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こちらの沈黙、あちらの嘘

取りあえず続きを投稿です。

本日中の完結は無理かな<m(__)m>

「他国の者が、老婆心ながら諫言(かんげん)させて頂ければ、

 不用意に身元の判らぬ者を、御前近くまで参らせるのは感心いたしませぬなあ」

 ゆるく両手を広げて、わざとらしく黒髪の偉丈夫が忠告する。



「バ、バルガス将軍、停戦条約を破って突然の奇襲攻撃とは、どういうつもりだ! セイハ国の国王にも厳重に抗議して、処罰していただくから覚悟して待っておれ」

 顔のすぐ脇、椅子の背もたれに巨大な両手剣(クレイモア)が突き刺さり、(エッジ)が首の皮膚に触れるほど迫っているのに、ウェンバール国王は虚勢を張った。

 しかし、身体は小刻みに震え、顔面からは脂汗がダラダラと流れ落ちる。


 すぐ(かたわ)らに、一太刀で息絶えた四人の近衛騎士が、そのまま放置されているのだから無理もない。


 将軍が『身元の判らぬ者』と称している当の本人は、持ち上げ続けるのも難しそうな両手剣を、突き刺したまま微動だにしない。

 王女が悲痛な表情と小さなささやき声で、「勇者様、どうしてこのようなことを?」と翻意を訴えかけても、少年は一顧だにしない。


「貴国が、私の甥を誘拐略取して、我が国への尖兵として差し向けようとするから、取り返しに参ったまでです、先に手を出したのはそちらですよ」


 窓の外が暗くなる程ひっきりなしに、王城の庭へ飛竜(ワイバーン)(など)の飛行騎獣が舞い降りて来る。

 もちろんこれはセイハ国からの後続部隊で、旗印は王国軍旗かセスカス辺境伯の旗だけだ。


「甥だと?」

「えぇ、似ているでしょう?そこにいる(いか)つい実の父親より、私の方が似ていると評判なんですよ」

 シグルド・アーレス・バルガス将軍の冗談にも、笑える者はいない。

 自分たちが間違いなく召喚したはずの『勇者』と、その父と伯父を(せわ)しなく見比べ、外見の相似を認めて悲鳴を上げた。


 魔術師とおぼしい格好をした者たちを、周囲の貴族や官僚たちが、小声で罵りながら拘束された不自由な体で蹴飛ばす。


 一方で"厳つい"実父ことシグルド・ダリルは部下を指揮して、黙々と広間にいた者たちの武装解除と、拘束する作業を進めている。


「そこで貴方様(あなたさま)の命運を握っているのが、私のすぐ下の弟の長男で、ハイドダール・ファーン・バルガスと申す当家の跡取り。

 貴方(あなた)がたが『セイハの黒鬼(くろおに)』と侮蔑している、切り込み隊長本人ですよ」


 元々黒髪黒目の者が多い一族だが、『威圧感が増す』と主張するマーガスの意見(アイディア)を採用して、一門の武装を黒一色にしたのは、マーガスと同い年のダリルが初陣を迎えた時からで、まだ全員には装備が行きわたっていない。

 現在(いま)では一門全体が『セイハの黒鬼(くろおに)』と恐れられているが、重い魔鉄で制作された黒一色の甲冑で、戦場に出たのはダリルが最初で、その二つ名もダリル本人に付けられたものだった。


 国王、王女を筆頭に、縄を打たれた貴族たちがなお一層蒼白になる、つい直前まで相槌を打つだけの寡黙な少年(ほんにん)に、どれ程『黒鬼』を罵倒する言葉を聞かせていたかは、思い出すまでもない。


「そもそも年端もいかない少年に、嘘を吹き込んでもらっては困ります」


(この図体で成人している十六で、"年端もいかない少年"って、)

((まったくじゃ)ガッハッハ)

「大シグルド!ご静粛に、 マーガス聞こえているぞ! 通信魔道具の会話を、共有に設定したのはお前だろうが、黙って記録をとっていろ!」

(はい、失礼しました!)

