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私のお母さんになってと告白したら異世界でお母さんが出来ました  作者: れんキュン
1章 お母さんになってと告白したら異世界でお母さんが出来ました
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楽しいデート

 


「愛衣……起きなさい愛衣」

「……おとうさん?」


 微睡みから目を覚ますと、目の前には久しぶりに見た様な気すらする父親の顔。

 頭を起こして辺りを見れば窓から朝日が差し込んでいる。


 漫画を読みこんでいる内に眠ってしまった愛衣は、ソファで寝た所為で鈍く痛む身体を解しながら起きる。


「おはよ」

「おはよう、ソファで寝るのは感心しないなぁ」

「不健康の代名詞の社畜のお父さんに言われたくないな」

「うっ!?」


 健康を気遣う父親だが、何日も会社に泊まり込んで生活する様な人だから説得力が皆無である。

 娘からの棘のある言葉に彼は膝をついてしまう。

 そんな父を尻目に、愛衣は晩御飯を抜いたせいで空腹を訴える胃の為に朝食の支度に移る。


「お父さんは朝帰り? 朝ごはんいる?」

「なんか意味が違うが、まぁそうだな。貰うよ」

「おっけー、簡単な物で済ますね」


 愛衣はテキパキと、手馴れた仕草で朝食を作っていく。

 自分一人の為にわざわざ自炊するのが面倒で普段は出来合いだが、料理の出来ない父親とのこういった家族での団らんの為に、愛衣は最低限の料理スキルは磨いていた。

 と言っても特に上手いという訳ではない為、スクランブルエッグとパンで済ませる。


「学校は大丈夫なのか?」

「うん、友達もいるし特に問題は無いよ」

「そうか」


 どこかぎこちなさのある親子の会話。

 長く家を空けていた事で離婚し、娘を傷つけたと負い目のある上、家を空けることの多い父親はどうしても自然体で接する事が出来ない。

 愛衣もそんな父の心境が理解できるから無理に歩み寄る事はせず、近すぎず遠すぎずの距離を保つ。


 そんな二人は直ぐに会話が途切れ、居心地の悪い空気が漂ってしまう。

 そんな静寂を愛衣のスマホの着信音が裂く。

 行儀が悪いとは思ったが千夏からの着信だと気づき、父親に出ても良いと促されて電話に出る。


『おっすー親友! 起きてるー?』

「おはよ、テンション高いねどうしたの?」


 朝から電話越しにテンションの高い友人に若干辟易としつつも、口元を綻ばせつつ答える。


『実は駅前でコラボカフェがあって、来場者一人にグッズが貰えるんだけどどうしても欲しいのが二つあって。それで愛衣がもし暇だったら一緒に来て欲しいんだけど……』

「あぁ、そういえば言っていたね」


 愛衣は何時か話していた、千夏の推しのキャラが居るアニメのコラボカフェの話を思い出した。

 愛衣は一旦携帯を離して目の前の父に声を掛ける。


「お父さん今日って何か予定ある?」

「ん? あ~、その。実は今日も仕事があってだな……」

「また? 休日出勤も大概にしないとホントに倒れるよ?」

「す、すまない」


 ため息をつきつつも、今日は予定が無い事を確認した愛衣は大丈夫だと千夏に伝える。


『やった!! じゃあ10時に駅西口前で集合で良い?』

「良いよ、それじゃ」

『また後で!』


 元気な声を切ると、父親が心配そうにしつつも安心したように聞いてくる。


「友達か?」

「うん、これから遊びに行こうって」

「そうかそうか」


 嬉しそうに噛み締めた父親は腕時計を確認すると、家を出る時間が差し迫っている事に気づき慌てて仕事支度を始める。


「あぁこれ! 遊ぶならこれくらいあった方が良いだろう」

「え? 多いよ」


 玄関で慌てながら父親は財布から愛衣に5万を渡した。

 流石に多すぎると委縮するが、父親は申し訳なさそうに笑って押し付ける。


「いつも寂しい思いさせてるから、これ位はさせてくれ」

「……わかった。お父さんも身体には気を付けてね」

「おう、行ってきます」

「行ってらっしい」


 その背を見送った愛衣は僅かばかりの寂しさを胸に、友人とのデートに心躍らせながら家事を手早く済ませ支度に移る。



 ◇◇◇◇



「おーい! 親友―!!」


 騒々しい駅前でも負けない元気な声が愛衣の耳の届き、スマホから顔を上げてその声の方を見る。

 満面の笑みを浮かべながら千夏が駆け寄ってきていた。


「おはよう、千夏ちゃん」

「おっはー!!」


 穏やかな笑みを浮かべる愛衣に、千夏は真っ白な歯を見せる快活な笑顔を浮かべる。

 千夏は気合を入れた装いと化粧で、デニムジャケットとスリムパンツという大人びた格好。それに対して愛衣も、真っ白なブラウスとハイウエストのフレアスカートと普段は軽くでしかしないメイクも気合を入れてこしらえている。


