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愛情

 



 物音一つしない部屋に、静かな寝息が一つ。

 蝶番の音すら立てずゆっくりと扉が開くと、影の中を人影は足音を殺して歩く。

 まるで水の中を歩いてるような緩急で、衣擦れの音一つさせずその人影はすやすやと1人の美しい女性が眠るベットに近づく。


 窓から漏れる月明りが、ベットで眠るマリアを照らす。

 先ほどまで何かを抱きしめていたのか、横抱きになっているマリアはややベット脇にずれている。


 月明りが人影を映すと、そこに立っていたのはお仕着せ服を着ているメイドだった。

 メイドは暫くマリアを見下ろしてたが、何かを探す様に視線を左右に向ける。

 しかし目的の物は見つからなかったのか落胆の色を僅かに浮かべると、今度は右手を長いスカートの中に入れ……ナイフを取り出した。


「すぅ……せしりぁ……」


 寝息を立てながら、寒さに耐える様に身を縮こまらせるマリアを、メイドは憎しみの籠った怒りで顔を歪めながらナイフを両手に構えて高く掲げた。

 一つ息を吸いこむと、そのナイフをマリアに突き刺そうと——。


「——!?」


 した瞬間、メイドの背後から誰かが首を絞めつける。

 右手で確実に首を絞めつけ、左腕で補強する。

 その右手首には真紅のシュシュが付いていて、メイドの背後からセシリアの真紅の瞳が覗く。


「——!! ——!!」

「……ふっ……んっ……」


 確実に頸動脈を締めている呻き声一つ出せないメイドを、セシリアは息を殺して微塵も容赦しない。

 顔を真っ赤にして暴れるメイドを、セシリアは後ろに引きずりながら姿勢を低くする。

 眠るマリアを起こさない配慮だが、それがまた本気さを伺わせる。

「——!!」

「ぐっ!?」


 抵抗するメイドは、右手に握られたままだったナイフを必死の形相で腕に突き刺した。

 肉を裂き、骨に当たる鈍い音が響きセシリアは苦悶の声を上げて一瞬力が緩むが、唇を噛んで更に首を絞める両手に力を籠める。


 その間も必死でナイフを突き刺して抵抗するメイドだが、次第にその抵抗も弱まり、最後にはアンモニア臭を漂わせながら力なく腕を下ろした。

 それが演技では無い事を見届けると、セシリアは血だらけの腕を外して顔を顰めながらナイフを引き抜く。


 ずぷりと引き抜かれた腕からは、どす黒い鮮血がだらだらと溢れて真っ赤なカーペットに染みを作ってしまう。

 折角マリアを起こさないで済ませられたのだ、明日までの何とか証拠隠滅しときたいのだろう。


「治れ」


 魔法を使えば、白い光と共にセシリアの傷は跡形も無く戻る。

 相も変わらず強力な魔法ではあるが、痛いものは痛いのだ。痛みの残滓に顔を顰めながらセシリアはメイドの処理をするべく身を屈めたが、背後でまた誰かが扉を開ける気配がして人間相手には過剰な威力を誇る50口径をそちらへ向けた。

 冷える様な真紅の瞳が、照準の向こうに据えられる。


「大丈夫? 愛衣」

「オフィ……千夏ちゃん」


 だがそこに立っていた人物を見て銃口を下げる。

 オフィーリア——千夏——はドアに凭れ掛りながら心配そうな表情をしていて、問題ないとマリアを起こさない様に小さな声で答えながら、メイドを抱えて部屋の外へ放り捨てた。

