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私のお母さんになってと告白したら異世界でお母さんが出来ました  作者: れんキュン
2章 物事は何時だって転がる様に始まる
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美しき珍客



 デートへ赴こうとした二人の前に立ちはだかった、金色に輝く縦巻きツインテールをたなびかせ、鮮やかな碧の猫目の瞳はしっかりとセシリアとマリアを捉え、不遜に微笑みながら腕を組み仁王立ちする16頃の少女。

 その少女は派手な髪色に負けない、まるで彼岸花の様な艶やかな美しさのフィッシュテールタイプのドレスに陶磁の様な透明感のある身体を包んでおり、一目見て貴族なのだと察せられる。

 

 セシリアは何となく、猫を連想した。


 そんな少女を前に、セシリアは邪魔をされた事で苛立ち気に眉を潜め、マリアは驚きで頬に手を添える。

 そんな二人の反応を余所に、少女は下品過ぎないギリギリのラインの豊かな胸を張り顎を後ろに逸らす。


「やっと見つけましたわ。この街で一番の美しい方を」


 少女の言葉に、セシリアは小首を傾げる。

 そう言えば、つい最近どこかで関係ありそうな話を聞いたような。


「あ、もしかして最近街で噂になってた、美しい人を探してるって貴族の方ですか?」

「そんな噂になってるのかしら?まぁ、ここ数日は様々な方にお話を聞いてましたから、そういう噂は立っていても可笑しくないですわね」


 目の前の少女は怪訝そうに肩眉を上げながらも、マリアの言葉を肯定する。

 セシリアは目の前の少女がその人物なのかと、呑気に観察してると、その少女はツカツカとヒールの軽快な足音を響かせながら二人に近づき、手を伸ばせば届く距離で立ち止まると観察する様にその理知的な淡い碧の瞳で全身を舐め回す。


 少女はマリアとセシリア、二人の胸部を見比べると一つ頷いてマリアの空いている手を取る。


「貴女、私の侍女になりませんこと?」

「ちょっと待て、今どこ見た?ん?」


 知らない人には丁寧語で接するセシリアだが、年が近そうな事もありタメ口で、胸を見比べられた事で頬を引き攣らせながらその手を払う。

 手を払われた少女は驚きに僅かに目を丸くするも、直ぐに佇まいを直す。


「ごめんあそばせ? 確かに貴女も容姿は素晴らしいですが、姉君でいらっしゃる? こちらの方の方が完璧でしたので」

「それは分かるよ、お母さんは世界で一番可愛くて完璧で美しいからね」

「あら、きちんと理解していらっしゃるのね。貴女とはお話が合いそうですわ」


 何故か、突然惚気だした二人は固く握手する。

 マリアは良く分からずも、まぁ仲良くしてるなら良いかと成り行きを見守ってると、我に返ったセシリアが「違う!」と離れる。


「別に私の貧乳は良いの! 良くないけど……それより、お母さんを侍女にしたいってどういう事?」

「お母君なのですか?」

「えぇ。よく間違われるんですが、この子の母です」


 やや恥ずかしそうにマリアは頬に手を添えながら答えると、少女は更に興奮したように詰め寄る。が、それはやはりセシリアが間に入る事で阻まれる。


「私の質問に答えてよ、どうして態々お母さんを侍女になんて? 貴族なら困ってる訳じゃないでしょ」


 セシリアは警戒心を持っていた。

 前世の創作物でも、貴族が平民の美しい女性を無理やり手籠めにしてるような物を見ていた上、それでなくても転生して今日まで、好色な貴族に手を出され傷心した人の話をセシリアとして聞いたこともあった。

