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本当に馬鹿だと笑っていこう

 


 天井を突き破り突如現れたセシリアは目にも止まらぬ勢いでアイアスへ肉薄し、腕を殴り飛ばす。その威力たるや、壊すどころか千切り飛ばしてアイアスの腕が宙に舞った。


「ぃぎ!?」


 咄嗟に避けたお陰で腕一本で済んだ。ほんの少しでも判断が遅ければアイアスの頭と首は泣き別れしていただろう。

 腕が千切れるという悶絶も許さない激痛に激しく顔をゆがめながら、アイアスは【物質に干渉する魔法】を起動し足元から石槍をセシリアのどてっ腹に突き立てる。


 石槍に貫かれ足が浮き、牙を剥き唸り声を上げるセシリアからフランを残った左腕一本で抱えたままアイアスは大きく距離を取る。

 冷静さを取り戻す時間が欲しい、息を整える時間が欲しい。

 目の前の化け物は何だ。何故ここ現れた。どこか見覚えがあるのは気のせいだろうか。


「っ!!」

「GAァ!」


 しかし一息つく時間すら与えてくれず、乱雑に石槍を壊したセシリアは再び突進してくる。

 目でギリギリ追える、しかし動きを何とかつかめても反応するのは難しい。疲労困憊な上、右腕は千切られ左腕にはフランを抱えている。

 出来ることと言えば、逃げ腰のまま魔法を使って距離を稼ぐことだけ。


「ふっ、ふっ」


 必死で振るわれる暴力から逃げ続けるアイアスだが、元々足を負傷していた所為もあってすぐに息が切れ、冷や汗なのか脂汗なのか分からない、じわっと身体が火照る嫌な感覚に襲われ浅く息を紡ぐ。

 一撃でも真面に食らえば、初老のアイアスなんていとも容易く壊されるだろう。

 ほんの一瞬の気の緩み、瞬きすら許されない中でアイアスは必死で頭を捻る。


(何とか逃げなきゃ、たけどどうやって逃げる。装備も殆ど残ってないし、簡単に逃げられる訳も無い。このちびっ子を捨てれば逃げられるだろうけど……)

「はっ」


 ほんの一瞬、脳裏に浮かんだ考えを鼻で笑った。

 自分は今何を考えた? 折角目先の敵を見逃してまで助けた少女を見捨てる? 老い先短い年寄りが、我が身可愛さに子供を盾に使う?