 呻き声を上げ尻をつき上げながら気絶するメイドを、冷めた目で一瞥する。

 自分たちを殺そうとしていた相手だ、殺されないだけましだと思って欲しい。


「彼女を恨まないであげて。彼女の実家は魅了魔法によって国難に陥ったね、家族全員飢え死にしちゃったから。この国はそんな人ばっかなの」

「まぁあいつに比べればマシだから良いよ」

「あいつ?」

「……それより、後始末を手伝って貰っても良い?」


 ダキナに比べればマシだから。流石に人殺しには抵抗のあるセシリアはダキナ以外殺そうとはしないが、それでも未だ纏わりつく殺気は肌がヒリつく程だ。

 無言で頷くオフィーリアと共に、血や失禁の後を始末する。

 お互い無言で、何を話せば良いのか分からないと言うかの口籠っている。


 が、最初に沈黙を破ったのはオフィーリア。


「お互い……随分変わったわよね」

「……だね。私なんて天使と悪魔の子だよ」

「だからそんな中二ファッション? それを言うなら私は宝石人とかいう亜人よ」

「これは趣味。お互い人間じゃなくなっちゃたしね」


 片や悪魔と天使の混じり子。片や虹色に輝く宝石の擬人化の亜人。

 お互い前世では普通の女子高生だったのに、随分様変わりしたものだ。

 セシリアは苦笑交じりに真紅の緩く垂らされたネクタイを緩め、オフィーリアはセンスの良い黒のドレスの袖を巻き上げた。

 二人共、前世では着た事の無いファッションに揃って小さく笑う。


「ま、変わっていない所もあるけど」

「む、まだ成長期だし。いつかお母さんみたいなボンキュッボンになるから」

「でっかくても邪魔なだけだよ? 良いじゃん、キュッキュッボン、私は好きよ?」


 前世で陸上をしていた時同様、オフィーリアは健康的に引き締まった体型をしている。それでいて、胸も大きすぎず小さすぎず、モデルの様な綺麗な体型だ。

 冗談まじりに指摘されたセシリアは、豊かな胸部を誇る母とは逆に慎ましやかすぎる胸部をため息混じりに見下ろす。

 筋肉がついて胸なのか胸筋なのか分からないし、その癖臀部だけはマリアと同じように魅力的なのだから、なかなかに悩ましい所だ。


 しかしそれですら、魅力的に見えるのだから美形というのはお得な物である。


「それよりさ、さっきの魔法だよね。やっぱチート転生?」

「んー、まぁそうなるかな? 希少魔法だし、体質も設定盛りまくりだし……あ、でも魔法は後天的だよ。千夏ちゃんは?」

「私もあるわよ、未来視の魔法。先天性だから苦労は無かったわね」

「そっかー、私が魔法を使えるようになった時は死にかけたな―」


 聞かせて、と言われてセシリアは自分の魔法を覚醒させるまでの経緯を語る。

 草木も眠る丑三つ時だが、招かれざる客への応対で目が覚めているセシリアには、丁度良い時間つぶし。


 それから、セシリアは新しく生れ落ちてから今日までの事を話した。はじめは目の色もマリアの同じ空色だった事。自分の不注意でマリアが死にかけた事。死ぬ思いをしてアイアスと出会い、魔法を手にした事。

 自分が実は魔王の娘だという事。

 話し終える頃には、セシリアの喉は乾ききっていた。


「嬉しかったなー、前世の記憶がある。言っちゃえば中身は他人の子供のなのに、自分の娘だって受け入れてくれた時は……」

「はぁ……やっぱり愛衣は変わらないわね……誰かを助ける為に危ない事をしちゃうんだもん」

「はは……」


 愛衣の最後は見知らぬ子供を庇って車に轢かれた。それはセシリアになっても変わらない。

 そんなセシリアの変わらない危うさに、オフィーリアは深いため息をついてしまう。

 自覚している部分もあるセシリアは、困り笑いで誤魔化した。


「あ、千夏ちゃんは前世の事を親に話した?」

「……話してないよ」

「そっか……」


 前世の記憶があるだなんて、まずもって話す事は出来ない。セシリアだってきっと普通に、平穏に生きていれば話す事は無かっただろう。

 話せないよね。と納得するセシリアに反し、オフィーリアは詰まらなそうな表情を浮かべたまま肩を竦める。


「うちの親は……まぁ特に父親なんて、子供に興味のない人なんだもん」

「そうなんだ……やっぱ王族って家族愛が薄いものなの?」

「んー、うちの父親は特に魅了魔法被害者の筆頭だからね。自分が本当に愛していた人を自分の手で殺しちゃったから、いつまでも過去に囚われているヘタレなんだよね。母親も父親も、業務連絡以外に会話する事は無いかな」


