4話 別れ
「あ、ごめん。もうダメみたい。」
その言葉とともに結界が崩れ始める。
崩壊が完全に終わるとウルズが囚われた岩窟が姿を現す。
見るからにぼろぼろのウルズはこちらを悲しそうな瞳で見つめている。
「レンジ君」
「ああ、なんだ?」
突如名前を呼ばれ、若干挙動不審になってしまった。
「この世界はね、神が好き勝手に星の力、リソースを使いすぎてボロボロなんだ。そのせいでバグとかエラーが大量に起こっている。そいつらはこの世界で生活するあらゆる種族を傷つけ、争いを起こしているんだ。.......だから、君たち『異界の勇者』達にはね、そのバグを倒し、最終的には神を討って欲しいんだ。」
「!!!」
かなりスケールの大きな話だ。
「大丈夫。と言い切れたらいいんだけどね。『異界の勇者』に授けられる特殊技能でもあいつらを確実に討てるところまで行くには相当な研鑽と才能が必要なんだ。だから無理にとは言わないよ。何年後でも、何世代後でもいいからどうかこの世界と人々や生物たちを守って欲しいんだ。これがボクからの最期のお願い。」
正直出来るかどうかはわからない。ただ、ウルズの純粋な悲しそうな瞳を見ていると、彼女のこれまでの憂いが伝わってくるようで、彼女の愛したこの世界を護ってもいいかもしれない。
そう思いが固まるとともにウルズにその意思を伝える。
その答えを聞きながらまたウルズは涙しながら喜んでいた。
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ウルズから自分のユニークスキルの概要について聞き、話し終わったところで彼女の身体に異変が起き始める。
「もうお別れだ、レンジ君」
「そう、みたいだな。」
彼女の足が光となり始めていた。これが神の死というものなのだろう。
「君はボクが消えると同時に君のクラスメートの元に送られる術式を組んだから安心してね。」
「わかった。」
クラスメートたちも一緒に来ているのはウルズと話していた時に聞いていた。
.......元気だろうか。
そのうちにウルズの体の末端から光となっていき、枷が嵌っていた部分が光となると同時にウルズの身体が地に落ちる。
「ウルズ!」
僕は駆け寄ってその体を起こしてやる。
するとウルズは死の間際だというのに笑い始めた。
「やっと、触れられた.......レンジ君、暖かいね。」
「そうか?」
「うん、ずっとこうしていたいぐらいだよ。あ、最後のお願いしてもいいかな?」
ふと、ウルズが思いついたように言う。
「それはさっき聞いたよ。」
「いや、あともう一個だけ!」
必死に頼むその姿に苦笑してしまう。
「ああ、で何をしてほしいんだ?」
「えっとね、ボクが消える前にさボクを『吸収』して。」
「.....」
『吸収』。
それが僕に授けられたユニークスキルの名だ。
それは文字通り『吸収』する技能である。
それは生物でない限り何でも―――それこそ霊魂でも『吸収』出来てしまう。
しかも、霊魂などならその能力まで自分のものにできてしまうある意味かなり恐ろしい技能である。
しかし、吸収するということは.......
「それは僕に縛られてしまうんじゃないのか?」
「うーん、普通の霊魂なら大丈夫なんだけど、ボクの場合だとそうなるかもね。......でもボクはそうして欲しいかな。きっとこのまま消えたらウルズという存在も消えちゃうから......ね?」
何も憂いた風ではなくむしろ嬉しそうに話すウルズ。
「ああ、わかったよ。」
そう言って僕は何故かウルズを抱き留めてしまう。
「えっ!?.......急には反則だよ......」
首の後ろから驚いた様子の彼女の声が聞こえて、若干腕を緩める。
ウルズの顔は真っ赤だ。
「ご、ごめんなんか急にそうしたくなって......」
「ううん、いいよ。嬉しかったから。.......もう一回お願い。」
恥ずかしそうにそう言うウルズをもう一度引き寄せる。
「最期にいい思い出をありがとう、レンジ君。.......じゃあ、ひと思いにやっちゃって。」
「ああ、それじゃあまたな、ウルズ。短い時間だったけど、楽しかったよ。」
「うん、またね、仲間たちと元気にね。」
僕は深呼吸をして、気を引き締める。
「『吸収』」
そう唱えると同時に腕の中のウルズが光り始め、どんどん僕の中にその光たちが吸収されていく。
そして輝きが収まると同時に、腕の中の感覚が消え、同時に僕の意識も闇の中へと落ちていった。
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