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私のお母さんになってと告白したら異世界でお母さんが出来ました  作者: れんキュン
1章 お母さんになってと告白したら異世界でお母さんが出来ました
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異世界で母娘は笑う



 大陸東部に位置する勇成国。

 列強諸国である西の大国スペルディア王国、北の軍事国家ローテリア帝国と隣接し、東には広大な海に面している。

 大きさとしてはスペルディア王国の半分、ローテリア帝国の居住圏と同等のこの国は列強の一部となっている。


 名前にある通り、勇成国は初代勇者によって建国されたとある。

 新生暦300年頃、魔界と呼ばれる人類の住まう世界とは別の世界から悪魔たちが侵略してき、それに対して人類は抵抗を繰り広げるも、亜人と呼ばれる人種以外との確執があり人類が手を取り合う事は少なく徐々にその生存圏を脅かされていた。


 そんな中、天界より託宣が下り一人の勇者が降臨した。

 それが勇者ブレイド。


 勇者ブレイドを旗印とすることで亜人と人種は手を取り合い、勇者の理外の力により人類は徐々に魔界の軍勢に打撃を加え、十数年の時を掛けて魔王と呼ばれる敵を討ち取る。

 頭を失った悪魔たちは魔界に戻り、人類は生存を勝ち取り人魔大戦と歴史に残る戦争は幕を閉じた。


 そんな勇者は自分の仲間や、戦いの中で出会った友達と共に未開の地であった大陸東部を切り開き一つの国を作り上げた。


 国としては大国とは言えないが、大気中の魔力が豊富なお陰で肥沃な地から成る農作物に希少な鉱物や動植物から作られる装備や薬物は、大国をして無視を出来ない出来と言われている。


 初代勇者が亡くなった後、大戦の傷も癒え切っていない各国は我が物にしようと攻め込むが彼の子孫である王族の圧倒的な力によって断絶、和平条約を結ぶ運びとなった。


 初代勇者の功績は計り知れず、亜人と人種の確執を飛び越えて手を取り合ったのもその一つと言われている。

 現に、勇成国は亜人と人種が入り混じる国と成っており亜人の身体能力を生かした『自衛隊』と呼ばれる軍に代わる組織は専守防衛を掲げ、その力を国防と治安維持に割いている。


 そして現在では多くの夢追い者の生業となっている『冒険家組合』。


 初代勇者が作り、彼の仲間の一人が長に立つそれは国家の垣根を超え、様々な依頼を取り揃え、あらゆる者が訪れる仲介組織。

 過去の経歴の一切を求めない。移民だろうが元犯罪者だろうが、名前とその身一つさえあれば誰でもつける職業。


 誰もの夢であるドラゴン退治から盗賊退治、街の下水施設の掃除に逃げ出したネコの捜索まで、金を出す依頼人の数だけ多種多様な依頼がある。


 勿論、それはセシリア達の住むカルテルという辺境の街にも存在する。

 というより、この街が発祥とされている。


 そして新生暦658年。恵みの春。


「すっごい人……」

「そうですねぇ」


 二人はデートの第一歩として街の大通りに向かった。

 二人を迎えるはあらゆる人々の発する熱気と賑わい。


 辺境の街『カルテル』。

 そこは街の北部に広がる禁忌の森から得られる様々な資源によって、多くの人と物が入り乱れ、辺境にも関わらず一番金が動く場所。

 二人はその熱が一番集まる街の中心部、太陽が空高くに鎮座する時に足を運ぶ。


「あんまりこっちの方には来ないからあれでしたけど、ほんとに賑わってるんですねぇ」

「ここ辺境なんでしょ? それなのにこの賑わいって凄いね」


 元日本人のセシリアですら唸る人の多さ。地方都市の駅前位はあるだろうか。


「さぁさぁ! 魔鉱石を使った魔道具ならウチ!! 辺境の街一番の魔道具店と言えばウチだよ!! 見てらっしゃい!」

「アラクネアの糸で作られたコートだ!! ナイフで切ってもこの通り切れやしない! 衝撃にもめっぽう強いこのコート、今ならなんと金貨10枚!!」

「蜂蜜熊の串焼きだよ~、甘くて柔らかい、一度食べたら病みつきになるウチの串焼きは今なら銅貨3枚だよ!」


 あらゆる屋台と声を張り上げる店主たち、そして冒険家であろう人々にセシリア達の様な一般人。

 獣人に竜人、エルフにドワーフ、ホビットにラミアにミノタウロス等人以外の種族が入り混じるその光景はまさに異世界。しかしそれが自然に溶け込んでいるのがこの国の特徴だろう。

