表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私のお母さんになってと告白したら異世界でお母さんが出来ました  作者: れんキュン
2章 物事は何時だって転がる様に始まる
39/146

逃げるは恥だが知ったこっちゃない

すいません!!

作者がポカこいて歯抜けしました!!!!

37部、1話分歯抜けしてたので追加しました!!

そちらの方を見てください!!!

新キャラなんです!!!



 結局、セシリアがマリアに国外逃亡の意思がある事を告げる事は無かった。

 別に嘘を付いたつもりは無かった。

 ただ組合に運ばれた重傷者をセシリアの回復魔法で治したと伝えただけ、観衆の中で治したという事実を敢えて言わなかった。


 下手に話してマリアを心配させる位なら、とりあえず自分で準備をして国や教会の様子を見ようと考えていたからだ。

 それでも、マリアに嘘をついてるような気分になるセシリアは罪悪感を覚えてしまう。


 普段の快活さは鳴りを潜めたセシリアに、マリアは心配そうにしつつも、早く寝ようと就寝を促す。

 マリアは組合で回復魔法を使ったと聞いて不安になったが、一日デートの疲れがでて早々に眠りについてしまった。

 セシリアも細かい事は明日考えようと、マリアに抱かれながら眠りについた。


 そして翌朝。休息日で心身共に癒されたセシリアは仕事の為、朝早くから玄関に立つ。


「それじゃ行って来るけど、気を付けてね? 昨日みたいに男達に連れ去られたりしたら……」

「大丈夫ですよ、今日はラクネア達のいる孤児院に一日居ますから」

「……うん」


 セシリアは心配そうに、憂いに翳る表情を浮かべマリアの頬に片手を添える。

 そんなセシリアに、マリアは頬に添えられる手に自分の手を重ねて微笑む。

 それだけで、セシリアの翳は晴れ慈しむ微笑を浮かべる。


 セシリアはマリアの額に軽いキスを落とすと、マリアも少し背伸びして同じようにセシリアの額にキスをする。

 それは親子と言うよりは夫婦の様で、セシリアは一度強くマリアを抱きしめ、温もりを感じると名残惜しそうに離れて街へ向かった。


「とりあえず依頼を受けて、ラクネアさんの所にコートを取りに行かないと」


 セシリアは脇に挿した新しいリボルバーを撫でながら、朝の予定を組み立てる。

 もう何作目かも朧げな脇の銃に、今日こそは満足の良く成果を見せてくれと願いながら、今回もダメだろうな。と冷静に分析する。

 同じような素材で製法を変えて何度も作ってるが、結局素材の耐久力の問題が矢面に立ってるのだ。

 今以上に固い素材を使わない限り、セシリアの望む火力に耐える銃は作れないだろう。


 セシリアは街の門を潜りながら、国や教会に出頭を命じられた場合を考える。


 そも、セシリアは国の為働こうなんて殊勝な心掛けは微塵も無い。

 それは国防を条件とするが、根無し草の冒険家が実力を国に認められるA級に昇格しない所を見れば明らかだろう。


 結局、セシリアが冒険家を続けているのはこれが一番稼げるからで、マリアと共に入れなくなったり、マリアに危険が迫るような事態になればセシリアは国外へ逃亡する事も吝かでは無かった。


 トリシャやガンド、他にも友人たちと別れる事になるのは寂しいが今生の別れという訳でも無いと、何処か気楽に考える。


 考え事していると組合に辿り着き、セシリアは中へ踏み込む。


 中は相も変わらず騒々しく、だがその騒々しさの中にセシリアへ観察する様な視線を多分に含ませている。

 既に先日の一件はあの場にいた者達により広まっており、セシリアが治癒魔法すら超過する魔法で人を救ったと誰もがこそこそと話し合っている。


 やはりセシリアは居心地の悪さを感じながら受付へ向かうと、そこには化粧で上手く隠してはいるが、明らかにくたびれた雰囲気を纏っているミラの姿をみつける

 ミラはセシリアの存在に気付くと、一瞬白目を剥くも直ぐに気を取り直して弱弱しい笑みを浮かべる。


「い、いらっしゃい……」

「だ、大丈夫ですか?」

「あぁ……うん、大丈夫大丈夫。独り身だから残業二日目でもダイジョーブ」

 

 死屍累々とはこの事か、よく見ればミラだけでなく殆どの職員達が今にも死にそうな土気色の顔色で黙々と仕事をしている。

 その姿に、いつもは血の気の多い野郎共ですら一言心配する程だ。

 そんな姿に心配しつつも、セシリアは仕事を受ける為促そうとした所で、ミラがそれを遮る。


「実は指名で依頼が来てるの」


 その言葉にセシリアは先日のクリスティーヌを思い出す。

 デートを邪魔された苛立ちを思い出すも、セシリアは渡された紙に目を通す。


「えっと……鉱山内部に住み着いた未確認の魔獣の掃討……頑張れば日帰りで行ける距離か。依頼主は……クリスティーヌ・フィーリウス・ローテリア……報奨金は……金貨30枚!?」


