初めてのご主人様
「新しいご主人様ですか?」
「は?」
オレは間抜けな声を出してしまった。
どこから思い出したら良いのだろうか。
オレは、都で1~2か月くらい暮らすことにした。
一つは、じいさんに物を売ってお金を得ることができる店を教えてもらったこと。
そして、数日はただで泊めてもらった、じいさんの家だったが、その後は(安いけれど)家賃を受け取ってもらうことになったこと。
ただでは申し訳ないし・・・
あとは、セリカの村を襲うような奴がこの都にいるかどうか調べたいと思っている。
でも、せっかく一人の部屋があるなら引きこもりたい・・・
この矛盾した2つを実現するには、1~2か月は必要だと思ったのだ。
数日間、昼は町中を情報収集も含めて移動して、夕方以降は引きこもって過ごした。
とりあえず、身近なところだけ掃除したりしていたら、結構時間がすぎるものだ。
ネットもパソコンもないけれど、退屈と言うことはなかった。
じいさんには思った以上にお世話になっていて、生活で足りないものを提供してもらったりしていた。
椅子なんかは、ネットスーパーにないし。
オレはお返しとして、塩や胡椒など生活必需品を提供していた。
普通の塩なのだけれど、じいさんはめちゃくちゃ驚いていた。
もしかしたら、塩とかはこの世界ではそれなりに貴重品なのか?
店でご飯を食べてみたけれど、味は普通だし、塩も胡椒も使っているみたいだったけど・・・
そして、今日だ。
朝からじいさんがオレの家(本当はじいさんの家)に来たのだ。
いつもはじいさん一人なのに、今日は横に子供を連れていた。
12歳?
13歳かな?
とにかく子供だ。
オレは、じいさんと子供を奥に案内したが、じいさんはすぐ帰るので、玄関先で良いと言うことだった。
子供は、フードまである茶色いマントを羽織っているのでよくわからないけれど、かなり細い。
で?この子がどうしたのだ?
「ユーイチさん、ここにこの子をおいてやってくれないだろうか。」
「そりゃあ、元々じいさんの家だしかまわないよ。」
あ、オレも中身は46歳だけど、見た目は15歳~17歳くらいらしいし。
お友達紹介か?
「この子は奴隷だ。今まで辛いことが多すぎた。後はここで面倒を見てやってほしいんじゃ。」
このじいさん、見た目は少し怪しいけど、いい人なんだな。
オレも数か月ここにお世話になるのだから、子供の一人くらい面倒を見ても問題ない。
でも、じいさんから見たらオレも子供だろう。
子供に子供の面倒を頼むってどんな意図だろう・・・
「何か事情がありそうですけど、注意することとかありますか?」
「いや、あんたの好きなようにしたらいい。」
「?」
よくわからないけれど、オレの好きに面倒見ていいと言うことだな。
じいさんは、子供のマントを脱がせた。
マントの下には、服と呼んでいいのかわからないようなぼろ布が着せられていた。
んー、ひどいな。
「よろしく頼みます。」
それだけ言って、じいさんはマントをもって帰ってしまった。
オレは、子供を見た。
そして、ここにもどる。
「新しいご主人様ですか?」
「は?」
ご主人様、とはメイドとご主人様的なあれか?
いや、この子は奴隷だったと言っていたな。
話を聞くことから始めようかと思い、中に案内しようとした時だった。
「お願いします!私のご主人様になってください!そうでないと私!わたっ!」
取り乱して、わーっと泣き崩れて座り込んでしまった。
奴隷だったと言うことなので、主人が決まらないとひどい目にあうのかもしれない。
オレは出来るだけ安心出来るように、ゆっくり話した。
「きみは、今日からここで暮らすんだよ。心配しなくていいんだよ。」
「あ、ありがとうございます!ありがとうございます!」
とりあえず、この子を家の中に案内した。
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オレは、リビングに行き、テーブルの椅子に座った。
自分にはコーヒーを淹れたけど、この子には、何を出していいのかわからないので、とりあえず、ネットスーパーからぶどうジュースを出して、コップに注いでだした。
と、ここで気づいた。
この子は椅子に座らないのだ。
テーブルから少し離れたところにずっと立っている。
緊張しているのかな?