 寂しい家庭環境を語るオフィーリアに、セシリアは気づかわし気に押し黙る。

 父親こそいないセシリアだが、マリアは溢れんばかりの愛情を持って育ててくれたし、トリシャやガンド。そしてラクネア達と言った優しい人たちによって寂しさなんて欠片も覚えた事は無かった。

 それこそ、前世での家庭環境をあっさりと塗りつぶしてくれる日々だ。


 しかし、それを語るオフィーリアは一切気にした素振りは無い。


「まぁ私の家庭環境は別に良いの。そろそろ寝ないと明日に障るし、寝ましょ? 護衛を置いておくから安心して良いからね」

「んー、分かった。それじゃ、また明日」


 それじゃ、と立ち去ったオフィーリアが言った通り、ドアの向こうに騎士が配置され部外者は入って来れないようにされる。

 ひとまずの安心感と緊張感が解れ眠気が襲ってきたセシリアは、穏やかに眠るマリアを抱きしめて床に着く。


 決して装備を解かない警戒態勢のまま、腕の中に納まる確かな温もりに安堵する。


「ママは私が守るからね」


 決して離さないように、しっかりと抱きしめるセシリアに先ほどまで眠っていたマリアの瞼が薄く開かれる。


「ん……せしりあ?」

「起こしちゃった?」

「いえ……夢を見てたんです。貴女が……遠くに行ってしまう夢を」

「そっか、大丈夫だよ。私はずっと一緒に居るからね」


 きっと先ほどのメイドの殺気に当てられたのだろう。

 不安を追い払ってあげる様にセシリアが言葉通り力強く抱きしめてあげれば、マリアも背に手を回して安心する様に深く息を吐く。

 悪夢を見た影響だろう、少し汗ばんだ匂いがセシリアの鼻を突くが、嫌いでは無い。


 それよりも、血やアンモニアの匂いがしないか少し心配だ。


「……大丈夫ですか?」

「何が?」

「なんだか……辛そうな表情をしていたので」


 ふと問われて、セシリアがマリアの方を見れば彼女はセシリアの顔を心配そうに見上げていた。

 気付かれた? と内心冷や汗なセシリアだが、どうやらそうでは無いと分かると心の中で一つ息を吐いた。


 そんなセシリアの内心を露とも知らず、マリアはセシリアの頬に手を当てる。

 暖かいが、指先が少し冷たくて心地よい。


「我慢しないで下さい。私では戦いの役には立てないですが、不安を取り除く事くらいは出来ますよ?」


 それでも、セシリアの心を見透かしたように微笑む。

 セシリアだってしたくて誰かを害してる訳じゃない。本当なら、痛い事も苦しい事も知らずに生きていたい。

 でもそれを周りが許してくれないのだ。


 大変で、痛い事ばかりで、面倒しかない冒険家の仕事をしていた時だって何も悪いことをしていないのに大切な人たちが死んだし。今だってあのまま呑気に眠っていたらマリアが殺されていた。

