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私のお母さんになってと告白したら異世界でお母さんが出来ました  作者: れんキュン
1章 お母さんになってと告白したら異世界でお母さんが出来ました
11/146

認めるよ。お前が勝者だ



 熱気が渦を巻き、歓声が響き渡る。

 老若男女問わずこの場に居る者たちは酒や軽食を手に、仲間と賭けをしながら会場の熱気に当てられて盛り上がる。


 ただの腕相撲大会、誰もがそこまで盛り上がるとは思ってはいなかった。まさか会場から人から溢れる事になるとは。


 これには運営側も嬉しい悲鳴を上げる。


 その要因は言わずもがな、齢10の天使の如き愛らしさのセシリアだろう。

 可愛い女の子が居ると言うだけで人々の興味はそそられるのに、更にその女の子が大の大人達を相手に負け知らずともあれば、その人気は留まる所を知らない。


「本当に棄権しないのか」

「しないです」


 そんな熱気に包まれた会場で、筋骨隆々な犬耳の獣人の男性とセシリアは向かい合う。

 男はやはり危険を説いて降伏を促すも、にべつも無く断られ難しい顔をする。

 しかし既に賽は投げられている。渋々と言った形で男は肘を着き、それに倣いセシリアも補助台に足を掛け腕を構え合う。


 観客席を見てもマリアが居ない、その事にセシリアは既に戦意が減衰しもう負けてもいいかと思ってしまう。


「どうなっても知らないからな」

「大丈夫です」


 審判が両者の繋がった手を抑える。


「それでは! 第三試合、セシリアちゃん対ダグラス選手! れでぃー……ンファイ!」

「フッ!」

「ンッ!」


 ゴングが鳴った瞬間両者は力を籠める。

 ここまで勝ち残っていた事で力はあるのは分かっていたが、やはりどうしても見た目が少女。

 ここまでの試合は殆ど勝負らしい勝負をしていなかったのだろう。と観客は思っていたが、いざ目の前でガチのパワーファイトをしているのを見て目を剥いてしまう。


「なかなか……やるな!」

「そっちこそ!」


 男は一瞬目を剥いたが、予想以上に張り合えることが分かり闘争心に火を付けられ目の前の少女に対する認識を変える。

 セシリアも、三戦目にして骨のある相手にぶつかり、戦意が蘇る。しかし万全ではない。


 二人は獰猛で、楽しそうに歯を見せあうとより一層力を籠める。

 完全に拮抗した状況だが、徐々にそれが変わりだす。


「フヌヌ……」

「おーっと! ダグラス選手優勢! さしものセシリアちゃんもここまでかー!?」


 しかし力が強いと言えど10歳の女児。徐々に腕が下がり始め焦りが生まれる。

 歯を食いしばって堪えるが、好転しない。

 マリアが見ていない所為でやる気がそがれ、もう負けても良いかな。と脳裏によぎった瞬間、愛し人の声が聞こえる。


「セシリアー! 頑張ってくださーい!!」

「なに!? ググ……ガアァ!」


 耳に届く母マリアの声援。


 心の奥底、ハートの奥深くで、熱い魂が叫ぶ。


 かっこいい所を見せるんだ!