「こっちに来て座りな。」
「・・・」
近くには来るのだけれど、やはり椅子には座らない。
「どうした?」
「あの・・・私のような奴隷が、ご主人様と同じテーブルに着くなんて・・・」
ああ、そういうことか。
オレに奴隷と言う文化がなかったから分からなかった。
「今日からそこはきみの席だよ。自由に座っていいんだよ。」
そう言うと、子供はぶるぶると震えながら椅子に座った。
何か思うところがあるのだろう。
すごく考え考え、ゆっくり座った。
オレは座るまで黙って座ってみていた。
今度は、椅子に座ったら座ったで、ずっと下を向いている。
相変わらず汗もすごい。
「あー、」
オレが何から話そうかと思っていたら、その声でビクッとはねた。
そうだ。名前だ。名前を聞こう。自己紹介!仲良くなるには自己紹介からだ!
「オレは、ユーイチ。あのじいさんにお世話になっている魔法使いだ。」
次はきみの番だよとばかりに子供の方を見た。
「わた、わたしは、特に名前はありません。ご主人様のお好きなようにお呼びください。」
え?名前ないの?そりゃあ不便だな。
「今までは何て呼ばれていたのかな?」
「い、いま、今までは、『180号』と呼ばれていました。」
番号かよ!
本当に奴隷って文化があるんだなぁ。
んー、180・・・ワンエイティ・・・長いなぁ。呼びにくい。エイティかな。
「じゃあ、きみは今日からきみの名前は『エイティ』でどうかな?」
「えいてぃ・・・」
少し口元がゆるんだかな?嬉しかったみたいだ。
「じゃあ、エイティ。エイティの事も少し聞かせてよ。」
「私は、前のご主人様のところでは、上手に悲鳴をあげるので、痛いことをされる担当でした。
は?痛いことをされる担当!?
「ご主人様は、時々私を部屋に呼ばれて縛り付けて叩いたり、爪をはがしたり、肌を焼いたり・・・それから、それから・・・」
「いや、もう、いいや、そこまでで。」
「あの・・・私は本当はそれほど痛いのは得意ではないので、少し優しく痛くしてくれれば耐えられると思うのですが・・・」
ちょっと頭痛がしてきた。
オレは、手を額に当てていた。
比喩的な意味じゃなくて頭痛い。
恐ろしい世界だ。
「オレは、エイティに痛い目にあわせないよ。まあ、ジュースでも飲みなよ。」
エイティを安心させたいと言うよりも、オレが一息入れたかった。
気づけば、またエイティがジュースを見たまま固まっている。
「良いんだよ。飲んで。」
「はい・・・こんな高い飲み物を飲んだら、私はどんな痛いことを我慢したらいいのか・・・あんまりすごいのは死んでしまうかもしれません。」
これは普通ではだめだ。
もしかしたら、生まれてからずっと奴隷だったのかもしれない。
この子には、ゆくゆくは一人で働いて生きていけるように『仕事』という概念を植え付けよう。
仕事を与えて、出来たら報酬を与える。
この家では、客としてではなく、オレの身の回りのことを少しづつ覚えてもらおう。
「エイティ、それを飲んだら、これからはオレの身の回りの世話をしてもらう。最初は出来なくていいし、オレが教えるから少しづつ覚えて、オレの役に立ってくれ。」
威圧的にならないように、ゆっくりと柔らかく言った。
「は、はい!不束者ですが、よろしくお願いします。」
エイティは少し安心したようだった。
負荷がないと安心できないとは・・・これは時間がかかるな。
「飲み物も味を知っておいてくれないと、いざという時毒見役を任せられない。しっかり飲んで、味を覚えておいてくれ。」
「はい。」
エイティは初めてコップに手を付けて、少しづつグレープジュースを飲んだ。
「美味しい!美味しいですご主人様!」
「それはよかった。それはグレープジュースだよ。」
「ぐれーぷじゅーず。はい、覚えておきます。」
なんだか、服もボロボロだし、髪もぐしゃぐしゃだ。
昼ごはん前に風呂に入れてやろうかな。
ちなみに、この家に風呂がなかったので、シャワー室を改造して風呂場を作ったのだ。
お湯も入ったし、エイティを読んだ。
エイティは12~13歳だけど、オレも15~17歳くらいだし、ショタコンにはならないよな。
面倒見の良いお兄さん位ってことでいいよな。
オレは、脱衣所にエイティを呼んで、一緒に風呂に入ることを伝えた。
オレは服を脱ぎ始めた。
エイティが手伝おうとしたので、自分の服を脱ぐように言った。
オレは服を脱いだら、風呂場に入った。
まずは、かけ湯をして、身体を洗おうかな。
いや、エイティの頭と身体を先に洗ってやろうか・・・な。
風呂場にエイティが入ってきて、オレは大きな勘違いに気付いた。
エイティには付いていなかったのだ・・・
その、アレが。
エイティは、慣れているのかどこの隠さない。
胸はうっすら膨れていて、オレにとってはなじみがあるアレがない。
そう、エイティは女の子だったのだ。
確かに、髪は肩位まであって長めだと思ったんだ。
ガリガリだから、男だと思い込んでいたけど、単に十分に食べられていなかったからか?
