない。

香辛料や味付けが固形になったものがこの世界にはないらしい。


オレ自身、カレーのルーの正体が何なのか知らない。

野菜を煮て、ルーを入れたらカレーになること位しか知らないのだ。


ちなみに、ヘルプデスクのお姉さんに聞いたのは、どんな野菜を入れるのかと、その切り方だ。

普通は箱に書いてあるのだけれど、脳内ネットスーパーはオレの知らないものは出てこない。


カレーの作り方は大体しか知らないので、箱にも作り方は書いてなかったのだ。



野菜を切っているとセリカが面白い切り方をしていた。

彼女はまな板を使わないのだ。


ニンジンやジャガイモをまな板なしで器用に切っていく。

危なげなく切っていくことから、普段から料理をしていることがうかがえる。


オレにはとても真似できないので、ピーラーを出して、ジャガイモの皮をむいていた。


「な、なんですか!?それ!」


また彼女の琴線に触れたようだ。

一通りピーラーの説明をしたら、すぐに使い始めた。


新しいものを次々受け入れられるのは若さなのか、セリカの性格なのか。

オレ的にはとても助かるな。


会社では、中途で入ってきたおっさんとよく仕事の進め方でぶつかったものだ。


「私の前の会社では・・・」


とかよく聞いたな。


新しい会社に来ても、昔のやり方を受け入れられなかったのだろう。

そう考えると、オレもこの世界にいる間は、この世界のやり方に倣う必要があるな。


楽だからと今までの自分のやり方だけを周囲に押し付ける訳には行かない。

あのおっさんとおなじになってしまう。

まあ、おっさんだけど。


「すごく良い匂いですね!」


「そうだな。セリカ、カレーは初めて?」


「カレー?この煮込み料理の名前ですか?」


「そう。ご飯にかけて食べるんだ。」


「え!?ご飯にかけるんですか?シチューみたいなものかと思っていました。」


ああ、そうか。

ご飯自体、セリカにとっては初めてだったし、カレーだけ見たらシチューだと思うよな。


今晩は、セリカ一家がまた驚いてくれそうで楽しみだ。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



夕飯の準備を終えたオレは適当な時間になってセリカとご両親を食事に招いた。


セリカは、両親に陶器のお皿やステンレスのスプーンについてレクチャーしていた。

この世界には金属自体あんなりないらしい。


オレたちは、テーブルについて食事を始めた。


「ユーイチ様、このカレーと言うのは美味しいですな!」


「ほんと、初めて食べたけれど、豆にシチューをかけて食べるなんて独創的です。」


セリカ夫婦にも好評だ。

米が豆だと思われているようだった。


穀物でオレにとっての主食であることを知らせておいた。



オレは食事をしながら気になっていたことを聞いてみた。


「あの、ツープラさん、これからどうされるのですか?」


ツープラさんと言うのはお父さんの名前だ。

「ス」じゃなくて「ツ」だった。

惜しい!


「はい、村は焼かれてしまって、村人は塵尻になってしまいました。あそこに戻ったらまだ兵隊がいるかもしれません。できれば、ユーイチ様の庇護のもとこちらでお世話になれたら、と」


村に来たのは兵隊なのか。

なんかヤバそうだな。


「わかりました。隣のログハウスを使ってください。」


「「ありがとうございます!」」


「それにしても、ユーイチ様はセリカと同じ年位に見えますが、何でもできて神様とは皆さんそんな博識でいらっしゃるのでしょうか。」


「は?」


マヌケな声を出してしまった。


オレは、洗面所にダッシュで行き鏡を見た。


セリカは10代だろう。

オレも同じくらいに見えると?


確かに、背は縮んだ。

目線が明らかに低い。


鏡の前のオレの姿は確かに10代のそれに見える。

この世界には鏡がなかったし、オレもこれまであまり身だしなみとか気にしなかったから、鏡を見る習慣がなかった。


オレ、ヤバいんじゃないか。


改めてみると、髪は金髪だ。

日本人が染めた『なんちゃって金髪』じゃなくて、本当に金髪。

目は青い。

慣れないな、これ。


顔だちも日本人ではない。

それで名前が『裕一』っておかしいだろ。


『ユーイチ』ってことにしておこう。


これまで黒髪で黒目だったオレだ。

金髪で青い目の自分を毎日鏡で見ていたら、性格も考え方も変わってきてしまうだろう。


何よりオレ若い!

もう、いい加減、転生したと言う事実を受け入れざるを得ない。


セリカが心配して洗面所まで来てくれていた。


「大丈夫ですか?お父さんが何か不敬なことを言ったかもと不安がっていました。」


そりゃあ悪いことをした。

早く戻って謝らないと。

食事の途中で抜けるのはマナー違反だ。


それにしても、なんだこの世界。


この姿や年齢はオレの願望なのか?


よくよく考えると、セリカの両親もオレを神様だと思っているなら、もっと恐れるだろう。

すんなり受け入れて、一緒の食卓でご飯を食べるような、そんな気軽な神様はオレの知る世界にはいない。


なんてこった。

知らず知らずのうちに、やっぱりここはオレにとって都合のいい世界になってる。


オレは試しにテーブルに戻ってみたが、セリカの両親は快く許してくれ、逆に謝られてしまったほどだ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


セリカのお父さんは『ツープラ』、お母さんは『コペン』、娘が『セリカ』。


この一家はスポーツカー一家なのか?