 貴族が美しい平民に手を出すというのは、そこまで珍しい話では無かったからだ。


 少女はセシリアの疑問に答えようとした所で、背後に控えていた侍女が代わりに前に出る。


「うちのお嬢様が失礼しました、後できちんと叱っておきますので」

「ちょっとヴィー! 侍従が主人の前に立つなど不敬ですわよ!」

「お嬢様は黙っててくださいよ、あんまり面倒を増やすとお仕置きしますよ」

「あ、あれをまたワタクシにやるというのですか!? 不敬ですわ!」


 真面目そうなメイドの言葉に、少女は頬を染めお尻を抑えだし一転して潤んだ瞳で、メイドに上目遣いを送る。


 突然蚊帳の外に置かれたセシリア達は目を丸くするも、面倒くさそうだとセシリアはマリアの手を引いてその場を後にしようとする。

 しかしそうは問屋が卸さず、少女の制止の声が響く。

 無視しようかとも思ったが、マリアの「話だけでも聞きましょう?」の言葉に深い深いため息を吐いて向き合う。


「立ち話もなんですのでそこのカフェテラスで、お茶でも交えながらワタクシのお話を聞いていただけます?」

「まぁ話だけなら」

「それは良かった。ヴィー」

「はいはい、仰せのままに」


 ヴィーと呼ばれた、背筋をしっかりと伸ばしたメイドの先導で、セシリア達は傍のカフェテリアで席に着く。

 円卓でヴィー以外は席に着き、それぞれ飲み物を頼む。


「ワタクシはストレートティーで」

「私はオレンジジュース」

「ん~、私はこのレモンティーにしますね。ヴィーさん? は頼まないんですか?」

「お気遣い痛み入ります。ですが私の事はお気になさらず」


 それぞれが注文を済まし、飲み物が行き渡ると少女が切り口を開く。


「まずは申し遅れました。ワタクシ、ローテリア帝国序列5位、フィーリウス公爵家が次女、クリスティーヌ・フィーリウス・ローテリアと申します。どうぞ、クリスと呼んでいただけると幸いですわ」


 席から立ち上がり膝は緩く折り右手は左胸に、左手は腰に添えられた洗礼された一礼に少女―クリスティーヌ―の美しさも相まってマリアもセシリアもほぅっと嘆息してしまう。


「そしてこちらが、ワタクシの侍従のヴィオレットですわ」

「申し遅れまして、ヴィオレットと申します。お嬢様に変わり、お嬢様の奇行を謝罪いたします」

「ちょっとヴィー! 奇行とは失礼ですわ! ワタクシは美を前に、少々興奮しただけですわ!」

「……はぁ」


 真面目そうな雰囲気ながらも、洗礼された同様の一礼は流石公爵家の侍女。

 明るい紫のボブカットと真面目そうな雰囲気だが、切れ長の紫の瞳はナイフを思わせ、容姿は非常に整っており化粧っ気が薄いだけにその素材の良さが際立つ。


 そんなヴィオレットの非常に気心知れたが故のおざなりな対応に、クリスティーヌは前髪を耳にかけると右目に添えられた黒子が晒され、クリスティーヌのマリアにも負けず劣らずの容姿が際立つ。