声は高めだから声変わり前だと思っていたけれど、女の子だからか!
ここでオレが恥ずかしがったら負けだ。
出来るだけ心を落ち着けて、エイティを髪から洗ってやった。
すごい。
エイティの髪はところどころ、ほこりが固まった塊があって、野良犬みたいだった。
確かに、臭いも野良犬みたいだったし。
少し時間はかかるけど、お湯でふやかしたりして、塊をほぐしてやった。
身体はもっとひどかった。
ぼろ布の服を着ていたことと、身体自体汚れていたので気づかなかったが、背中一面に切り傷の後があった。
刃物の後だ。
事故とかそういうものではないだろう。
爪は半分くらいがはがされた状態で、半分は本来の半分くらいしか生えていない状態だった。
右手は指先が第一関節のあたりで指なのか爪なのか、よくわからない状態になっている。
手足のやけどもひどい。
お尻は殴られて黒く色素沈着していた。
何度も皮膚が破れたのだろう。
ごつごつして、少女のお尻とは思えない固さになっていた。
首や脇腹など生き物として弱い部分もやけどや切り傷がびっしりあった。
これを直視できる人間がいるだろうか。
もしいるとしたら、それはきっと悪魔だ。
オレはこの子がどんな生活をしてきたか考えるだけで涙が出てきた。
エイティの身体を洗いながら、オレは涙が止まらなかった。
「ご主人様?どうされたのですか?」
「いや、なんでもない。」
そういって、オレはごまかした。
そうだ。オレは村では回復魔法が使えた。
どこまで治るかは分からないけれど、この子の傷を治してやろうと思いついた。
「エイティ、少し目をつぶってごらん。」
そういうと、エイティは少しおびえながら目をつぶった。
オレが何かひどいことをすると思ったのかもしれない。
そんなことは絶対にないのだが、まだ知り合ったばかりだ。
信頼がないのは当たり前だろう。
オレは、エイティを立たせた状態で、顔、身体、足、と個別に回復魔法をかけていった。
呪文はよくわからないけれど、黙っているとエイティがおびえると思ったので、それらしい呪文を唱えながら進めた。
「エイティ、もういいよ。目を開けてごらん。」
エイティはゆっくり目を開けた。
そして歓喜の声をあげた。
「き、きずが!きずがありません!お腹も痛くありません!!」
エイティは、自分の手や足を見て驚いていた。
念入りに回復魔法をかけたので、傷一つない、シミ一つない状態まで回復させることができたのだ。
髪もつやつやだ。
よかった。傷を見てエイティが悲しい思いや嫌なことを思い出さずに済むと言うものだ。
エイティはその場で膝まずいて手を胸のあたりで合わせて、目をつぶった。
あ、これ、神様に向けるやつだ。
オレはすでに学習済みだ。
エイティに神様と思われると最初はいいけれど、だんだん堕落してきてしまう。
ここは、魔法使い方式で行こう。
「エイティ、オレは神様じゃなくて魔法使いだよ。」
「まほう・・・つかいさま・・・」
とにかく、エイティは喜んでいるし、驚いているのがすごくわかった。
オレも身体を洗って2人で風呂に入った。
エイティはお湯につかること自体初めてだったみたいで、おっかなびっくり入っていたが、しばらくしたら慣れてきた。
エイティのために温度は少し低めにしたので、オレは少し物足りなかったけど。
風呂をあがったら、エイティの髪をドライヤーで乾かしてやった。
ちゃんとブラッシングもしたので、キューティクルつやつやで、『天使の輪』ができている。
『天使の輪』とは、昔シャンプーのCMで言っていたキューティクルの艶で輪っかのように見えるものだ。
46歳だから。
昭和の人は知っているCMだよ・・・
この世界の人は誰一人知らないだろうけど・・・
「あの、ご主人様。この温かい風が出る物は魔道具ですか?」
「魔道具・・・?ああ、ドライヤーだ。家電だよ。ああ、いや、魔道具であってるよ。」