 誰かを護る為には、誰かを傷つけなくてはいけないのだ。

 しかし非情になり切れないセシリアは、その度に心が軋んでいく。


 それを癒してくれるのが、たった一人の家族。


「…………じゃぁ。ぎゅってして」

「こうですか?」

「もっと。痛い位」

「はい。苦しくないですか?」

「うん」


 愛娘の要望通り、マリアは力一杯セシリアを抱きしめる。身長はセシリアの方が高いが、同じベットで並んで眠る二人には関係ない。

 甘える様にセシリアが胸元に顔を埋めれば、マリアは優しく頭を撫でてあげる。

 そのまま、赤子を眠らせる様に優しく背中を叩けば後数分もすればセシリアが眠りにつくだろう。


「よしよし。眠れそうですか?」

「ん……」

「良かった。眠る迄こうしてあげますから、ゆっくり休んで下さいね」


 その声がとろんとして来たのを確認したマリアは、懐かしさを覚えながらあやし続ける。

 マリアの心臓の音を聞きながら、セシリアは朝までぐっすりと眠りに着く。

 朝が来ても、二人は決して互いを離さず眠り続ける事が出来た。



 ◇◇◇◇



 セシリアの部屋を後にしたオフィーリアは、自身の部屋への廊下を無表情で歩く。先ほどまでセシリアと話していた時は打って変わって、そこには何の感情も浮かんでいない。


「やっぱり私が守ってあげないと、愛衣は危なっかしいわね……にしても、マリア……ねぇ」


 コツコツ。と床を踏み鳴らしながら、オフィーリアは神妙に呟く。

 余りに無機質に、炉端の石を見る様な冷たい声だ。

 ふとその足が止まり、壁に掛けられた儀式剣を見上げる。


「…………殺すか」


 殺気は籠められていない。ゴミがあったから捨てとくか。とでも言うような淡々とした物。

 だが凍えそうな冷気の様な、狂気がその虹色の瞳には浮かんでいる。

 しかしその狂気も、正面からこちらに近づいて来る人影に気付くと瞳の奥に潜められた。

 その相手はオフィーリア(千夏)にとって良く知った人物所か、もっとも近い人だ。


「こんばんは、陛下」

「オフィーリアか、こんな夜更けに出歩くとは何かあったのか」

「友人に会っておりました」

「友? そうか、それは構わないが余り夜更かしはするな」


 対面に現れたのはオフィーリア(千夏)の父——マクシミリアン。絶世の美形とはまさにこの事で、大人の渋さと元来の甘いフェイスが、イケメンなんて言葉が甘く思えるほどの美形だ。

 しかしその双眸は翳挿していて、正統派のイケメンの容姿にも関わらず甘く強い酒の様な魔性の魅力を放っている。


 目の下に隈を作った何処か虚ろな目は、オフィーリアを視界に入れてはいるが見ていない。

 オフィーリアにだけでは無い、沢山いる側室にも、伴侶である王妃にも。多くの実子達にも等しくこうなのだ。


 だからこそ、オフィーリアも父とは呼ばず陛下と呼ぶ。


「陛下こそ、この時間まで執務ですか」

「あぁ、豊穣祭の最終日は各国から国賓が来るからな。特に今年は、ローテリア帝国の新皇帝と勇成国の王太子の調印も兼ねている。仕事は山積みだ」

「我が国の為に身を削る姿勢、感嘆の念を禁じませんが、ご自愛下さいませ。陛下はこの国の王なのですから」

「…………これしきで倒れる事は無い。あの者達の無念を思えば、これ位なんて事は無いのだから」


 ギリッ。と歯が軋む音がオフィーリアから鳴ったが、それはマクシミリアンには届かない。


(イライラするなぁ)


 笑顔の下で、オフィーリアは腹の奥が湯立ち上がるような苛立ちが湧きあがる。

 愛する人を、洗脳されていたとはいえ自ら殺したら病むだろう。

 大切な国を荒れに荒らされ、それを止める所か自らその原因の一端を担っていたから。


 同族嫌悪。

 決してオフィーリアは認めないが、頭の中では理解している。

 同じ愛する者が死にゆく所を、見ている事しか出来なかった。無力に抗えなかった後悔を抱いている。


 目の前のマクシミリアンはただただ後悔を抱いて生きている。王としての職務にひたすら没頭し、贖罪としているのだ。

 ただ無為に、与えられた仕事に没頭する事で他の事を考えないようにしている。


 オフィーリアも千夏の時はそうだった。

 後悔を抱えて生きて、無為に日々を過ごして。気を紛らわせる為に何となくバイトをしていた。


 同じだからこそ、苛立ちが止まらない。


(違う、私はもう変わった)