 余りに馬鹿馬鹿し過ぎて、顎先に尻尾を掠めさせながら思わず笑ってしまう。


「舐めるんじゃないよ! 年寄りにも年寄りの矜持ってもんがあんだよ!!」


 己を鼓舞するように吠え、フランを後ろに放り捨てながら空気を抉る蹴りを避けて懐に潜り込む。

 逃げるのがダメなら前へ、目の前の脅威を打ち破らなければ。


 今の今まで逃げ続けていたアイアスの突然の反撃に、セシリアの反応が一瞬遅れた。そしてその隙を見逃さず、アイアスの指先を伸ばした左手がセシリアの脇腹に当てられる。


「はぁっ!」

「ガッ!?」


 腰を深く地面に根が生えるように腰を落とし、水が上から下へ流れるような自然な体重操作で重く響く衝撃を発してセシリアの身体を吹き飛ばす。

 地震の様に重く響く衝撃は、甲殻の向こう側。臓器に直接振動を届ける。結果、セシリアの内臓は千切れるほどのダメージをダイレクトに負い血反吐を吐き出した。


 派手に吹っ飛ぶセシリアへ、アイアスは地面に落ちていたリボルバーを手早く拾うと間髪入れずに全弾ぶち込む。

 一切の躊躇いなく引き金は引かれるが、弾丸は固い甲殻を前に弾かれただけで終わった。

 銃弾すら効かないのかと歯噛みするアイアスを前に、セシリアは内臓の痛みに血を吐きながらフラフラと立ち上がる。


 そして使われた魔法を見て、正体を悟りアイアスの目が見開かれた。


「ナ“ォエ”」

「っ!! あぁそうかい。そうかいそうかい、この馬鹿弟子が……」


 アイアスは効かないなら要らないとリボルバーを捨てながら、口と左手を器用に使ってベルトで右腕を止血しながらセシリアを睨みつける。


 驚くほど冷静にその事実を受け入れられた。そして、自分でも信じられないほど腸が煮えくり返りながらも涼しい風が吹き抜けるように冷静さを齎す。

 何があってこうなったのかは知らない。何でそんな姿をしているのかも関係ない。

 馬鹿な事をしている弟子の目を覚まさせるのは、師匠であり大人の役目だから。


「あんたマリアを探すんじゃなかったのかい、マリアはどうした?」

「ウ“ゥ”ァ……」

「その目覚まさせてやるよ。来なセシリア」


 低く腰を落とし半身に構え、左手を前に出す特徴的な構えで睨みつける。言葉の通じない相手には、痛みで教えるしかない。

 指先を折って来たければ来い、と挑発すればセシリアは飛び出す。

 先ほど一撃を貰ったのは偶然だから、目の前の敵は年寄りで隻腕だからと侮るように真すぐに真正面から。


 セシリアは右腕を振りかぶり、全力でアイアスの顎を破壊しようと振り下ろす。アイアスはその一挙手一投足を瞬きすらせず見極める。頑として一歩も動かず。

 静かに、呼吸を整え、一瞬のチャンスを待つ。

 待って、待って。竦みそうになる心を気合でねじ伏せ、セシリアの拳が産毛を撫でる瞬間まで待ち続けて。


「ふんっ!」


 セシリアの拳がアイアスの顎に触れ、僅かに骨が割れた音が頭蓋に響いた瞬間セシリアの殴った腕はアイアスに抱き込まれると共に態勢が前のめりに崩れた。

 脇固め。

 アイアスは予め腕を前に出していた。それは間合いに入れられない為であり、間合いに入られた場合、肩に触れるため。

 そしてその腕が肩に触れたら最後、刻み込まれた技術はアイアスの身体を無意識に動かす。


 一本。

 セシリアの左腕を背中側に伸ばし確実に抱き込むアイアスは、今確実に優位に立っている。動こうにも腕を決められているセシリアに、アイアスは致命の一撃を入れる事が叶う。

 これがセシリアでなければ。


「ッ!! ガア“ア”ァ“ァ!!」

「んなっ!?」


 激痛に吠えながら、腕を折りながらセシリアは無理やり立ち上がりアイアスへ振り返って爪で切りかかった。

 ゴキッだかブチブチッだかといった形容しがたい音と共に、セシリアの右腕は千切れる。おおよそ常人なら選ばない手段でもって拘束から抜けた。

 だがアイアスの驚きは一瞬。相手が理性無き獣だからと一切の油断をしていなかったお陰で、攻撃を避けると手りゅう弾を足元にバラまきながら飛び退く。

 爆発をいくつも轟かせ、視界は完全に土埃に塞がれるが肌がぴりつく殺気が明確に気配を察知でき、土埃の中から飛び出してくる尻尾を顎を逸らして避ける。


「ったく、そうやって無理やり戦うのやめろって言ってるだろ」


 冷静に、豪快に、大胆に地面を変形して大量の石槍をセシリアへミサイルを掃射する様に大量にぶち込む。

 躊躇いなくぶち込まれたセシリアは、爆発によって両足は吹き飛び身体中にハリネズミの様に槍が突き刺さっている。

 目の前にいるのが愛弟子であるセシリアだと分かった上で、死なないギリギリまで痛めつけてやろうという怒りから荒々しい。


「ウ“ゥ”……GAァ!」


 千切れた腕や足をあらたに生やしつつ、鬱陶しそうに槍を抜き捨てると第二ラウンドと言わんばかりに地面を蹴る。

 今度は真正面から突っ込む様な真似はしない。周囲の柱を足場に縦横無尽に駆けアイアスの死角に潜り続けて隙を窺う。

 アイアスは微動だにせず、真っすぐ正面だけを向いて集中している。単純に反応できないのか、セシリアを追えていない。ならばと、隻腕の死にかけの年寄りの首筋に牙を突き立てようと、完全な死角を突いて今飛び出した。


