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私のお母さんになってと告白したら異世界でお母さんが出来ました  作者: れんキュン
1章 お母さんになってと告白したら異世界でお母さんが出来ました
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格好いい所見せたいのが、子供心だろ?




「レディース……アーンドゥ……ンジェントルメーン!! やってまいりました本日は第一回アームレスリング大会。野郎共! 自慢の筋肉は磨いてきたかぁ!?」


 男の声を皮切りに会場は騒音に包まれ、既に暑苦しかった空間の温度が三度はあがった気すらする。

 だが男達は叫ぶ。


 今日の為に磨き上げた筋肉を誇りに、研鑽を重ねた技術を胸に、ひそかに想いを寄せる花屋のあの子に想いを伝えるために。

 男達は万感の思いを込めて吠える。


 そんな男の熱い魂がぶつかり合う空間に、一か所だけ異様な空間が出来る。


 誰もが其処には踏み込まない。

 安物の長椅子が置かれてるだけの其処は、まるで王の玉座を幻視してしまう程に高く感じられ、神が降臨したかの如き神聖さを、清廉さを感じる。


 男達はその余りもの世界の違いに、そこに一歩も近づかない。否、近づけない。

 一歩でも踏み込んだが最後、穢れた我が身が浄化され天界に召されてしまうと筋肉が叫ぶから。男達の筋肉は叫ぶ、お前たちの夢はこんな所で終わって良いのか、挑戦すらせずに楽な道へ行くのか、と。


 そうだ、自分たちは今日の為に苦しい日々を耐え抜き身体を磨いてきた。こんな所で逃げて言い訳が無い。と自己防衛する。


 勿論、そんなことはその空間に居る二人は知らない。

 二人はニコニコと笑い合いながら、自分たちの出番を待つ。


「楽しみだねぇ、何処まで行けるかなー」

「セシリアなら優勝しちゃうかもしれませんね」

「えへへ、そしたら今日はお祝いだね!」

「はい、セシリアの誕生日と合わせてお祝いです」


 そんな母子の会話だけで男達の何人かは手を合わせて魂が抜けだす。

 慌てて周りの男達が取り留める事でなんとが一命を取り留めるが、熱い意欲と情熱は「尊い」に埋め尽くしている。彼はもう駄目だろう。


「ルールは簡単! 魔法の使用は一切なし! 己の肉体一つで腕相撲をしていただきます。えー、今回参加した方々は32名! 丁度偶数ですね、良かった。参加者の皆さんはトーナメント分けが済んだので会場に降りてきてください」

「お、それじゃ行こっか」

「はい、頑張りましょう!」


 握りこぶしを作って意気込む姿は娘セシリアより幼い。だがそんなマリアがセシリアには愛おしく感じる。

 前世の母とは真逆、だから新鮮に感じられるのかそれとも母だから良いのか。それはセシリアにも分からないしどうでも良い。


 会場に降り立った中で、女性はセシリア達だけ…と思いきや見覚えのある顔を見つける。


「あ、さっきのアラクネアの人!」

「ん? おや、奇遇だねこんな所で」

「貴女も参加するんですね」

「まぁね、商品と金欲しさって奴さ」


 肩を竦めて笑うと、アラクネアの鋭い歯が覗く。

 そんな彼女を応援する声が観客席から届き、見るとスライムのスーと猫獣人のイヌが居る。


「なぁあんた達賭けはしたか?」

「? してないよ?」

「ええ」

「そうかそうか……」


 アラクネアは複眼の全てを細めて、舐め回す様にマリアとセシリアの身体を見て薄く笑う。


「ならアタシに賭けな。勝たせてやるよ」


 それは明確な勝利宣言で、挑発だった。


 それに対してマリアは笑うだけだったが、セシリアは少し違った。


「そうだね、顔見知りだしお姉さんに賭けてみるのも良いかもしれないね……だが断る!」


 真っ向から胸を張って逆に笑い返した。

 アラクネアもマリアも、周りの男達も驚いて目を瞬かせる。

 そのまま親指を自身の起伏の無い胸に押し付けて張る。


「優勝するのは私! お母さんに良いとこ魅せるのも私!! 寧ろお姉さんが私に賭けた方が良いんじゃない?」

「……へぇ言うねぇ」


 二人の視線が交差し火花は散る。

 丁度そんな時に試合開始を告げるアナウンスが流れる。


「先で待ってるよ、お嬢ちゃん」

「速攻で行くから、首を洗って待っててね」


 戦意は完全。

 負けられない理由が出来たセシリアは拳の調子を確かめる。


「ど、どうしちゃったんですかセシリア!? あんな風に知らない人に喧嘩を売るなんて……」


 驚いたマリアが慌てながらも視線を合わせてくる。

 娘がグレた! と内心パニックな所為で若干泣きそうだ。


「えへへ、場の熱気に当てられたからかな? それに優勝してカッコいい所お母さんに見せたいし!」

「……そうでしたか」


 グレた訳では無いのか。と拳を握る娘の姿に安堵する。


「大丈夫です! セシリアは負けません! だって私の娘ですから!」

「お母さん……」


 母からの激励に歓喜で涙ぐむ。だがそれは流さない、拭った瞳には決意の炎が燃えていた。


「待っててお母さん! 私絶対に優勝するから!」

「はい! 応援してます!」


 さぁ! 私達の戦いはこれからだ!


