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私のお母さんになってと告白したら異世界でお母さんが出来ました  作者: れんキュン
1章 お母さんになってと告白したら異世界でお母さんが出来ました
13/146

Shall we dance



 あの後、真っ赤に目を泣き腫らすまで泣いたセシリアが漸く泣き止んで暫くして、多分に遅刻しながらも幾つかの野菜と肉を道すがら購入して、東区にある孤児院が併設している教会に辿り着いた。


 露店の店主に聞けば直ぐに道を教えられ、有名な場所らしく迷うことも無く。


 遅れて参上した二人を出迎えたのは、相変わらず大きな胸と肌を見せる様にシャツを着崩したラクネアと、スーとイヌ、そして様々な子供達。

 人種に純亜人、逆にハーフなど多種族が入り混じっている。


 女の子はセシリアとマリアの容姿の良さに純粋に見惚れ、思春期に入りだした男の子達は硬直してしまい、普段の悪ガキらしさはなりを潜めラクネアに笑われている。


「へぇ、じゃあ二人が西区の妖精の止まり木の美人従業員か」

「はい、店主のトリシャさんとガンドさんに良くしてもらっていて。それで働き出したらそんな事を言われるようになったんですよね。ラクネアさんはお一人で孤児院を?」

「うんにゃ、もう一人人種で老齢のシスターが居るよ。私は亜人だからね、身体に自信があるから日中は働きに出ているのさ」


 親二人は少し離れた所で鉄板の上で幾つもの料理を作りながら、ラクネアが持ってきた、30年物のワインを二人で上機嫌に傾けている。

 既に二人の頬はほんのり赤みがさしていて、会話が弾む弾む。


 そんな二人を差し置いて、子供達は出来上がった料理の品々を手に会話に花咲かす。


「セシリアちゃんお人形さんみたいにきれー」

「髪のケもスっごいサラサラ―」

「ねぇねぇ、そのネックレスすっごい綺麗だね!」


 スーやイヌだけでなく他の女の子たちに質問攻めされるセシリアは、人見知りの影を一切見せず、非常に上機嫌に答える。


「ふへへありがとー! このネックレスはね、私の大切な人に貰った物なの」


 容姿や髪を褒められると、マリアを褒められたような気がして嬉しかった。

 そしてそんな小躍りすらしそうな気分のまま、まるで恋人に貰った物を慈しむように胸元のネックレスを撫でる。

 そんな姿すら絵になり、周りの少女たちはほぅ。と嘆息してしまう。


「何が綺麗な髪だ! ババアみたいな白髪に見えるぞ! その変な石ころもどうせ安物だろ!」


 少年の声変りが始まりだした掠れがかった甲高い声が響き、少女たちはむっと顔を顰める。

 蒼銀の髪は陽の反射によっては白に見えなくも無いが、基本的には白に見える事はない。つまりただの言いがかり。


 だが、セシリアは母とお揃いの髪と、母がくれた宝物をバカにされて腸が煮えくり返りそうな程苛立つが、歯をきしませながら何とか吠えるのを堪える。

 怒りが振り切れすぎて能面の様な冷たい顔で振り返ると、一番年長であろう人種の少年が意地悪そうな笑みを浮かべている。


「な、なんだよ! 文句あんのかよ!」


 セシリアの無言の圧力にたじろいだ少年は顔を真っ赤にしながら叫ぶ。そんな少年の声を聞く度にセシリアの心はどんどん冷えていく。

 すたすたと近寄ると、たじろぐ少年に一切反応を見せることも無く、足払いを掛けて尻餅をつかせる。


「うわっ!?」

「黙って」

「んな!?」

「お母さんをバカにするような発言は許さない、絶対に許さない。次にお母さんをバカにするような事を言えば潰す」


 完全に開いた瞳孔で見下ろされて少年はたじろぎ、捨て台詞を言ってラクネアの元に仲間達と向かって当てつけの様に肉を取りまくっていく。


 ため息を吐いて冷静さを取り戻すと、後ろに女の子たちが居たのを思い出してしまったと後悔する。

 怖い所を見せた、引かれてしまったと焦るが、少女たちは驚きから立ち直ると直ぐに興奮しながら笑顔を浮かべた。


「すごーい! セシリアちゃんカッコいいー!!」

「あいついっつも意地悪してくるから、私すかっとしちゃった!」

「ネー! スーもイヌもイジワル良くされてた」


 どうやら余程嫌われている様で、そこからは男の子達に対する愚痴大会となった。憐れだが自業自得だ、さらば少年たちの初恋よ。

 セシリアは嫌われてない事が分かり、安堵した後一緒に会話に参加する。


 その内、食材を全て食べきると女子だけで集まって人形ごっこや即席の劇などの、女の子だけの遊びをして過ごした。


 ラクネアとマリアは、良い感じに酔いが回った上機嫌のまま樽一つを飲み干すまで思う存分羽を伸ばした。特に凝っても無い羽を。


 時折、ラクネアやマリアがセシリア含む子供達と共に遊んでおり、マリアは年端も行かない少女達と同じように笑っていた。


 ◇◇◇◇



「マタねー!」

「今度遊びに行くねー!」

「今日はありがとうなー! また一緒に呑もうなー!」


 陽が沈みかけた頃合い、セシリア達は慌てて帰り支度を始めた。

 泊まっていけばというラクネア達の誘いを断って、家である妖精の止まり木に帰る事に固執する。

 そもそも今日はセシリアの誕生日デート、締めは家だと決めている。