「えっと、マリアです。初めまして」

「……セシリアです」


 二人は礼儀としてあいさつし返す。

 マリアは何故貴族の、それも少女が態々自分に。と小首を傾げ、セシリアはデートの時間を潰され、不機嫌さを隠しもせずオレンジジュースを飲む。


 クリスティーヌは改めて席に着き、紅茶で唇を湿らすと咳ばらいを一つして本題に入る。


「まずは単刀直入に伺いますわ。ミスマリア、ワタクシの侍女になるつもりはありませんこと?」


 冗談でも何でもない、本気で言っているとクリスティーヌの真剣な表情からそれが伺え、マリアはチラリとヴィオレットを一瞥する。

 ヴィオレットは苦笑を浮かべて小さく首を振る。


 セシリアはマリアの代わりに断ろうとしたが、自分が言った所では時間が間延びするだけだと察し、静かに、内心緊張しながらマリアの言葉に耳を傾ける。

 マリアは頬に手を添え、隣に座るセシリアを一瞥して苦笑する。


「そうですね。大変光栄ですけど、お断りさせていただきます」

「お母さん!」


 マリアの即答に、セシリアは喜色を浮かべて抱き着いた。

 親子の抱擁を前に、クリスティーヌは特に悔しがる素振りも無く言葉を紡ぐ。


「それはご息女がいるからですの? ミスセシリアと共に召し上げると言ったら、答えを変えていただけますこと?」

「いえ、私はこの地でセシリアと一緒に穏やかに過ごしたいので。といっても、娘に養われる身なんですけどね」

「うんうん、お母さんは私が養うから一緒にいよー!」


 セシリアはマリアが断ってくれた事が嬉しくて、子犬の様に抱き着きマリアの首筋に顔を埋め擦り付ける。

 マリアもセシリアに養われているのに思う所が無い訳では無いが、それでもセシリアが自ら望んで行っている上、それでセシリアが笑顔で居るなら良いかとも思う。

 そんな二人の抱擁を前にしながら、クリスティーヌは諦めた様子が欠片も無い。


「ミスセシリアは冒険家ですのよね?」

「……どうしてそれを?」

「蒼銀の髪に真紅の瞳の、美しくも鬼神の如き強さを持つ少女のお話はこの街で最初に聞きましたわ」


 セシリアは自身への評価や噂には欠片も興味が無かったが、神秘的な美しさの容姿に母親限定で悪魔もかくやと言う狂暴性を見せるセシリアは、辺境の街カルテルでそれなりに有名な存在だった。

 そしてそんな母親のマリアも当然ながら有名で、クリスティーヌはその噂を聞きつけはるばる帝国からこの街まで来たのだから。


 片眉を上げるセシリアに、クリスティーヌは微笑みながらヴィオレットに声を掛け一枚の紙を差し出す。


「ワタクシ、宝石商も営んでおりますの。ですが最近、ワタクシの持つ鉱山で問題が起こりまして。それでその仕事の依頼をしたいのですが」

「依頼なら組合を通してください。組合から認可を受けた上で、受けるかどうか吟味します」


 それは遠回しな拒否だった。

 そもそも今日は休みなのだ。下らない勧誘など、さっさと一蹴してマリアとのデートに赴きたかった。

 セシリアの反応に、クリスティーヌは小さく肩を竦めるとすっと立ち上がる。


「……どうやらタイミングが悪かったようですわね。改めさせていただきますわ、それではごきげんよう」

「本当に、お時間おかけしてすみません」


 クリスティーヌは席を立つとすたすたと立ち去る。

 ヴィオレットが深く頭を下げなれているのを見るに、こういったやり取りは一度や二度では無い事が伺える。


「何してますの! 美しいワタクシをいつまでも日差しの中に晒すんじゃありませんわ!」

「……はぁ」


 去り際まで美しい所作で、悠然とクリスティーヌはヴィオレットを連れて立ち去る。

 その背を見送り、セシリア脱力してマリアの身体に沈める。


「なんなんだったんだろ」

「さぁ? それよりも、フィーリウス……宝石商……聞き覚えがあるんですが……」


 マリアは虚空を眺めて頭を悩ませるが、喉元で引っ掛かってどうしても思い出せない。

 思い出深い何かがあったのだが……。


「お母さんお母さん! デート行こ!」

「……えぇ、そうですね」


 娘に促されてマリアはまぁ良いかと、流す。

 二人は席を立ち、固く手を繋いだまま笑顔で街へ繰り出す。


「そう言えば、ママって呼んでくれないんですか?」

「あれは二人っきりの時だけ、外では恥ずかしいの!」

「……なるほど」


 恥ずかしい恥ずかしいと言いながら、中二病コーデだけは何時までも止めない何処かずれてるセシリアに、マリアは苦笑するとデートの第一歩は服屋にしようと決める。

 男装の様な今のセシリアもかっこよくて良いのだが、やはり可愛らしい恰好の方がセシリアには似合うだろうと、マリアはセシリアにどんな服を着せようかと想像する。


 女性の買い物は長いとは言うが、セシリアとマリアはお互いを着飾る事に専念し、一日服屋を廻っていた。


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