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私のお母さんになってと告白したら異世界でお母さんが出来ました  作者: れんキュン
1章 お母さんになってと告白したら異世界でお母さんが出来ました
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生まれてきてくれてありがとう



「「実りに感謝します」」

「「「主の寛大な慈悲に感謝と敬意を、我ら主の子は今日も貴方様の愛に生かされてます」」」


 それぞれが食前の挨拶を済ます。


 基本的に、セシリア達の様に簡単な挨拶で済ます人は相当少ない。

 殆どの人はまず、ラクネア達の様に長ったらしい祈りを済ます。


 元々前世の宗教観のあるセシリアには、マリアのするこの短い挨拶の方が性に合った上で、マリアがそこまで敬虔では無いのか宗教に関りが薄い。

 とはいっても、直接的には初代勇者を信仰する者は多い勇成国に置いては、セシリアの様な人物が白い目で見られることは少ないため、何か問題がある訳では無い。


 神を信仰する人々も、勇者を呼んだ神だから敬ってるに過ぎない。

 例えるなら偉い人の親。の様な感覚だろう。


 セシリアは、少し不機嫌に運ばれてきた海竜丼をフォークで食べ進める。

 非常に美味しい、食べる手が止まらない。

 食べ応えは鰻その物だ。非常に美味しい、のだが気に食わない。


 その原因を睨みつけると、件の人物は少し申し訳なさそうな顔で肩を竦める。


「そんな睨まないでくれよ、チビたちがどうしても会いたいって言うからさ。そりゃ腹減ってたのを気付かなかったワタシもだけど……」

「それは良いの!」


 もうあの事を思い出したくないセシリアは、顔を背けて威嚇する。

 隣で座るマリアはスーとイヌの相手をニコニコとしていて、それがまた無性にセシリアの神経を逆なでする。


「もぐ……それで、わざわざ追いかけて来るなんて何か用ですか?」

「言ったろ? チビたちがお前に会いたいって言ったって」


 見れば、スーとイヌは目を輝かせながらセシリアを見つめている。

 セシリアは同年代の男の子達と遊ぶことは多かったが、同性の子と遊ぶ機会は少なかった上、そのような尊敬の様な目を向けられるとむず痒くなってしまう。

 それでもマリアの手前、無下には出来ない。


「んん! えーっと、改めてはじめまして、セシリアです」

「アイ! ハジメましてスーでス! スライムでス!」

「ミーはイヌ! 猫種の獣人だよ!」


 青色の半透明なスライム種のスーと、完全に猫の見た目の亜人の猫種のイヌと握手を交わす。

 スーのひんやりとした手とイヌの肉球は魔性の感触で、セシリアは我を忘れてにぎにぎと握ってしまう。


「えーっと、スーちゃんは分かるんだけど、イヌちゃん? は名前なの? あだ名とかじゃなくて?」

「うん! ミーはイヌだよ」


 まっすぐな笑顔は冗談で言っている様には見えない。


「あー、この子の名付け親がね、センスのとち狂った奴なんだけどそいつに懐いててね、気に入ってんのさ」

「はぁ……」


 困惑しつつも説明されて納得する。名前は本人の問題だ、本人が納得しているならそれでいいのだろう。


「セシリアちゃんってすっごく強いんだね!」

「スー感動シタ!」

「え、えへへ……それほどでも……えへへ」


 まっすぐな好意をぶつけられてセシリアははにかむ。

 裏表のない、無垢な二人だからか、セシリアは人見知りを発揮することも無く食事を勧めながら談笑する。


 だがふとそんな二人を前に、何か既視感の様な脳裏を針でつつかれた様な痛みが走り顔を顰める。


 愛衣の名前を呼ぶ少女。だが顔が朧気で思い出せない。


 大事な、忘れてはいけない想いが。


「セシリア?」

「だいじょーぶ?」