 

 基本的に亜人は生物の数だけ種類が存在する。

 人の血が濃い、耳や尻尾だけが特徴の者も、逆に人の血が薄い所謂見た目が人外の者も人種以外はデミと纏めて呼称される。


 エルフやドワーフ、ラミアや動物の耳や尻尾のみを生やす者。

 見た目が動物そのものだが、高い知性を有している存在などが共存している。


 二人は物珍しさに目を輝かせながら、異世界味溢れる中を散策する。


「とりあえず何か食べながら見ていこうよ」

「そうですね、お母さんそこの料理が食べたいです」


 マリアが指さしたのは蜂蜜蜜虫と呼ばれる蜂を焼いた料理。

 蜂蜜を主食とし、腹部にそれをため込むこの虫は非常に甘く栄養価が高い。

 蜂蜜の為の養蜂も盛んで、食用にも用いられる。女性には人気が無いが。


「虫か~、う~ん」

「セシリアは無理しなくて良いですよ? 私も気になっただけですから」


 前世の価値観が残るセシリアが悩んでしまう。

 虫が苦手では無いが初めての体験、足踏みしてしまう。しかしここで断ればマリアは美味しく食べれ無いだろう。

 好奇心旺盛なマリアの願望を無下にするのは……。


「良し、女は度胸!! おじさん5匹ください!」

「お嬢ちゃん!? 食べるんかい?」

「はい!」


 見た目がただの熊である店主は逡巡するも、客は客。代金である銀貨1枚を貰うと焼かれたミツバチが入った容器を手渡す。


「大丈夫ですかセシリア、無理しなくて良いんですよ?」

「大丈夫、ちょっと初めてで緊張してるだけだから」

「それなら良いんですけど……」


 お互いが木のフォークを手に息を呑む。

 両者ともに虫料理は初めてで緊張してしまう。

 意を決してそれを口に運ぶ。

 瞬間二人は目をカッと見開く。


「あまぁぁぁい!!」

「あら、結構おいしいんですね」


 二人はその美味しさに舌を巻く。

 見た目が蜂であることを除けばそれはまさにおやつで、食感もサクサクと口当たりが良く染み込んだ蜂蜜は甘すぎる薄すぎず、まさに甘味と言える。


「おや、人種の女が虫料理って珍しい」


 二人は無警戒に声の方に顔を向ける。

 そこには上体は人間の美女だが、複眼で肌の露出が激しいシャツを着込む下半身は大きな蜘蛛の、所謂アラクネアが珍しそうな顔をしていた。


「わっ! スっごい美人オヤコ!」

「ホントだぁ。あ、蜂蜜蜜虫食べてるぅ、あたしも食べよ~」


 その後ろから、青色のスライムの女の子と見た目が完全に二足歩行の等身大の猫であるホットパンツとシャツの猫系獣人の女の子が後ろから顔を出す。

 アラクネアは完全に成人女性の見た目だが、後の二人はセシリアと良い勝負の幼さだ。


「? 初めまして」

「あら、ちゃんと挨拶できるなんて偉いわね。はじめまして、ほら、あんたたちも挨拶位しな」

「ハジメマしテー、スーです」

「もぐもぐ……ハロっす! ミーはイヌ! ……猫なのに……イヌ……ププ……」

「いや別に名前まで言わなくても良いって……」


 最後の猫獣人の少女の自己紹介で、セシリアは顔を引き攣らせてしまう。

 社交性は培ったがそれは飽くまで従業員と客が主、初対面で冗談を言われて直ぐに返せる程では無かった。


「それで、私達になにか?」


 だがそこは流石の母マリア、完璧なスルースキルで場を回す。


「あぁいや、別に何かあった訳じゃないよ。ただ虫料理を人種の、それも女が食べているのが珍しくてね」

「あぁそうでしたか、私達も初めてだったんですけど、ちょっと好奇心で」

「へー、良いねそう言うの。あ、私達は用事あるから、またどこかで」

「マタねー」