 そんな二人に周囲の視線が集まるが、二人はそれに気付かないで肩を並べる。いや、千夏は気づいているからか何処か誇らしげに薄い胸を張る。


「今日はごめんね? わざわざ付き合って貰って」

「特に予定も無かったし大丈夫だよ。どうする?もう行く?」

「うん! 早く行って遊ぼ!」

「ならいこっか」


 肩がぶつかる位寄り添って、笑い合いながら進む二人の目的地は直ぐそこだった。


「いらっしゃいませー! 二名様ですか?」

「そうです」

「でしたらこちらのテーブル席にどうぞー」


 案内されて席に着いてすぐに千夏は、コラボメニューを開いて推しのキャラの商品を選び出す。


「私は推しのメニュー全制覇するけど、愛衣は決まった?」

「うん、決まったよ」

「すいませーん! ……この大和君デラックスバーガーと、猛君ロイヤルオムライスを一つづつと、大和君と猛君のジュース。後食後にこの二人のデザートも」


 千夏がそんなに食べれるの? と言いたくなる位頼んでいるのを尻目に、愛衣は飲み物とパフェだけを頼んだ。


「多くない? 食べきれるの?」

「推し二人分の愛はおめぇな。だが私の推しへの想いはこんな所では止まらん!!」


 明らかに委縮している千夏は空元気を振り回して、自分の顔位ある大きさのバーガーを食べ進める千夏に苦笑しながら、悠々と自分の分の甘味に舌鼓を打つ。


「愛衣~ヘルプ~」

「速くない?」

「朝ごはんが……産まれそう……」


 早々にギブアップ宣言をする千夏。

 なんで朝ごはん食べちゃったの。とため息をつきながら、千夏の使っていたスプーンを借りてオムライスを食べだす愛衣。


「あっ」

「ん、結構おいしい……どうしたの?」


 予想外に美味しかったオムライスに、普通に食欲を刺激され食べ進めていると、何故かもじもじしている千夏に気づき愛衣は首を傾げる。


「いや……か……」

「か?」

「か、かかか……完璧な食べっぷりだ親友!! 私は嬉しいよ!!」


 顔を真っ赤にして何かを言おうとしていたかと思えば、いきなり舞台俳優の様に両手を広げる千夏に愛衣は戸惑いながらも、苦笑を浮かべる。


「なにそれ、余裕あるなら自分で食べなよ」

「誠に恐縮ですが今回は辞退させていただきます」

「なにそれ」


 一拍の後、二人は笑い合う。

 その後はお互い冗談を言い合ったり、千夏のアニメ布教や共通のアニメ談議に花咲かせたりで時間がどんどん過ぎていく。


「もう二時間近く経ってる……!」

「そろそろ出る?」

「だねー」


 慄きながら時刻を確認した千夏に合わせる様に二人は退店を決める。


「お会計5325円になります」

「一万からで」

「ちょっと千夏ちゃん?」

「良いの良いの、殆ど私の分だし付き合って貰ったお礼……折角のデートだしね」


 清算で二人分けて会計する物だと思っていた愛衣は、千夏が何のためらいも無く一万を置いたことに驚くも、千夏は一切引く素振りを見せない。

 それどころか愛衣の分の料金を手渡しそうとも意固地に受け取らない。


「でも……」

「うーん、それなら次の機会は愛衣がおごってよ」

「……まぁそれなら」

「きーまり! そしたらゲーセン行こゲーセン!!」


 さりげなく次の約束を取り付けた千夏は、軽やかな足取りで先へ進む。

 その背を愛衣は追いかけも、こうやって奢られることが少ないだけにやはり釈然としない気持ちになってしまう。

 それでも今は水を差すのも悪いだろうと、千夏の気遣いに感謝して遊ぶことに気を回す。


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