 ジャコン。


 聞きなれない、スライドが引かれる音がアイアスの懐から鳴り響く。

 それが何かを悟る前に、セシリアの鼻先に銃口が突き付けられた。太くて、長い、リボルバーとは違う大砲を小さくしたような銃口。

 咄嗟に頭を逸らした瞬間、引き金が引かれる。


 ドッガゥン!!


「……ゲガッ!?」


 炸裂が響き渡ると共に肩回りが盛大に砕け散り、宙に浮いていた状態で食らったセシリアは、物理法則に従い後ろに転げ落ちる。

 振り返りながらその特徴的な長い銃を構えるアイアスは、再びスライドを左腕一本で豪快に叩き落すように引いて顔を顰めた。


「アンタが欲しいって言ってたショットガンの味はどうだい……しっかし一発で壊れるのは改良しないとね」

「ウ“ゥ”……ナ“ォ”ッ!? ガッ!?」

「ふぅ。やっとかい」


 膝立ちで肩を直して立ち上がろうとしたセシリアは、突然ガクッと膝を突く。酷い立ち眩みに襲われた様に呻いて立ち上がることが出来ない。

 ただのこん棒程度になったショットガンを懐にしまいつつ、アイアスは漸くと安堵した。その顔には疲労が色濃く浮かんでいて、顔は青白いを通り越して真っ白でもう限界なのが一目で分かる。

 本当にギリギリのタイミングで、アイアスの仕込みが効いたのだ。


「さっき内臓を破壊したときに、ちょっと魔力が外に漏れるように仕込ませてもらったよ。一か八かだけど効いて良かった」


 純粋な戦い方で今のアイアスに勝てる見込みはなかった。だからこその仕込み。きっとこれしか勝つ手段は無いと思っての瞬時の判断。

 魔力の流れを少しだけ乱す、アイアスの【物質に干渉する魔法】だから出来る芸当。何てことない、筋肉痛の様に普段通り魔法を使いにくくするだけの仕込みだ。

 だがその違和感が、刹那の差で勝敗を分ける戦いにおいては天秤を傾ける。きっと理性があればその違和感を取るために一度下がるだろう。だが今のセシリアなら無理やり魔力を過剰に使って魔法を使うだろうと予想していた。

 そしてその考えは、見事的中。今、まさにセシリアは魔力を使いすぎて立ち上がることも叶わない。


 何とか立ち上がろうとしても、平衡感覚が失われ立ち上がれないセシリアへ近づく。


「馬鹿がっ、そんな姿で何を守るってんだい。守りたいって。死んでも守るって言ったのは誰だい」


 怒ってるようにも、悲しんでるように見える苦々しい顔で見下ろす。

 この五年で見慣れた戦い方をする姿が、どれだけ見た目が変わろうとセシリアであるんだと。馬鹿正直で、マリアの事ばっかり考えていて、強そうに見えて脆い子供。

 まさかこんな形で魔王である父親の力が出るとは思わなかったが、今はその力に苦しめられている様にアイアスには思えて仕方ない。


 だけど、どれだけ姿かたちが変わろうと、その心が激情に狂わされようと目の前にいるのは弟子なのだ。

 苦しんでいる子供がいるなら、助けなくてはいけない。それはアイアスの矜持。


「楔は打つさ。でも戻ってこれるかはアンタ次第だ……見失うんじゃないよ」

「!!」


 セシリアの頭に拳骨を叩き込む。アイアスが聞いた、セシリアの大切な人がしてくれた、子供を窘める肝っ玉で豪快だけど、優しいもう一人の母親の言葉(意思)

