大いなる失敗
昨日は飲み過ぎたか。
エイティに行かないで、とすがられる夢を見てしまった。
目をさましたら、オレはいつものベッドの上にいた。
段々慣れてきて、快適になりつつあるこの家。
そんなに長居するつもりじゃなかったけど、目的である情報収集とエイティのことがあって、割と長くいることになってしまっている。
ふと気づくと、オレのベッドにエイティが一緒に寝ている。
オレの手にすがったまま寝ているのだ。
これが夢に出てきたのかもしれない。
「エイティ、おはよう。」
「あ、おはようございます。ご主人様。」
「いつの間にオレのベッドに・・・」
「朝ごはんを作って、ご主人様を起こしに来たのですが、あんまり気持ちよく寝ておられたので、私も一緒に横になって、そのまま・・・」
かわいいじゃないか。
怒る気は、そもそもない。
オレは、魔法使いという事になっているが、特に仕事をしているわけでもないし、言うならばニートだ。
朝起きなければならない理由は特にない。
一方で、エイティはずっと朝早く起こされていたようだ。
それが癖になっているようで、日が昇る前に目が覚めるようになっているのだそうだ。
悪い習慣じゃないから、そのままにしている。
むしろ、オレの方が悪い習慣だ。
「ご主人様、朝ごはんを食べましょう。」
「んー。今日の朝ごはんは何だい?」
「今朝は、『ろくしゅのわそうざい』と目玉焼きです。」
ここで言う、「和惣菜」とは、エイティが和食と言うものを理解していて、和食を作ったという訳ではない。
『6種の和惣菜』と言う冷凍食品を温めてくれたのだ。
ご飯はありそうだ。
あと、目玉焼き。
割とちゃんとした朝ごはんかもしれない。
しかも、誰かが準備してくれているというのが嬉しい。
冷食なのはご愛敬。
まだ、料理を始めて2~3週間なのだから、期待を超えるものが出てくる可能性は低い。
むしろ、6種の和惣菜を出してくれたことの方が期待以上かもしれない。
ご飯は、レンチンご飯じゃなくて、ちゃんと炊飯ジャーで炊いた物だろう。
ご飯の炊き方はちゃんと教えたし。
問題は、エイティがこの世界の料理をちっとも覚えられないことだ。
オレはほとんど外食しないし。
料理も料理らしい料理はほとんどできない。
冷食やレトルト、そんなものばかり食べていたら、エイティの常識がおかしくなってしまう。
最近の冷凍食品はちゃんと栄養があるみたいで、この家に来た時はガリガリだったエイティも、少し細い子供くらいにはなった。
冷食ばんざい。
レトルトばんざい。
食事をしながら、エイティが効いた。
「ご主人様、今日は外出ですか?」
割とよく聞かれる。
朝の日課と言っても良い。
これは、『外に行ってくれ』という意味ではなく、「出かけないのならば遊んでくれますよね』と言うおねだりでもあるのだ。
今日はいよいよ内側の塀の中の町に潜入することにしていた。
エイティには、また物を売ってきてもらおうか。
残金も乏しくなってきたし。
エイティには、10種類くらいに増えた食材や調味料を渡し、そのままでは重くて運べないだろうから、カートを貸してやった。
キャンプの時とかに使う『ゴロゴロ』だ。
樹脂の折りたためる箱があって、持ち手のハンドルが付いていて、大き目のタイヤが付いているあれだ。
商店のおじさんとは、エイティはすっかり顔見知りになって、一人で品物を売りに行ったことも何度かある。
困ったときは、テレパシー的な魔法でエイティの心の声をオレに飛ばせるようにしておいた。
オレが指示をまたテレパシー的に伝えると、エイティはそんなに困ることなく仕事が完了するのだ。
最初は隠れてエイティの後ろを追いかけたが、それでは勉強にならない。
問題が起きそうだったら、オレが先回りして解決してしまうからだ。
夕方には帰ることをエイティに伝えたら、オレは、塀の中の町、王都に行くことにしたのだ。
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町は、2つの円状になった壁に囲まれている。
外側の町は、単に『町』と呼ばれている。
比較的簡単に入れて、それなりに栄えている。
人口は恐らく数千人と言ったところだろうか。
そして、町の中には、普通の町の人は入れないもう一つの塀に囲まれた『王都』があるのだ。
外の町からも城は見えているので、城下町的なものだと思っている。
商人ならばその塀の中に入れるらしいのだが、普通の商人では入れないらしい。
オレはこの城に潜入するために約1か月間くらい町で情報収集をしていたのだ。
エイティとイチャイチャするためにこの町に来たわけではない。
今日は週に数回ある壁にある門が開く日だ。
意思基礎外の魔法(?)を使えば中に入れる。
色々探れば夜には帰れるだろう。
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門の前では商人が馬車をひいている。
オレは、そのすぐ横で気配を消して、潜んでいた。
本当は馬車に乗っかって行こうと思ったけど、荷物がぎっしりだったので、横を歩くことにしたのだ。
観音開きの木の扉が重々しく開いていく。
ある程度でも中のことを知っていないと、入ってから収穫なく帰ってくることになるからな。
1か月くらいの長い潜伏期間は今日のためにあるんだなぁ。
感慨深く考えながら扉に入った。
その時、オレは重大なミスに気付いた。
完全に勘違いだ。
何でオレは、塀の中が町だと思ったのだろう。
塀の中は一つのお城だった。
要するに、お城に資材を納める口座を持った商人だけが品物を納めに行っているというだけか・・・
オレの1か月を返せ・・・
オレは、気配を消したまま、城の中を歩きまくった。
作戦会議をしている部屋、王様がいる部屋、色々行ったけど、すげえのどかだよ!