 突然力を増したセシリアに、男は目を剥いてしまう。


「ヌグォ!?」

「なんとなんと! ここで形勢逆転!! セシリアちゃんが優勢だぁぁ!!」


 会場の熱気が一層上がり、歓声で埋め尽くされる。

 最早マリアの声援は届かない。だがそれでも、そこで見ていてくれる。そう思えばセシリアは格好悪い所を見せる訳には行かなかった。


「フギギ……!」

「ムッ! ……ウオオォ」


 血管すら浮かべながら両者は全力をぶつけ合う。

 最早そこには10歳だとか、男だからなんて感情は無かった。ただお互いを同等の敵と見做し絶対に負けない、という意志だけが秘められている。


 相手の拳を握りつぶさんという勢いで籠められた拳は、ガアァン! という音と共に倒れ込む。


「試合しゅーりょー!! 勝者セシリアちゃん!!」


 カンカンカンというゴングの音と共に試合の終わりが告げられ、オーディエンスの悲鳴とも歓声ともとれる声が空間を揺らす。

 荒い息を吐きながら、セシリアは司会に言われるがままに観客に手を振る。


「素晴らしい戦いだった。侮ってすまない」

「こっちこそ、言葉悪くてごめんなさい」


 全力を持ってぶつかった二人は試合前の空気は何処へやら、すっきりした笑顔を浮かべ互いを讃える握手を交わす。

 そんな二人に熱い賞賛が送られ、男ダグラスは颯爽と試合会場から姿を消す。


「セシリアー、カッコよかったですよー!」

「にひひ!」


 それこそ、晴れ晴れとした快活な笑顔と身振りでセシリアはマリアにVサインを送る。

 マリアの声援が有ったから勝てた。と、そのまま次の試合が告げられマリアは会場に視線を戻す。


「それでは今大会ももう終盤! 残りの参加者は4名! 皆さんもお疲れと思いますので、キリキリとやっていきましょう!」


 少しの笑いに包まれる中、視界が告げた次のセシリアの対戦相手は。


「決勝前に当たっちゃったねぇ」

「そうですね」


 セシリアに挑戦状をたたきつけたアラクネアの女性、ラクネアだ。

 非常に楽しそうにニヤニヤと笑っている。


「お嬢ちゃんホントに人種なのかい? 力強すぎでしょ」

「知らないですよ、生まれつき身体が丈夫だったんです」


 嘘ではない。

 セシリアは生まれつき身体が丈夫で、生まれてこの方一度も風邪を引いたことも無かった、身体が強いのも生まれつきだ。

 始めは驚いたが、魔法や亜人の居る世界なら何でもありかと早々に順応し、丈夫な身体に産んでくれたマリアに感謝している。


「まぁどうでもいっか、アタシは勝って掛け金と酒を貰うんサ」

「……貴女シスターなんですよね? 良いんですか?」


 物欲塗れのシスター? に胡乱な目を向けるも、当の本人はどこ吹く風。


「欲が無くちゃ人じゃないだろ? それに別に悪いことしてる訳じゃないんだ。清廉潔白に生きて、神様に祈ってパンと水が飲めるならアタシだってそうしてるさ」


 恐らく、敬虔な信徒なら激怒する様な発言だろう。

 だが前世が無神論者で今世でも宗教に関わりの薄いセシリアからすれば、ここまであけすけだと最早気持ち良いとも思った。

 それに、どこか憎めない愛嬌の様な物がある。


「まぁそんなことはどうでもいいんだよ、さっさとやっちまそうさ? ちびっ子達が飽きだしてくる頃合いだ」

「そうだね、私もお母さんとのデートの時間が押してるし」


 だが今はそんな事はどうでも良い。二人はにやりと笑って腕を組む。

 審判が手を置き、全身に力を漲らせ、固唾を呑みその時を待つ。


「セシリアちゃん対ラクネアさん。レディ……ンファイ!」


 ゴン!


 何故か試合開始のベルとは別に鈍い音が響いた。


 会場中の時が止まったかの様な静寂に包まれる。


「あれ?」


 ラクネアの手が内側に倒れている。つまりラクネアの勝利だ。

 誰もが呆然とする、あっけなさすぎると。


 く~……。


 可愛らしい音を審判のマイクが拾い会場中に響き、その音の発生源に誰もが顔を向ける。


「っ…!…!」


 天使の様な可愛らしさで、鬼の如き力を持つ少女は顔を真っ赤にして俯いてたが、暫くすると脱兎の如く駆け出してその姿をくらました


 こうして、セシリアの快進撃はあっけなく終わる。



 ◇◇◇◇



「もう無理~、恥ずかしさで死ぬ~」

「大丈夫ですよ、お腹空いて力出なかったセシリアも可愛かったですし」

「それが恥ずかしいの! ……それに結局優勝できなかったし……もう穴があったら入りたい!!」


 アームレスリング会場から飛び出したセシリアは、マリアを連れてトボトボと蚤の市の散策を再開する。

 しっかりと手は繋がれているが、セシリアの顔は真っ赤で今にも爆発してしまいそう。羞恥で顔が上がらない様子。


 そんな娘が可愛く、マリアはニコニコと微笑みながら並行する。


「とりあえずお昼ご飯食べましょうか、セシリアのお腹はもう限界みたいですし」

「はぁ、この空気の読めない腹の虫を早くどうにかしよう」

「ならそこのお店にしましょうか、良い匂いしますし」


 二人は目の前にある和風なお店に入る。


「へいらっしゃい、二名様? 畳の席へどうぞ!」

「ここは……随分雰囲気のいいお店ですね、この畳も触り心地が良いです」

「あれは……ウナギ丼!?」


 セシリアは他の客が食べているその料理に目を剥いた。

 それはまさに前世で見慣れたウナギ丼であり、漂ってくる香りから何までその通りだった。


「ご注文はお決まりで?」

「あ、あの! あれ、あれ下さい!!」

「へぇ美味しそうですね、私も同じのを一つお願いします」

「あいよ! 海竜丼二丁ね」


 店員が注文を取り、代金である銀貨六枚を受け取って去っていく。

 高い食事だがマリアは気にしない、涎を垂らすセシリアが可愛らしいし、何より自分も気になる。


「嬉しそうですね、お母さんもなんだかお腹減ってきました」

「うん! もう早く食べたくてしょうがないよ!」


 セシリアはもう食べる事しか考えられなかった。

 腹の虫が悲鳴を上げていたのもそうだが、魂に染みついた日本人心が呼び起こされたから


(お米!! こっちに転生して10年、お母さんのご飯で満足していたけどお米を目の前にしたら前世の私が疼いて来た!!)


 母マリアとの生活で心が満たされ、お風呂にも入れるトリシャ達の宿屋のお陰で郷愁などの感情はそこまで出なかったが、いざそれを前にすると強く思い出してしまう。

 既に涎が留まる所を知らない。


 今か今かと落ち着かなくなってしまう二人に、聞きなれた声が届く。


「やっと見つけた」


 二人が見たのはスーとイヌを背に抱えたアラクネアのラクネアだった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 真ん中あたりのラクネアのセリフ「まぁそんなことはどうでもいいんだよ、さっさとやっちまそうさ? ちびっ子達が飽きだしてくる頃合いだ」 のやっちまそうさって誤字ですかね。彼女の独特な言い方…
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