(我が息子ながら、頭の固い奴じゃ)

 取り込み中の次兄(あに)と息子に代わって、ささやき声で怒鳴るという器用なことをしながら、シグルド・ダリルが一門の当主とマーガスを(たしな)める。


 左耳の魔道具から、マーガスと祖父だけでなく他の親族の、軽口や笑い声が聞こえているが、国王とお話し合いを続ける伯父と甥、二人の表情は全く動かない。

「まるで昨日今日この国が、侵略の危機にさらされているかのようなお口ぶりでしたが、

 この国がかつて異世界から勇者と称して召喚した、我が国の建国王テラーキ様に居もしない『魔王』を倒せと騙して、侵略戦争の矢面に立たせ」


 やれやれ呆れた、と言わんばかりに将軍が首を振る。


「挙句の果てに、子供でも騙されない様な嘘があっさりとバレて出奔され、圧政に苦しむ国民と周辺の属国と共に蜂起されたのは」

 勿体をつけるように、そこで言葉を止める。


「もう四百年以上も前の事ではありませんか、そこにいるダリルが生まれたのが、四百年の建国祭の年ですからね、今年で四百十六年ですよ」


 冷ややかに言い捨てる将軍の言葉に、国王が激昂する。

「そうだっ!元々そなたらの主君は余だっ!セイハの国土は全て我が王家の物なのだ、このような峻険な山間(やまあい)に押し込められたのは、あの偽勇者のせいだ! なぜ貴様らは裏切り者の盗人に(こうべ)()れるっ?」

(それを世間一般では、負け犬の遠吠えって、(ゆー)うんだよー)

(こりゃ、マーガス)

 マーガスの合いの手に、ダリルと将軍の顔がヒクッと動き、シグルド・ダリルも国王に背を向けた、笑いそうになったらしい。


「ひィ」

 一方通信魔道具で交わされている軽口の応酬が、聞こえていないウェンバール王宮の人間達は、黒鬼三人が揃って顔を引きつらせたのをみて、(おのの)いた。


 バルガス将軍は、吹き出しかけたのを、咳払いで誤魔化す。

「世迷い言ですな、我が国 建国以来の家臣にも、ウェンバール王家から鞍替えした貴族などは、片手で数えるほどです。

 当バルガス家に至っては、六代前から(ろく)()んでいる新興(なりあがり)貴族ですので、こちらの王家に義理も義務もございません」


 鼻で笑うような将軍に食い下がったのは、それまで沈黙していた王女だった。

「水が、水が隣国からの鉱毒で汚染されたのです! 家畜が毒に倒れ農作物まで汚染されて、国民が乾き(かつ)えているのです!」


「隣国コドリス国が、有害金属の鉱脈と地下水脈を接触させて、コドリス国より標高の低い国が被害にあっているのは存じておりますよ、我が国のセスカス辺境伯領も被害にあっていますからね、だからこそ」

 壊された露台(バルコニー)から、貴族の身なりの若い男が入室して来た。

「自分達が困窮していて、可哀想だから助けて貰えるのは当然。

 代わりに周囲が犠牲になったり、奪われて当然、という理屈がまかり通るようでは、何のための条約であり国際法ですか?王女様?」


何奴(なにやつ)だ?無礼者!」

「これは失礼。(わたくし)はマーグガルス・ピザンテガロアと申します。

 セイハ国宰相を努めますフェブルス侯爵閣下の(もと)で、補佐官末席を努めます しがない下っ端でございますが、そこに()りますハイドダール・ファーン・バルガスが、空間魔法で転移させられたのを、偶然にも最初から把握することになりまして、専門の外交官が到着するまでの(あいだ)対処せよと、命じられて参りました」

 セイハ国流ではなく、ウェンバール王国流の完璧な貴族の作法で、少年がお辞儀をした。


「空間魔法による転移だと?」

「ピザンテガロア?」

 捕縛されている者達の大半は、勇者召喚が異世界転移ではなく空間転移だった事に、今更ながら驚いているが、一部の官僚はマーガスの名前に驚いた。

「はい、貴国が水泥棒を密かにはたらこうとした、ピザンテガロア伯爵領の領主です」

名前がややこしいので、補足です。


ハイドダール・ファーン・バルガス

(通称ダリル、父が同席している時は小ダリル、兄弟が同席している時はダリル・ファーン)

セイハの黒鬼、バルガス男爵家当主の孫、父は三男だが長男次男に息子がいないので跡取り息子。

五人いる弟は、全員ダリル何々と名前が続く。


シグルド・アーレス・バルガス

(通称アーレス)セイハ国将軍、バルガス男爵家の次男、三才の娘あり、妻とは死別。


シグルド・ダリル・バルガス

(こちらも通称ダリル 息子たちが同席している時は大ダリル)

バルガス男爵家の三男。外見は(いわお)


マーグガルス・ピザンテガロア

(通称マーガス)

十六歳、領地持ちの伯爵、領地経営を支えるために、王国軍に売れる魔道小道具を開発実験中に、被験者(ダリル)の誘拐に出くわす、急遽外国まで出張中。

第一話のナレーター(笑)

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