「あのぉ……」


 呼びかけられた方に二人して顔を向ける。そこには非常に気まずそうな顔で二人の男がいる。


「そろそろ、試合……したいんですけど……」

「お母さんの方も何か終わったみたいな空気出してるけど、まだ戦ってすらいませんからね?」

「「……あ!!」」


 非常に締まらない形で試合が始まった。



 ◇◇◇◇



 第一試合に第二試合は一瞬で進む。参加者がそこそこ多いためここら辺は予選として適当に済ませられた。

 が、第三試合からは残り8人にまで減り、否が応にも会場は盛り上がる。


 そして、そんな強者達の中に10歳の女の子が混じっていれば尚更だ。


「セシリア―!頑張ってくださーい!」


 観客席からの母の応援にセシリアは笑顔で答える。

 マリアは一回戦敗退。非常にやり辛そうにする男性相手に、腕まくりして意気込むも「きゃっ」と可愛らしい悲鳴を上げて秒殺。

 男性は非常に居た堪れない気持ちになったが、マリアから笑顔で応援されここまで勝ちのびた。だがもう腕が限界である。


 そんな中でセシリアは着々と勝ち抜いていった。

 成人男性と10歳女児。

 勝敗は歴然だったが、それをひっくり返した時は会場に一拍の静寂の後爆音に包まれた。

 そのまま流れる様に二回戦に向かうと、秒殺。男達は開いた口が塞がらない。


「さぁ! 戦いは進んでとうとう残り8人! ここで一旦勝ち残った皆さんにお話を聞いていきましょう!!」


 並んだ八人の端から視界がマイクを向けていき、残った一人一人に意気込みや何やらを聞いていく。


「おい」

「ん?」


 観客席のマリアを眺めていたセシリアは隣の大男に声を掛けられる。見るからに力強そうな男だ、よく見れば犬のしっぽと耳が生えている。


「悪いことは言わない、棄権しろ」

「しません」


 こう言う事を言われるであろうことは予想していたし、実際先の二試合でも言われた。

 だが三度目ともなると少しイラついてしまう。


「そうか、怪我しても知らないからな」

「その時はお母さんに治してもらうから大丈夫です」

「お前の母親は治癒士か何かなのか?」

「いえ、魔法は使えません」

「……そうか」


 それっきり男は黙った。インタビューすらも一言二言しか喋らない、無口な人なのだろう。

 セシリアは一応、心配してくれた事に内心感謝するがそれは口には出さない。タイミングを逃したからだ。


「えー、それでは。今回のイレギュラー、セシリアちゃんにインタビューしていきたいと思いまーす」


 そんな司会の声と共に会場に活気が戻った。

 誰も彼もがセシリアに興味深々なのだ。


「それではセシリアちゃん、幾つか質問しても良いかい?」

「大丈夫ですよ」

「そっか、それじゃまずは年齢を聞いても良いかな?」


 大の大人が女児に年齢を聞く。なんだか危ない光景だが、セシリアは淀みなく答える。


「10歳です」


 会場からは歓喜と嘆きの声が上がる。


「人種の?」

「そうだと思いますよ?デミともハーフとも聞いてないですし」


 ちらりとマリアのいる方を見たが何故かそこにはマリアの姿が無い。お手洗いかな? と首を傾げ幾つかの質問に答えていく。


「ありがとうございました! それでは次は……」


 司会者が次に行くと、緊張していたセシリアは深いため息をついてしまう。


(緊張したー! お母さんに恥かかせたくなくて必死で平静を装ったけど、試合する前から疲労懇倍だよ~)


「えー、お次は……あれ! 孤児院の不良シスター、ミスラクネアじゃないですか! どうしてこんな所に!?」

「だれが不良だ! はったおすぞ!」

「ひぇえ! お助けを~」


 やや芝居がかった司会者の声に会場に笑いが生まれる。

 声の主はアラクネアの女性。名前を初めて知ったがラクネアというらしい。

 セシリアはその女性がシスターと言われている事に驚いてしまう。


「因みにラク姐さん、参加動機は?」

「優勝商品の商品券で30年物のワインを樽で買う為!!」


 ドッと会場に笑いが生まれ、愛のある野次が飛びアラネアが言い返す。

 非常に慣れていて愛されているやり取りだ。


「それでは、いい加減皆さんも眠たくなって来た所でしょうから、そろそろ参加者の皆さんに一発気合の籠った試合をしていただきましょう!」


 歓声と共に第三試合が始まる。



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