 笑顔というのは便利な物だ。

 例えその人がどんな感情を抱いていようと、その笑顔が完璧であればある程それを覆い隠す。

 オフィーリア(千夏)は決して認めない。この過去に囚われ、多くの命をその背に背負うにも関わらず自分勝手な贖罪の日々を送る、この()を。


 親だった事なんて無い。

 ただ王族としての義務を果たすために、自らが愛した女以外の女を抱き、王族らしく世継ぎを淡々と作るだけの男。

 愛情を注がれた事なんて無い。

 その腕に抱かれたことも無いし、愛を持って名前を呼ばれた事なんて無い。


 セシリアを探すために力を蓄え、地球の知識を使って地盤を固め女だてらに継承権を上位に繰り上げても、褒められた事なんて一度も無かった。


「そうですが、ですがそう思うならなればこそです。明日も忙しいのですし、休まないと取り返しのつかない事になりますよ? 人間、あっさりと死んでしまう物ですから」

「あぁ、そうだな。今日はもう休むとしよう」


 でも構わなかった。初めから親になんて興味は無かった。

 |オフィーリアに生まれ変わった時から、思うのはただ一人。

 たった一人の為に焦燥の日々を過ごし、狂う程の執着で心を壊しながら——否、初めから壊れていた心を動かしていたから。


「そうそう、陛下。式典の警備の件ですが、人員の再配置に伴い変更が出たので、こちらで調整しておきました。後ほど、確認の方をよろしくお願いいたします」

「そうか、すまない。明朝にでも目を通しておく」


 深々と頭を下げるオフィーリアだが、明らかに別れの空気だというのに父親であるマクシミリアンは動く気配はない。

 訝しんだオフィーリアが、顔を上げればマクシミリアンは珍しくこちらの眼を見ていた。

 相も変わらず虚ろで心をどこかに預けている様な目だが、恐らく生まれて初めてだろう。父娘の眼が合う。


「夜会に……あの眼を持つ者が現れたと聞いた……本当か」

「えぇ、今は私の私室の一つで保護しております。申し訳ありませんが、陛下といえど彼の者が私の庇護下にあります」


 報告されない筈が無い。この国において真紅の瞳とは悪魔である証左以上に、最悪の事態を齎した女の傷痕なのだ。

 こうなる事が分かっていたオフィーリアは、予め私怨の無い手駒を用意し二人を手厚く保護したが、目の前の男が私怨に動かされて行動されるのは不味い。

 遠回しに手を出すなと釘をさすが、オフィーリアの予想に反しマクシミリアンは僅かに表情を強張らせるばかりで激昂した様子も無い。


「そうか……魅了の魔法はあるのか?」

「いえ、希少魔法持ちではありますが、治癒系統に属する物なので問題はありません。もう一人の方も非魔法使いと確認はとれております」

「なら良い……真紅の瞳に対し強引な手段を取る者も多い、気を付ける事だ」

「ご忠告、痛み入ります」


 結局。二、三言を交わしただけでマクシミリアンは立ち去って行く。

 その背を深々と頭を下げて見送ったオフィーリアは、確実に立ち去ったのを確認すると、笑みを消した顔を上げる。

 彼の去った方を見つめる目には、蔑みの色が浮かんでいた。


「……つまらない男。まぁ、余計な事をしなくて済んで良しとしよっか」


 結局、最後まで親子らしい会話一つせずにオフィーリアは踵を返した。


 やる事は沢山ある。

 仕込みもした。

 きっとこれから色々な事が起こる。

 それも知っている。

 何をすればセシリアを自分の物に出来るのか、それだけを考えながらオフィーリアは鼻歌を奏でつつ歩く。


「おとーさん、おとぉ~さん。ま~お~おが~来るよ~」


 欠けた月が雲に隠れる。

 まるで、これから起こる事から目を背けるかのように。

 虹色の姫は、人生で一番輝いていた。




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[良い点] 千夏マリア殺したら終わりなのに
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