 セシリアは依頼主を見てやはりかと落胆するが、その達成報酬を見て目を剥く。

 金貨30枚もあれば逃亡資金としては充分すぎる上、仮にヤヤと分けたとしてもお釣りがくる程だ。


 幸いにして指定された鉱山も急いで向かい、何も問題が起きなければギリギリ一日で帰れる距離にある為、セシリアは真偽を確かめるべくミラに確認する。


「え? これ本当なんですか? 破格過ぎません?」

「えぇ、身元は確かよ、ただその依頼主、二度依頼してるの……」

「それって」


 ミラはちょいちょいと手招きすると、周囲に聞こえない様に小声で説明する。


「始めの一回は最低のFでも受けられる様にしたんだけど、Eランクのパーティーが生還者無し、それで二回目はCランクパーティーが受けたんだけど同じように情報の一つも持って帰れず消息不明。結局、どんな魔獣なのかすら定かでなくて誰も依頼を受けなかくなったの、そこに指名よ? 正直ヤバさしか無いわ」


 ミラはこの依頼を、冒険家を誘いだして殺すためのフェイクだと疑っている。

 とはいえ、依頼主は身元のハッキリしている貴族からな上、一人の生還者も無く依頼が失敗する事も少なくない冒険家家業。

 はっきりとした物言いは出来なかった。

 少なくない付き合いのセシリアは、目を引く見目をしている。セシリアを狙ったフェイクの依頼の可能性もあると言外に滲ませる。


 その言葉を受け、セシリアは秤にかける。

 貯金こそあるが国外へ出た事なんて無く、経験も知識も無い事をしようとしているのだ、少ないよりは多少でもある方が良い。

 危険だとは言うが、この五年で強くなったと自負するセシリアは、自惚れから何とかなるだろうと楽観視する。


「まぁ多分何とかなりますよ。受けますこの依頼」

「嘘でしょ!? 聞いてた!? 怪しさ満点の危険な指名依頼なのよ!?」


 ミラは自分から勧めたが、セシリアが受ける意思を示した事に悲鳴じみた声を上げ勢いよく立ち上がってしまう。

 一気に注目を浴びて慌てて佇まいを直し、説得に移る。


「仕事として勧めたけど、私個人としては受けて欲しくないわ。依頼の不鮮明さもあるけど、二度目のC級パーティーは環境調査も出来る人たちだったの。つまり戦闘力よりは観察力と逃げ足に趣を置いたパーティーだったわ、そんな人たちが一人も帰ってこれずに死んだのよ? セシリアちゃんが強いのは知ってるけど、嫌な予感がするわ」


 それは長く受付で仕事をしていたが故の、経験から元づくミラの勘だった。

 戦闘に長けたパーティーが死ぬならまだ分かる。どれだけ強かろうと、不測の事態で一気に全滅する事もあるのだから。


 だが全滅したC級パーティーは戦闘よりは、いかに魔獣との戦闘を避け情報を集めるかと言った、隠密性の高いパーティーだった。

 そんなパーティーが一つの情報も残せずに消息不明と化したのだ、幾ら多少強いと分かっているセシリアだとしても心配してしまう。


 心配するミラに、セシリアは苦笑して肩を竦める。


「大丈夫……とは言えないですけど、気を付けていきますよ。お母さんを残して死ぬつもりなんて欠片もありませんしね」

「……はぁ、一介の受付嬢に依頼の受否までは口出しできないか。分かったわ、気を付けていくのよ」

「ありがとうございます」


 ただの仲介組織である受付嬢のミラは、諦めのため息をついて依頼を受諾する。

 短くない付き合いだ、死んでほしくないとは思うが、それでもミラにはどうする事も出来ない。


「そう言えば、ヤヤちゃんってもう来ました? まだ依頼を受けてないなら誘いたいんですけど」

「まだ来てないけど、休みとは聞いてないからそろそろ来るんじゃないかしら」

「じゃあ、ヤヤちゃんが来たらこの依頼一緒に受けないか伝えてくれますか? 一時間後まで西門で待つって」

「分かったわ、一時間後に西門ね」


 一通り、話すべきことを話すと、セシリアは気になっていた職員たちの状態を聞く。

 何故死屍累々なのか。徹夜で仕事をする様な事があったのかと。

 その質問に、ミラは深い深いため息をついて頭を抱える。


「昨日セシリアちゃんが治した重傷者達に話を聞いたらね、森の魔獣が狂暴化してたんだって。穏やかな気性の筈の一角象竜ですら、接敵した瞬間襲い掛かってきて……元々そういった報告は幾つも上がってたから、今は禁忌の森の環境調査に大忙しよ」