別にオレは自動車マニアとかではないのだけれど・・・


この世界がオレにとって都合のいい世界なのか、疑問は絶えない。


とりあえず、ご両親には悪い印象を与えなかったことを良しとしよう。


神様とは思っているようだが、変に崇められても生活しにくい。


今の距離感がちょうどいいのかもしれない。




オレは少し良いワインをツープラさんとコペンさん、そしてセリカと共に飲んでいた。


この家への歓迎の意味もあるし、セリカとただならぬ関係になってしまったことへの贖罪もあるのかも。


「ユーイチ様、一つお願いがあるのですが。」


ツープラさんがワインを飲みながら切り出した。


「なんですか?」


「この家の周囲を耕したいのですが。」


「耕す?」


「はい、ユーイチ様の庇護の下、この辺りに畑を作って作物を作りたいと思います。」


なるほど、生活するうえで、狩りだけではなく農耕もやっているのか。


「いいですよ。」


オレは快諾した。

ただ、モンスター対策とまだ知らない兵隊とやらの対策を事前に取っておく必要があるな。


オレは、お開きになった後、明日の予定を考えていた。

引きこもり生活はもう少し後になりそうだ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


夜は、それぞれオレとセリカ一家で別のログハウスに分かれた。

一人のベッドは慣れたものだったのだけれど、ここ数日セリカと一緒だったので、なんだか寂しい。

人は本能的に人肌が寂しくなるようにできているのか。


コンコン


ドアがノックされた。

セリカか?

何か困ったことがあったかな?


返事をするとセリカが入ってきた。


「ユーイチ様、今夜も・・・」


うーん、ウエルカム。

断る理由が見つからない。


オレにはラブコメっぽいのは無理だな。

チャンスがあったら最大限に活かしてしまう。


暗い部屋でも真っ赤な顔のセリカは本当にかわいい。

髪もきれいだし、最初に会った時よりきれいになっている。

シャンプーの効果なのか、オレに都合がいいようになっているのか。


頬に手を添えたら、サラサラの髪が流れた。

まつ毛長いし!


出来れば日本で会いたかった。

でも、こんな金髪美少女を46歳のおっさんが連れていたら、オレヤバいかも。


変なことを考えながら、オレはセリカと共にベッドに入った。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


次の日の朝、目が覚めたら外で変な音が聞こえていた。


ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ


何の音だろう。

ベッドには、既にセリカの姿はない。


すっかり日は上っているし、寝過ごしたようだ。

日本から切り離されたオレは、日に日に生活習慣が壊れていく。


起きた時に時間が分からない。

多分望めば腕時計位脳内通販で出せるだろう。


でも、オレの心のどこかで望んでいないのだろう。

考えてみたらスマホだってそうだ。

便利なのは分かっているけれど、有ると生活に追われるのは目に見えている。


会社にも電話しないといけない。(つながらないだろうけど)


オレは心の底ではこの世界を気に入っているようだ。



あ、外ではツープラさんが地面を耕している。

そう言えば、昨日のうちに鍬を渡したのだ。


一人寝ているのも悪いので、着替えてダイニングに移動した。

そこにはセリカが朝食を準備してくれていた。


なんかオレ急激にダメ人間になっていっているような・・・



「ユーイチ様、おはようございます。」


「ああ、おはよう。」


まだどこか照れくさいな。

お互い顔が真っ赤なのが分かる。



テーブルに着くとセリカがサンドイッチとコーヒーを出してくれた。


もうすっかりマスターしたんだ。

すごい順応力だ。


オレはセリカの作ってくれた朝食を食べながら考えていた。


多分、畑もオレが望んだらすぐに出来てしまうだろう。

でも、それではセリカ一家は働く必要がなくなってしまう。

いや、働かなくなってしまう。


オレがいる間は良いだろうが、何かののはずみでオレが元の世界に戻ったら、この一家は一気に詰む。


畑を作って作物を育てたり、動物を狩る必要があるな。


オレはオレで、この土地を守れるようにならないといけない。

具体的にはあのモンスターだ。

一度は死にそうになったことから苦手感があるのは間違いない。


見つけ出して倒せるようにならないといけない。

今のオレならきっとできるはず。


「どうしたんですか?難しい顔して。」


セリカに指摘されてしまった。


「いや、きみのご両親を見て思ったんだ。オレはこの土地を守れるようにならないと、と。だから、オレの魔法の練習を手伝ってほしいんだ。」


「私が?ユーイチ様の手伝い?」


「ああ、そうだ。オレは攻撃的な魔法は全くできない。食べ物を出したり引っ込めたりがいいところ。だから、炎を出したり、氷の柱を出したりする魔法が見たいんだ。」


「・・・私たちを守って下さるんですね。ありがとうございます。・・・でも、ごめんなさい。」


セリカが話しにくそうに進める。


「私は、私たちは、それほどの魔法を使うことが出来ません。慣れている人でも、焚火の種火を魔法で起こせる程度なのです。」


そうなのだ。

これは既に聞いていた。


この世界に魔法があることは分かった。

そして、オレが思っているような攻撃魔法みたいなものは、特別な人しか使えない。

オレは知っているうえで頼んだ。


コンロのつまみをひねったら火が出るのはオレにとっては日常だ。

でも、何にもない状態で手から火が出たり、氷が出たりするのは非常識すぎて真似ができない。


オレに変な力があると分かってから試してみたことはあったけれど、火や氷は出なかった。


言ってみれば、この家のコンロのガスや照明の電気だってどこから来ているのか分からない。

でも、これは日本でも電気やガスを見なくても、そんなもんだと思ってきたから許容できる。


オレはオレにとっての非常識な力が見かったのだ。


「セリカはその種火を出すことができるのか?」


「はい、何回かやれば火は起こせます。」


「それだ!それなんだ!ぜひオレの練習に付き合ってくれ!」


「はい・・・私でよければ・・・」


いまいち合点がいかない顔はしているけれど、この世界でもっとも頼りになるのはセリカと言っていいだろう。


セリカの両親には悪いけれど、農作業は任せて朝食を終えたらオレは魔法の練習に行くことにした。

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