 惜しまれながら二人は教会を後にする。

 オレンジに染まり、闇が濃くなってくる街の中、二人は固く手を握りしめながら帰り道を歩む。


「楽しかったねー」

「はい、お母さんも久しぶりにいっぱいお酒飲みました」

「大丈夫?」

「ええ、お母さん結構お酒強いんです!これでも、昔は悪魔殺しのウワバミと呼ばれていたんです」

「ふふ、何それ」


 大層な二つ名を持つ母は非常に上機嫌で、鼻歌混じりに歩く。

 アルコールによってほんのり上気した肌が艶やかで、転ばない様にとセシリアは繋いだ手に力を籠める。


「しかし困りましたねぇ」

「どうしたの?」


 突然足を止めて頬に指を突き顔を傾けるマリアは、困ったと言うが困った様には一切見えない。


「いえ、お母さん西区への帰り道が分からなくて。今も何処を歩いてるんだかチンプンカンプンです」

「え……えぇぇ!?」


 あんなに自信満々に歩いていたのに?と疑問が浮かぶが、よく見ればマリアは何処かふわふわしている。


 そう言えばとセシリアは思い返す。

 ここ10年マリアがお酒を飲んでいる所を見たことが無い、セシリアは愛衣であった頃の知識を思い出した。

 妊娠によって体質が変わる事は良くあって、妊娠前は酒豪だったのに妊娠後は下戸になった例があると。

 そう考えれば、久しぶりの酒で悪酔いした可能性がある。


「お母さん、これ何本に見える?」


 セシリアはまさかとは思いつつも指を二本立てて見せる。


「何言ってるんですか~? そんなの簡単ですよ~……あれぇ、セシリアが二人います~」

「……確定だ。もー! どうしてこうなるのー!」


 呂律すら回っていない。

 思わず叫んでしまう。帰れないかもという恐怖と、このまま帰った所で直ぐに寝させなくてはいけないと言う不満で。

 ぽわぽわしているマリアは非常に可愛らしいが、もうすぐ陽が落ちきってしまい、徐々に焦りが生まれてくる。


 とりあえずラクネア達の所へ戻ろう、と思ったが一緒に帰るのが楽しすぎて今までの道を覚えていない。

 どうしたものかと呆然としてしまう。


「君たち、大丈夫かい?」


 男の声が聞こえ、セシリアは振り返る。

 そこには冒険家だろうか、剣を腰に吊るした軽装の防具を身に纏った素朴な青年が心配そうに立っていた。


 見知らぬ男と夕暮れ時と言う事も相まって若干警戒しながら、マリアを守るために間に立つ。


「あぁすまない、なんだか困ってそうだったから、そんなに警戒……は無理か」


 苦笑する青年は、振り返ると少し遠くにいる女性に声を掛ける。


 まるで踊り子の様に肌を露出した褐色の女性。

 同じく冒険家だろう腰に短剣を挿したホットパンツと胸当てだけの褐色の、化粧だろうか、唇だけやけに白い女性は少し不機嫌そうに近寄ると、セシリア達を見て目を丸くして青年を睨みつける。


「アンタ何したの」

「何もしてないって! 困ってそうだったから声を掛けただけだよ」

「……まぁいいさ。大丈夫?変な事をされてない?」


 女性はため息を一つ吐くと、笑顔を浮かべてセシリアの目線に合わせながら安心させる様に柔らかく話しかける。

 見知らぬ他人だが、相手が同性であることで少し警戒が緩む。


「大丈夫です」

「そっか。もう遅いけど、何かあったの?」


 セシリアは逡巡した。

 見知らぬ他人に話して良いものか。


 最初は男で警戒したが、優しそうな青年だったし無理に近づいてこない。女性の方も子供の扱いに慣れてるのか安心させるのに手馴れている。


 後ろではマリアがほわほわしている。

 それにもう暗くなってきていて危ない。背に腹は変えられないと、セシリアは賭ける。


「その、ちょっと迷っちゃって」

「へぇ? ……何処に行こうとしたの」


 何故か一瞬女性の笑顔が歪んだ気がしたが、なんの変哲も無い安心させるような柔らかい笑顔だ。


「えっと、妖精の止まり木に」

「……あぁ西区の! 私達もそこに泊まってるんだ!」

「そうなんですか!?」


 まさかの偶然だ、だがこんな人たちは居ただろうか。

 長くそこに住んでいるセシリアは飯を食いに来るだけの客から、宿泊客まで顔を覚えている、だがその中にはこんな二人は見当たらない。


 そんな疑問が伝わったのだろうか、女性が先じんじて答える。


「あぁ私達最近この街に来たからね、泊まる事にしたのは今日なんだ」

「あぁ、そうなんですか」

「うん、だからそこまで一緒に行こ?」


 なら仕方ない、恐らくすれ違いだったのだろう。セシリアはもう殆ど警戒していなかった。


「お母さん、この人たちがお家に案内してくれるって」

「んぅ~? おねがいします~」


 ぽわぽわしているマリアは眠ってしまいそうだ、早く帰って寝させないとな。と残念に思う。


「それじゃ、道案内お願いしても良いですか?」

「うん、お姉さんに任せて!」


 もう警戒心は一切なかった。

 二人は女性と青年に着いていく。


 だが二人は気付かない。彼らがセシリア達の見えない所で目配せをしたのを。


 ここが安全な日本では無い事を、そして悪人は何時だって善人の顔をしている事を。


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