 持てる全てをぶち込んで、アイアスは託す。深海の中に沈むセシリアを浮き上がらせる為の、命綱を。


 そのタイミングで、限界を迎えていた空間はけたましい音を立てて崩れだす。天井は崩れ、足元も崩れ落ちる。

 倒れ伏すフランも、苦しむセシリアもアイアスも、みな一様に闇の中に落ちていく。

 全てが瓦礫の中に埋もれる中で、アイアスは思わず笑ってしまった。


「年寄りには些か厳しいよ、ばあ様」



 ◇◇◇◇



 崩れ落ちる建物を眺めながら、アダムは性根の腐り具合が透けて見える笑みを浮かべている。

 惨状を前にしても愉悦を浮かべ、自分の目的の為だけに行動する。苦しむ人を目の当たりにしても微塵も助けようなんて気を起さず、寧ろ鬱陶しそうする。

 そんな彼は、セシリアのあの姿を思い出して心底苛立たし気に顔を顰めた。


「あの姿。見間違う筈もない、ファウストの姿と酷似している。娘? 実験体如きが本当に腹立たしい」


 セシリアの姿が誰によって遺伝したのか、そしてその力の根源も彼は知っている。

 だからこそ苛立たしい。積年の恨みつらみが募ったような怒りの形相で、崩れ落ちた場所を睨みつける。

 だが常に冷静であろうとしているのか、深く息を吐くと瞑目して僅かに俯く。眠っているわけではない、荒ぶる内心を静ませようとしているだけ。


 アダムの背後から砂利を踏む足音と共に一人の白衣の男性が近寄り、アダムは薄く目を開く。

 眼鏡を掛けた白髪交じりの茶髪の男性。やや不健康そうな顔色と恰好が如何にもという風なオルランド。フランとダキナの義手の制作者でもある、研究者だ。


「人になるために作られた物でも、夢は見るんですか?」

「……夢なんて所詮記憶の整理ですから、この身体にはその必要も無い」

「ほう、便利ですね。魔道歴というのは本当に興味深い」


 挑発的に、皇子アルベルトではなくアダムとしてオルランドは接する。

 彼は目の前の男がアルベルトの身体を使う、魔道歴の遺物だと知っている。隠す気も無いアダムの態度だから仕方ない事ではあるが、その事についてオルランドは特に何も思うところは無さげ。

 寧ろ興味深そうに、眼鏡の奥の瞳をギラつかせている。


 自分の欲求に心底忠実なその姿に、アダムは皮肉気に笑う。


「本当に、人間とは業が深い」

「貴方がそれを言いますか?」

「俺だからですよ。それより、どうしてここに?」

「あぁそうでした。本題を忘れるところでした」


 意味深に確信を突かない会話をしつつ、オルランドは今思い出したとばかりに手を打つ。爛々と目を輝かせながら、その口から今まさにアダムが顔を顰めた少女の名を告げた。


「例の半魔の娘。セシリアの事を聞かせてもらいたくて」


 その言葉に、アダムの顔が強張る。そして射殺さんばかりに睨みつける。何故、何故それを俺に聞こうとしたのか。と。

 殺気すら感じられるアダムを前にしても、オルランドは余裕を崩さず眼鏡を直しながら口端を引く。


「いやですねぇ、考えれば分るでしょう? それに僕は研究者ですよ? 貴方がアルベルト殿下の身体を奪った時から、魔道歴の遺物である事を示した時から調べましたよ。貴方の作られた目的も、貴方がしたい事も。存在意義を奪われた——」