「あ、うん。ちょっとぼうっとしただけ、それより食べよ?冷めちゃうよ」


 心配した二人に笑顔を浮かべ食事を促す。その時にはもうそのことは忘れて談笑を再開する。


 子供達三人が仲良く話し合った事で安心して、親は親同士で語り合う。


「それでね~あ、もう食べ終わっちゃった」

「スーも……」

「ミーも……」


 談笑しながらではあったが、丼は驚く程に美味しかった。

 三人はフォークを黙々と進め箸休めの時に話すと言った形になっていたが、容器が空になったことで三人共肩を落とす。


 まだまだ育ち下がりの10歳児達、腹八分目所か五分目に差し掛かるかどうか、正直物足りない。

 しかしお替りをするには一杯の値段がそこそこする、もう一杯食べたい! と懇願することは三人には出来なかった。


「あら? もう食べ終わったんですか?」

「ん、腹いっぱいになったか?」


 三人は物足りなさを感じつつも首を縦に振る。

 親二人は明らかに物足りなさそうにしているが、気を遣って嘘をついた三人に苦笑する。


「そうだ! 良かったらウチに来なよ。適当に食材買ってきてさ、皆で飲み食いとかどうよ!?」

「ホント!?」

「わーい!」


 ラクネアの提案にラクネア組は喜ぶが、セシリアは委縮してしまうし、断りたかった。


「え? いやいや! 悪いですよそんなの!」

「あら、良いんじゃないですか? セシリアも足りなかったんでしょ? なら食材を持ち寄って食べた方が良いと思いません?」

「お母さん!?」


 マリアの裏切りに驚いて腰を浮かす。

 そんなマリアの言葉を聞いて、ラクネアは早速と言わんばかりに立ち上がる。


「それじゃ! 東区の教会に一時間後集合な! ごちそうさま!」

「マタねー!」

「またー!!」


 セシリアは所在なさげに手を上げて見送ったが、マリアに詰め寄る。


「お母さん! どうして断らなかったの!?」

「だって折角のお誘いですし。それに、皆でお腹いっぱいご飯食べるのも良いと思いませんか?」


 それを言われたら弱い。

 別段貧乏では無い、が散財できると言えるほど裕福でも無い。


「でも、今日は私の誕生日デート……」


 それでも折角の二人でのデートなのだ、今日という日を楽しみにしていた。

 一日中マリアと一緒に居られて、二人での思い出を作れる。

 なのに、そこに今日知り合ったばかりの人たちを入れるのは、どうしても忌諱感があった。


 俯いてしまうセシリアにマリアは苦笑する。

 娘の内心が手に取る様に分かるだけに、少しだけ申し訳なさが募る。


「とりあえず、お店を出ましょうか」

「……うん」


 二人は店を出て歩きだす。人混みの中を、会話の一つも無く手を繋いだまま、ただ歩く。


 暫く歩いて、マリアは足を止める。

 つられて止まったセシリアは周囲を見渡した。


「お母さん、ここは?」

「ここはお母さんのお気に入りの場所です」


 そこはまるで別世界の様に静謐だった。

 一本の樹木を中心に芝生が広がり、傍らには日光を反射して煌めく湖と美しい白鳥の親子。

 直前までいた蚤の市の騒々しさは一切しない、鳥のさえずりと穏やかな風のささやきだけが空間を支配していた。


 セシリアはこんな場所があって、マリアのお気に入りだと言う言葉に目を丸くする。

 基本、嫌われたくないから束縛に繋がる様な事はしなかった。

 本当なら一日中一緒に居たいが、嫌われたくない一心でそう言った事はせず、時折一人で散歩に行くのを宿屋から見送るのが基本スタイル。


 だからアリアが一人で出歩くときは何をしてるのかを一切知らなかった。


「よいしょ。セシリア」


 マリアは芝生の上に座り込み、自分の脚を叩く。

 誘われるがままにセシリアはマリアに背を向けて、足の上に座る。

 そんなセシリアに苦笑しながらも、後ろから抱きしめる。