ドライヤーは使い方を覚えてもらおうかな。
着替えは、あのぼろ布ってわけにはいかないので、脳内ネットスーパーから下着と普段着を出したものを渡した。
当然着かたを知らなかったので、着せてあげながら教えた。
やばい。
なんか変な庇護欲に目覚めそう。
今まで辛い事を経験してきただろうから、出来るだけ幸せになってもらいたい。
「ご、ごしゅじんさま・・・この服は・・・神様の世界の物ですか?」
普通のポリエステルだけど・・・
この世界には存在しない生地なのだろうな。
目の細かさは明らかに細かいし。
「オレが魔法で作った服だ。エイティ専用だから大事に着てくれよ。」
エイティは、その場でくるくる回って喜んでいた。
風呂の次は、食事だ。
明らかにエイティは栄養失調だ。
ヒールで表面の傷などはきれいになったけれど、お腹がいっぱいになるわけじゃない。
オレは、元々料理はできないので、作るのが簡単なメニューでランチを作った。
子供が大好きなハンバーグだ。
ごはんとサラダも作った。
どれくらい食べられるかわからないけれど、足りなければ冷食をチンしたらいいだけだ。
オレは、作った料理を次々テーブルに運んだ。
もちろん、エイティにも言って、いっしょに運んだ。
良いな、こういうの。楽しいし。
運び終わった頃に、エイティが変なことを聞いてきた。
「今日はどなたかお客様がいらっしゃるのですか?」
最初は言っている意味が分からなかった。
そして、ふと気づいた。
これをエイティは自分分の食事だと認識していなかったのだ。
「何を言っているんだ。これはエイティの分だよ。さあ、座って一緒に食べよう。」
まだまた戸惑っているようだ。
段々慣れてきたな。
今度はどうしたんだろう。
笑顔で待っていると、ゆっくりと話始めた。
「私のような奴隷が、ご主人様と同じテーブルで食事なんて・・・恐れ多くて・・・」
そうか、奴隷は本当に奴隷なんだな。
少しづつ変えていけばいい。
急ぐ必要はないんだ。
「エイティ、オレの国では家のみんなが同じテーブルで同じものを食べるんだ。オレにとってはこっちの方が普通なんだ。エイティも慣れてくれるかい?」
あと、えと、とおろおろしていたが、オレからのお願いだから断ることも出来ずにいる。
「は、はい。がんばります。」
頑張ることはないのだけれど、オレにとって当たり前のことは、エイティにとっては頑張らないと出来ないことなのだ。
時間をかけて慣れてもらおう。
オレとエイティは食事を始めた。
お箸はもちろん、フォークもナイフもこれまで使ったことがなかったみたいだ。
ゆっくり教えながら食事を進めた。
別に今日出来なくても困らない。
それよりも、楽しく、美味しく食べることができたらエイティにとって良いことだろう。
今日の課題として、『食後の皿を流しまで持っていく』と言うミッションを課した。
洗い物は食器洗い機があるし、元々冷食だから荒い物ってあまりないのだ。
まずは、準備と片づけを出来るようにしていこう。
今日の仕事は終わったと思ったが、ベッドも場所と使い方を教えないと・・・
幸い2階にはもう一部屋あったので、そこをエイティの部屋とした。
聞けば、今まではいつも床は板張りみたいなところだったらしい。
ベッドに寝るように言っても、きゃあきゃあ喜ぶのではなく、緊張しているみたいだった。
オレはオレで、エイティがパジャマに着替えるのを手伝ったけれど、冷静だったよ?
まあ、食事、風呂、着替え、ベッドとエイティの身の回りの世話をしているのは実際にはオレだから、どっちが奴隷なのかは何とも言えない。
しばらくは一人の時間が大幅に減るな・・・
そんなことを考えつつも、オレは自分のベッドで眠りについた。
オレも疲れていたんだな。
今日もバタンキューだった。




