1話 始まりの声
新作です。
心機一転頑張ります。よろしくお願いします。
それはそれは白い世界。
僕が目覚めたのはそんな場所だった。
「あれ?ここは?」
何もない白い場所。そこでぽつりと独り言ちる。
「ここはあなたの世界で言う所の謁見の間といったところだと思いますよ。サカキバラ・レンジさん。」
そして、返答の無い筈のその独り言は背後から聞こえる無機質な声が応えた。
声が聞こえたほうへ顔を向けると口元だけを開けた白いローブ姿が立っていた。
「改めまして、こんにちは。......いいですね、この”アイサツ”というのは。あ、すいません、僕はこのセカイの神のウルズと言います。頭の中身は大丈夫ですか?」
挨拶に感銘を受けながらサラッと失礼なことを言う、自称・神。
誰が低脳だ。確かにテストの順位は中の下から良くなったことはないけど。
そういえば......
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―――地球時間にして1時間ほど前
8月中旬、まだまだ暑さのピークが抜けきらない時期のなんてことはない一日。
僕は、朝だというのに気温が25度を超え、蒸すような空気の中、竹刀を振っていた。
「123......124......」
幼馴染の道場で汗を垂れ流しながら日課の200回素振りをする。
だが、今日は夏休み中だというのに何故か登校しなくてはいけない日であったので(理由は思い出せない)、早めに切り上げようと150を数えたところで素振りをやめる。
時間は6:30。ちょうどいいぐらいの時間だろう。
僕は道場でシャワーを浴びて制服に着替え、隣の母屋に向かう。
幼馴染の母親(いつもはおばさんと呼んでいる)に軽く挨拶を済まし、朝に弱い幼馴染を起こしに行く。
「おーい、今日は学校だぞ、燐華」
部屋のドアに向かって声をかける。
しかし返答はない。
僕は溜息をつきながら息を大きく吸い込み、そして、
「楠流門下生五規則、其の一!」
そう大声で呼びかける。
1秒もしないうちに部屋の中が騒がしくなり、ドアが開き、パジャマ姿の幼馴染、楠 燐華が慌てた様子で出てくる。
「縁を大事に!......って斂二か、いつもすまんな......」
「そう思うなら朝ぐらい起きてくれ」
正直、このやり取りが何回目かわからない。
「じゃあ早く着替えて下に集合。おばさんがもうご飯作ってるから」
「ああ、ありがとう」
そう燐華に伝えて僕は1階のリビングへ向かう。
1階へ降りるとおばさんが既に4人分の食事を用意していた。
「いつも燐華がごめんね~おかげで助かってるわ~」
ふわふわとした喋り方でそう言うおばさん。
「本当だな、燐華も少しは斂二君の爪の垢を煎じて飲んでくれたらいいのだがなぁ」
そう眉間に若干の皺をよせるおじさん。
またの名を楠流師範代・楠 正嗣。僕の剣道の師匠である。
そして、この二人は両親が離婚、保護者であった父が交通事故で死んだあと、引き取ってくれた恩人であり今となっては彼らのことを僕は本当の親のように思っている。
感謝はしてもしきれないだろう。
そんな二人と雑談を交わしているうちに着替え終わり、リビングにやってくる。
「いただきます」
4人分のいただきますとともに朝食をとり、学校へ向かう。
それが僕、榊原 斂二の何の変哲もない日常であった。
学校に着き、教室へ入る。
「おっ、流石リンレン夫婦は今日も熱いですなぁ。実はこの暑さってお前たちのせいじゃないのか?」
おちょくりながらにやけているのは僕の親友......悪友の鷲見 昌。
「またあなたは......燐華にシバかれるわよ」
そう苦笑しているのは銀 怜。
「ははは、今日も賑やかだね」
微笑む優男は竹下 直人。クラス一のイケメンだ。
「いちゃつくなら外でやってくれ......」
怪訝そうにつぶやくのは釘沼 照介。金髪ヤンキーといった風貌の彼は去年まで本当に問題児だった。尚、金髪は地毛である。
この4人と僕たち、あともう一人遅刻魔であるムードメイカー、武村 千陽を含めた7人は小学校時代からの付き合いで所謂、いつものメンツってやつである。
「おはよう、毎回それ言ってて飽きないの?」
僕が苦笑しながら昌に訊ねる。
「飽きないなぁ~だって一々反応してくれるやつがいるしなぁ」
燐華のことである。
なおこの後、昌が燐華につるし上げられるとこまでがセットである。
しばらくふざけあっていると先生が入ってきて、HRが始まる。
その途中で教室のドアが勢いよく開く。
「すいません遅れましたぁ!」
どうやら遅刻魔が来たようである。
「お、今日はいつもより1分早いじゃん」
昌がいつものように揶揄う。
「でしょー褒めてもいいんだよ?」
「武村、遅刻と。じゃあHR続けるよー」
得意げな顔をしていた千陽は担任の容赦ない一言でバッサリと切られる。
不満げな顔をした千陽が席に着き、HRが再開し、5分ほどで先生が立ち去る。
......まさかこの後、生徒たちが突如全員消えるとはこの時誰もが予想出来なかっただろう。