 ミラは乾いた笑いを上げ、眠気覚ましの温くなったコーヒーを煽り呑む。

 徹夜明けのその姿は悲壮で、気を抜いたら倒れてしまいそうだ。

 

 前日にセシリアが治した重傷者達は、森の比較的浅い場所で狩猟をしていたのだが、突然興奮した一角象竜が乱入し死にかけながらも組合に帰って来たのだ。

 それも相まって、現在ミラ達組合の職員は、禁忌の森で起こっている異変について日夜寝ずに調査している。


「それだけじゃないわ。代替わりした帝国との国境沿いでもごたごたが発生して、手の空いている冒険家や職員が派遣されて、ただでさえ少ない人員がさらに減って……書類書類書類、集まった報告書を精査して纏めて上司に出して……組合長とかが居ない中でこれよ!? 訳が分からないわ!!」


 机を叩いて恨み言を叫ぶミラに、他の職員たちはペンを動かす手を止めず、うんうんと頷く。

 皆目の下に酷い熊を作っている事から、同じように寝ないで仕事をしているのだろう。

 お手上げと空を仰ぎながら、ミラは親父臭いため息をつく。


 その姿に、ひそかにミラに想いを寄せていた冒険家達の淡い想いが萎む。

 だが安定した収入と平穏を好むミラからしたら、いつ死ぬかもわからない冒険家などお断りだ。


「あ……そうそう。セシリアちゃんの魔法の件、教会が話しを聞きたいって来てたわよ」


 その言葉にセシリアはピリつく。

 もう来たのかと、セシリアは仕事が終わり次第マリアに話して、国外逃亡の準備をした方が良いなと考える。

 そんなセシリアに気付かず、ミラは目頭を解しながらしゃべり続ける。


「ていっても、今こっちが大忙しだからね。帰ってきて落ち着いたらで良いわ、どうせこの国では教会の威光は強くないからね」


 王国じゃなくて良かったわ~、王国なら過労死してたわね。と愚痴を零すミラに挨拶を告げ、セシリアは組合の外へ出る。


 勇者を信仰し、勇者の子孫が治める勇成国は神より近い存在が居る為教会の力が弱い。

 信仰としてはあるが、国の中枢に食い込めるほどでは無く、それは辺境のこの街でも変わらない。


「昨日話しとけばよかったな」


 セシリアは前日に、マリアに話しておかなかったことを後悔しながら、早めに仕事を終わらせようと、コートを受け取りにラクネアの居る孤児院へ向かおうとする。


 そこで丁度見知った顔を見かける。


「あ、ラクネアさーん!」

「ん? おー! セシリアか、丁度良かった!」


 仕事に赴こうとしていたラクネアは、脇に抱えたコートをセシリに手渡す。

 穴の開いていた部分はきちんと修繕され、その出来栄えに頷きながら袖を通す。


「これこれ、やっぱこれが無いとテンション上がんないよね」


 黒のロングコートに黒のシャツと、スリムパンツに厚底のハイブーツ。

 胸元の緩く垂らされた赤いネクタイをワンポイントに、袖をまくり指ぬきグローブを直す。

 容姿が良いだけにどんな格好でもまぁ似合ってしまうが、似合ってしまうが故の残酷さにセシリアは気付かない。


「……絶対、来年位に寝る前に思い出して死ぬヤツだよねぇ」

「何か言った?」

「いや。頑張りな」

「? どうも」


 ラクネアは目が覚めた時に悶え死ぬんだろうなーと思いながら、ついと目を逸らす。

 決して、羨ましいなんて思ってない。思ってなんて無い。


「あ、マリアに予定聞いてくれた?」

「うん、遊びに行くって。大丈夫?」

「問題ないよ、泊まり込んだって良い位さ」

「それは私が嫌だからダメ」

「マザコンめ」


 それはセシリアにとって褒め言葉だ。

 娘が母を好いて何が悪い。と薄い胸を張った。

 ラクネアがそれを鼻で笑い、己の豊かな胸を張るとセシリアは一瞬白目を剥く。


「ま、帰りにでも顔出してよ。子供たちも喜ぶからさー」

「おっけー、お母さんのことよろしくねー!」


 ラクネアと別れ、西門へ向かう。

 仕事着に身を包んだセシリアは、握りこぶしを作って気合を入れる。なんせ金貨30枚の大金だ、失敗できない。


 一歩踏み出した所で、靴紐が突然千切れる。


「いやだな、不吉」


 何となく、頑張って早く帰った方が良いと思った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