「もういい」


 気持ちよさげに語る彼を遮り、アダムはため息をつく。

 その顔にはありありと『想定以上だ』という苛立ちと、『まぁ当然だろうな』という納得が混在している。

 観念したかのような素振りで、アダムは向き直った。


「魔王ファウスト。その娘ですよ」

「っ!!」


 端的に、的確に告げられた答えはそれだけで十分だった。その答えにオルランドは目を見開き、呆然と見つめる。

 本当か? 本当なのか? 信じていいんだなと。脳みそで正しくその情報が処理された時、オルランドは吠えた。


「すっっっっっっっっっっっばらっっっしいいいいいいいイイイイィィィィィィィ!!!!!!」


 興奮に大量の狂気を含ませて吠える。目を見開いて歓喜した。

 それは探し求めていた宝物を見つけた少年の様に純粋に。真実の愛を見つけた蕩ける少女の様に。人生最後の瞬間に自分が長年探し求めていた答えを得た老人の様に。

 涙を流しながら狂ったように歓喜に笑い叫ぶ。


「世界すら歪められる力を持ったあの魔王ファウストの娘!!?? しかもただの娘ではなくその血を正しく受け継いだ上、伝承にしかない天使の血も混じっている!!?? あぁ僕は、あぁどうすれば……」

「嬉しそうですね」

「当たり前じゃないですか!!!」


 血涙すら流さんばかりで歓喜乱舞するオルランドに、流石に引き気味なアダムが声を掛ければ彼は鼻息荒く肯定する。

 勢いよく詰められたが、すぐさま彼は離れ小躍りというには些か運動神経が足りない動きで踊るように歩き回る。


「人類史最凶で最強とまで言われ災害すらも超える、まさに神と言ってもおかしくない強さと言われた魔王! その力が目の前に! それにあの姿! 魔法ではない! 何か体質的な物による肉体変質で勇者と剣聖とまで言われる二人を凌ぐその強さ!! 魔法でないなら転用できる!! 更に想像の産物だった天使の存在! それを解き明かせれば神の存在を暴ける!!」


 人は夢を見る。

 ある者は世界一の金持ち。ある者は心から愛しい人との幸せな生活。またある者は世界中の人間からの称賛。

 だが、往々にして夢は夢で終わるのが定石だ。様々な挫折や苦難を乗り越えてまで、その夢にしがみつこうと思うものはいない。

『子供の頃は御大層な夢を持っていたな』と大人になった時に苦笑いするのが定めである。若しくは、高い壁を必死で超えて夢に手が届いた所で『もうこれで良いか』と妥協して、やっと終わったと安堵するかのどちらかである。


 間違っても、一切の妥協を許さず。その夢の為ならあらゆる物を犠牲にしてまで夢を叶えようとは思わない。何故なら執着してしがみつくのは、夢とはもう言えないから。

 夢なんて曖昧な物ではなく。『絶対に実現する。その為なら死んでも成し遂げる』と思った時点でそれは人生そのものに変質する。


「あぁ、素晴らしいなぁ……欲しいなぁ……あの力があれば僕は……僕は」


 息を切らしたながら、未だ熱は冷めていないが少し落ち着きを取り戻したところで襟を正す。

 どこか気恥ずかしそうにぎこちなく笑い、眼鏡を直す姿は先ほどの姿さえなければ好印象を思わせる。


「それでは、僕はやる事が出来たのでお先に。それとエリザベス陛下より伝言です。——次の作戦の準備を急げ——との事です」

「えぇ。よろしくと」


 悪者は次の悪だくみへ移る。

 だが意外と、二人はそこまでそれに興味を示さず仕事だから仕方ないとでも言うように気乗りしなさそう。

 二人の興味はもっと別の所へ。自分の事だけを考えて。


「お互い、夢を叶えられるといいですね。では」


 穏やかな笑みを携えて、オルランドは軽やかな足取りで去っていった。貰ったばかりの誕生日プレゼントを、早く自室で開けたいと浮かれる子供の様に楽しそうに。

 その背中を見送り、アダムもまた戻ろうと踵を返しかけ、最後に崩れた瓦礫へ振り返る。


 その瓦礫の中から、虹色の髪が覗いたのを視界の端に捉えながら。


「今は見逃してやる。だがファウスト、貴様の残したものは全てこの俺が壊してやる。俺こそが相応しいんだ」


 化けの皮をはがして、憎々し気に呟いて闇の中に消える。

 それは憤怒というよりは、何処か嫉妬の様でもあった。


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[良い点] セシリア幸せになってほしい
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