少し臆病な王様が城の周りに大層な壁を作ったようだ。
何で壁が2重構造になっているのか気になっていたのに・・・
巨人も出ないし、隣国との戦争もしていないみたいだ。
そりゃあ、そうか。
町の中も平和そのものだった。
夜になったら外の壁も閉めてしまって、モンスターなんかも入ってこないようになってるし。
軽くめまいがしながらも、オレはルーラ的な転移魔法ですぐさま家に帰った。
室内に突然戻ったらエイティが驚くかもしれないので、玄関前に出て、ドアを開けた。
ダーッと走ってくる音が聞こえる。
エイティだろう。
「ご主人様、おかえりなさい!」
エイティが抱きついてきた。
最初は表情とか全くなかったエイティだが、こんなに愛情表現が豊かになるとは。
お父さん嬉しいよ。
「ただいま。」
「ご飯は食べますか?一緒に作りますか?新しいメニュー教えてくれますか?」
「どうしたどうした、テンション高いな。」
「今日、商店に行ったら、思ったより高く売れたんです。」
「ほう、中でゆっくり聞こうかな。」
そうなのだ。玄関で話し込む必要はない。
オレ達は一緒に料理を作りながら、昼間のエイティの話を聞いた。
今日預かった品物は、全部で金貨10枚になったとのこと。
オレは金貨9枚くらいを想定していたので、かなり高く買ってくれている。
一生懸命交渉して値を釣りあげるオレと違って無邪気に高額を勝ち取ってくる。
オレより詳細があると言っていいな。
しかも、商品を運ぶために持って行ったカートを売ってほしいと言われたそうだ。
思ったよりも高値で。
でも、この町にいる必要はなくなったし・・・
明日にでもおじさんにプレゼントしに行こう。
家を貸してくれたじいさんにも家賃を払いに行こう。
そうだ!エイティ!
エイティはどうしようか・・・
あ、エイティをいえば、仕事をしたんだ。
お駄賃(給料)をあげないと。
金貨10枚あげてしまっても良いけれど、エイティの金銭感覚がおかしくなってしまうだろう。1000円くらいあげるかな。
銅貨1枚くらいかな。
結局、夕食は豚のしょうが焼き定食となった。
しょうが焼きは冷食で、キャベツの千切りは切った。
ついでにプチトマトは添えた。
ご飯はエイティが炊いてくれた。
味噌汁はインスタントをお椀に注いだ。
ぱっと見はちゃんとしたご飯。
でも、ほとんど何も作っていない。
作れないし・・・
ご飯を食べながらエイティに行った。
「エイティ、今日の仕事の報酬だよ。」
銅貨1枚を挙げた。
「私はご主人様にお役に立てるのなら何でもします!お金なんて・・・」
「いいんだよ。勉強でもあるんだから。それに、助かったし。」
「これ、頂いていいんですか?」
「いいよ。」
「何を買ってもいいんですか?」
「もちろん、エイティの好きなものを買いなさい。」
「わー、何を書こうかな~」
すごくテンションがあがっている。
明日、商店に行くついでに町で何か買う時間を作ってあげよう。
明日の予定が決まってしまった。
さて、寝るか。
風呂も入ったし、歯も磨いた。
今日はこの1か月が無駄になったという事が分かって、精神的にがっくり来ている。
早く寝るか。
そもそも、セリカの村を襲ったやつらを追い詰めるのならば、最初にセリカの村に行くべきだった。
何か手掛かりが残っていたかもしれない。
新しい村の方は、結界的なものを付けてきたから大丈夫とは思うけれど、そっちに何かないか、心配になってきた。
帰るのが自然だろう。
セリカたちも待っているだろう。
ベッドに横になると、エイティが枕をもって部屋に入ってきた。
「どうした?眠れないのかな?」
「はい、ご主人様と一緒に寝ようと思って・・・」
この1か月の収穫と言えば、エイティを過ごして癒されたことだろう。
一緒に寝るくらいOKだ。
もちろん、子供的な意味で。
「いいよ。おいで。」
オレは、布団をめくって招き入れた。
エイティはオレのすぐ横でぴったりくっついて寝ようとしている。
「私、ご主人様にくっついたらドキドキするんです。」
「そうか。」
「ご主人様に触れてもらったら、そのドキドキはもっと早くなるんです。」
「そうか。」
「この気持ちを何とかご主人様に伝えたいんですが、伝え方がわからないんです。」
「もう、十分伝わってるよ。」
愛されてるなぁ、オレ。
でも、エイティはずっと奴隷だったわけで、辛い生活をしてきたわけだ。
今の普通の生活の方が良いに決まっている。
その気持ちが、オレのことを好きであると混同している可能性は高い。
オレも(本当は)46歳だ。
12歳の小6程度の子に好きだと言われても、そんなにおろおろ慌てたりはしない。
ここは大人の対応だな。
頭をなでながら、エイティと眠りについたのだった。