「プフ……ワンでニャー……」


 嵐の様に過ぎ去っていく三人の背を見送る二人。


「何だったのかな?」

「さぁ。それより食べ終わった事ですし次に行きましょう?」

「そうだね!」


 気を取り直してデート再開! と生き込んだ二人は色々な露店を冷やかしながら進んでいく。


 二人は、宝石を加工して作られた装飾品が並ぶ露店の前で足を止める。


「きれーだねー」

「ホントですね、あら結構お手頃な価格なんですね」

「お! お客さんお目が高いね! ここら辺は帝国で今最高に伸びてる宝石商の商品だよ!」


 そこには色とりどりの美しい宝飾品の数々が並んでいた。

 セシリアとマリアはそれぞれ、覗き込むように眺める。


「あ……」


 セシリアが見つけたのは空色の宝石をネックレスにしたもの。

 派手な装飾は無い、素材の味を生かした上品でシンプルな物だ。だが元の宝石の価値もあるのだろう、その値段は手が届かないと言う事は無いが、思わず躊躇ってしまう値段。


 二人の瞳と同じ色をした宝石のネックレスに、目が釘付けになっているとマリアが隣に立つ。


「何か良い物見つけましたか?」

「え!? あ、うぅん、ちょっとあんまりだったかな~、次いこっか!」


 セシリアはやや強引にマリアの手を取りその場から離れる。

 去り際、一瞥だけして気持ちを切り替える。


 宝石を加工した装飾品を取り扱う露店から離れた二人は、武器屋を目にする。


「お母さん見て! 魔剣だって!!」

「まぁ! これは炎の魔剣ですか!?」

「お嬢さん方、随分と似合わねぇけど剣とか好きなんか?」


 花より団子、団子より冒険、冒険と言えば剣。

 二人は男子の様に魔剣を前にして目を輝かせる。


「うん、カッコいいじゃん!」

「ですね。私もこう、剣を片手にバッサバッサと戦いたいものです」

「いや、嬢ちゃん達の細腕じゃ無理だろ」

「むっ、無理じゃないもん」

「ちょっ、あぶねぇって!」


 ミノタウロスの店主の売り言葉に頬を膨らましたセシリアが、目の前にあった両手直剣を掴む。

 10歳の少女だ、よしんば持てたとしてもぴっぱられて転んでしまう。大事な商品に傷つくだけでも大変なのに怪我までしたら、と店主は腰を浮かすも目を剥いて止まる。


「どうよ!」

「嘘……だろ?」


 セシリアは両手直剣をあろうことか片手で持ち、更にそれをいとも簡単に振り回す。剣の重さを感じていないような笑顔で。


「流石セシリア、力持ちさんですね」

「ふへへ。はいこれ、勝手に振り回してすみません。行こ、お母さん」

「あ、はい。どうも」


 親バカな感想を言う母に気分良くしたセシリアは、満足したからかお礼を言って手をつなぎ直して店を後にする。

 残されたミノタウロスは手のひらに乗る剣のずっしりとした重さを確認し、ただ呆然と母子の後ろ姿を見送る。


「おや? 見てくださいセシリア、どうやらそこで何か出し物がやるみたいですよ?」

「んん、何々? 『来たれ力自慢よ! 自慢の筋肉を魅せるために費やした努力を、今ここで発揮しようではないか!!』アームレスリング……腕相撲か!」


 見れば筋骨隆々の男達が受付の様な所に並んでいる。

 しかも優勝すれば超希少な高級肉とだって交換できる商品券。男達の目はやる気に満ち満ちている。


 その姿を見てセシリアもマリアも思わず疼いてしまう。


「お母さんもやってたいです!!」

「なら私これに出る!!」


 二人は意気揚々と列に並んだ。


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