「ごめんなさい、気分を悪くしてしまいました?」

「……別に良いよ、大丈夫」


 怒ってはいたが、ちゃんと理解している。

 マリアが一緒に居たくないからあんなことを言った訳では無い。同年代の子達と一緒に遊んで欲しいという親心なんだと分かっていた。


 それでも悔しいものは悔しい。


 今日一日はずっと一緒に居られると思ったのに、それを裏切られた様な気がして。

 分かってはいたが納得できなかった。だから今も背を向けている。


「お母さん、セシリアにはもっと色々な事を知って欲しいんです。楽しい事も悲しい事も、一杯いっぱい色んな事を見て聞いて感じて、少しずつ大人になって欲しいんです。今回はちょっと急ぎすぎちゃいましたけどね」


 マリアの温もりが心地よい。

 一緒に居てくれるだけで良い、マリアさえいてくれればいい。

 たとえ愛してくれなくても、ただ傍にさえ居られればそれで良いと思うセシリアの内面を知っているかのように、マリアは自立を促すような独白を零す。


 思わず、離れがたいと言うかのように抱きしめるマリアの腕を掴む。


「そうですね。いつかセシリアが大人になって、貴女の事を心から愛してくれる人と一緒に家庭を築いたら、そしたら私はいらない子になっちゃうんでしょうね」

「そんな事ない!!」


 言葉を遮る様に悲鳴を上げて振り向く。

 何でそんなことを言うの。と涙で視界が滲みながらも、セシリアはマリアを見上げる。


「お母さんは何時までもお母さんだよ! 要らないなんて無い! 一緒に居てくれなきゃヤ!」


 大好きなマリアを捨てるはずがない。愛してくれる人ならもういる、大人になってマリアと居られなくなるなら大人になんてなりたくない。

 思いが渦巻きすぎて上手く言葉に出来ない。泣いて縋りついて懇願するしかできない。


 絶対に離したくない、離れたくないとしがみついて嗚咽を零す。


 そんなセシリアに、少し意地悪が過ぎたと反省する。


「セシリア、顔を上げて下さい」


 穏やかなマリアの声に導かれて、鼻を啜りながら顔を上げる。

 マリアは穏やかな微笑を浮かべながら、小さな箱を取り出して開くと、それを手にセシリアの首に腕を回す。


「……これは?」

「セシリアが気になっていたから買っちゃいました。エーテナルと呼ばれる宝石みたいです。石言葉は『永遠』又は『不変の想い』」


 それは、セシリアが先の宝石店で見た二人の瞳と同じ空色の宝石だった。

 控えめだが、上品なネックレスは陽の元にかざすと美しく輝き、透明感があった。


「何か特別な魔法効果がある訳では無いですが、お母さんからのプレゼントです」


 ぎゅっとネックレスを抱きしめた。

 マリアと同じ色の宝石。

 石言葉も相まってマリアが常に傍にいる様な気がする、嬉しくて嬉しくて、涙がボロボロと溢れてくる。


「おかぁさん……お“があざん……うれし、う“れし”いよ……!」

「よしよし、喜んでくれて私も嬉しいです」


 赤子の様に泣き出すセシリアをいつまでもマリアは抱きしめた。


 マリアと一緒に居たい。

 愛してくれている、ずっとそばにいてくれる。


 そして改めて思う。

 この人が好きだ。

 愛してる。


 だから絶対に、一生離れたくないと思う。

 大好きなマリアと、一生一緒に居たいと。


 マリアは娘を抱きしめながら空を仰ぐ。

 そこには二羽の鳥が舞っている。鳥たちは決して離れない、お互いが同じ方を向き共に寄り添う。


 愛しい娘が、いつか自ら巣立つその時まで立派に愛そう。

 でも、少しだけ、ほんの少しだけ、その時が来ないと良いなと思ってしまう。


 その時を想像し、胸に走る小さな痛みを堪えて。


 朗らかな公園の大樹の元、抱き締め合う二人は幸せその物だった。


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