黒髪の少年
四月の1日にupってことで、察してください。(o*。_。)o
暗い室内を照らした魔法の光は消え、一人の人影が残された。
人影は男性だ、同じ黒い素材の上着とズボンを着用して、髪も黒い。
「ここはどこだ?」
(直前まで間違いなく、別邸の庭にいたな、とりあえず壁際に立ってる連中が、何か知ってるだろうから、彼らに聞くとか)
屋外の明るさに慣れて、すぐには目が暗さに順応しないが、十数人が騒めいているのは分かる。
自分の足で立っている以上、意識を失っているうちに運ばれたのではないようだ。
「おお、素晴らしい!」
「本当に成功したのか?」
「失伝した秘術の再現を、この目で確かめられるとは!」
(あ、もうオチが見えた)
「異世界の勇者様!どうか私たちを悪魔からお救い下さい!」
石造りの室内に女性の声が反響する、声は若い。
(やっぱり勇者召喚か、でも、異世界ィ?)
「唐突に、そう仰る貴女はどなたか?」
男性は驚いた様子もなく、無表情に淡々と答えたが、少女(と思われる相手)は大声で罵倒されたかのように、びくりと身を竦ませた。
獣脂とおぼしい弱い灯りは、暗い上に煙と臭いが酷いが、それでも彼女の唇が『忌み色』と動いたのが、ハッキリと読み取れた。
「無礼者!殿下に何をする!」
「跪きもせずに、馴れ馴れしく口をきくとは!」
縋りつかんばかりに詰め寄ったのは女性の方だが、騎士の身なりの男たちが気色ばむ。
(女性で殿下、つまり王女様ご直々の説得か、『てんぷれ』『てんぷれ』)
「よさぬかお前達!勇者様に武器を向けてはならん!」
年配の男性が割って入った。
「勇者、普通の生活を送っていれば、縁の無い呼ばれ方だな」
窓一つ無い暗い部屋で、立ったままでは落ち着かないと、場所を移すことになった。
(窓の外に見える山脈に、とっても見覚えがあるな)
「お願いです、助けてください、我が国の国境のすぐ外には、悪魔が巣食っているのです!」
移動したのは、明るい日差しの入る三階の大広間。
(明らかに謁見の間、こっちを勇者だと思っている割には、国の中枢部に見ず知らずの相手を、気軽によく通すもんだ)
室内で待ち受けていた人々が、ひそひそと『黒い』『かつての悪魔』『忌み色』と囁く。
(大変気分悪い、でーす)
『彼』は顔立ちはまだ幼さが残るが精悍で、周囲の騎士たちよりも頭一つ分は背が高く、引き締まった鍛えられた身体と、黒髪黒目の持ち主だった。
伝承に残る過去の勇者の特徴に、類似している。
男性にしては珍しいのは、両耳に色違いのピアスをして、襟元からは巨大な赤い宝玉が填められたネックレスが、僅かに覗いている。
ピアスは右の金具が長く、頬の輪郭に沿って口元まで延びている。
ネックレスは真紅の宝玉の真ん中に金色の虹彩が入って猫の瞳のようだ、台座と太い鎖の輝きが、まるで魔法銀のようにも見える。
もちろんただの銀だろう、ミスリルは希少金属だ、本物のはずはない。
「縁も縁もない、見ず知らずの私が、あなた方の勇者とやらに、なるのは無理だろう」
「悪魔は周辺の国々を次々に飲み込み、我が国の国土も三分の二を削り取られたのです」
王女は祈るように胸の前で両手を握り合わせ、目に涙を浮かべて切々と訴える。
「その中には豊かな穀倉地帯もありました、そこを奪われた故に我が国民は困窮を強いられているのです」
(この王女様、さっきそこの物陰で演技指導されていたぞ、勇者を怖がっていると籠絡出来ない、目を見て話せって。
まあ、召喚の術式に、隷属の契約が組み込まれていると厄介だから、調べ終わるまでは、おとなしく話を聞いておこう)
「悪魔はセイハと言いますが、その配下には、とても凶悪なブラックオーガの集団がいて、私たち『人の身』では、とても太刀打ちできないのです」
「ブラックオーガ、の集団」
(わー、それは、おそろしいねー)
見事な棒読みの背後で、集団の爆笑が聞こえた。
一段高い場所から、別の男が声を掛けた。
「勇者よ、そなた名は何という」
(それを、今、聞くか?!自分達だって誰一人名乗らないのに)
おそらく『真名縛りの呪い』対策だろうが。
「私は勇者ではありえませんが」
「陛下に口答えするとは何事か!」
即座に周囲の家臣が、パフォーマンスだろうが、いきり立つ。
(陛下だって紹介してないだろう、こいつら怒鳴らずに話せないのかね?)
「やめよ、静まれ!」
地下室と同じ年配男性が割って入った。
「申し訳ない勇者殿、お名前とお年齢をお聞かせ願いたい」
(本名なんか教えるかいってんだ、はい、偽名命名『田中真吾』、たなかが家名で、しんごが名前、高校生十六歳)
「タナカシンゴだ、タナカが家名で、『こうこうせい』の十六歳だ」
「十六歳?その落ち着きで?意外にお若かったのですな! ゴホン!
かつての勇者様より『タナカ』は『サトウ』『スズキ』に並ぶ高名な家名と聞き及んでおります」
(老け顔の方に先に反応したか)
声の向こうに再び笑い声が聞こえる。
(高名じゃなくて『ぽぴゅらー』なだけなんだけど、ちなみに高校生は、異世界の学び舎の学徒の事だからな、念のため)
「シンゴとやら、国王である私の名で許す、悪魔の領土を切り取って参れ」
(国王様全然名乗ってないじゃん!
でも、言質記録しました!これは停戦条約違反の公的な証拠として使えます!)
突如口調が真面目になった声と共に、その背後が一斉に動き出す物音が聞こえる。
「切り取った土地の中から、そなたにも領地を授けよう。よく働け」
(おーさま究極の空手形だねぇ、今おじさん達出発したよ、猫の額のような狭い国だから、すぐにそちら側からも見えるよ)
「も、申し上げますっ、国境線上に異常ありとのこと!」
息を切らせた伝令が、飛び込んで来た。
「セスカス西方辺境伯領っ国境砦よりっ、バルガス家の旗印と鷲獅子一騎、国境侵犯っとのことですっ!」
(ダリル、聞こえるか?武器を調達して、【そこ】を制圧しろ)
父の声が聞こえる。
「迎え撃て!弓兵!弓兵!」
「黒鬼です、黒鬼が攻めてまいりました!勇者様っ、どうかっ私たちをお守りください、お力をお示し下さい」
王女がひしっと、しがみついて来た。
「私に、武器を取って戦えと?」
つぶやきのような彼の声に、王女が顔を輝かせた。
「戦って下さるのですか?」
右耳から伸びる『まいく』に話しかけているのだが、勘違いしたようだ。
(あ、隷属の契約の類は仕込まれてなかったよ、心置きなく暴れていいよー)
マーガスは肝心な報告が遅い。
「武器を調達しなければ」
周囲の騎士や兵士の腰にあるものは、些か華奢で物足りない。
「それならば、これを!」
玉座の傍らに置かれた両手剣を、指し示される、鞘は装飾過剰だが、刀身は厚く並の男では持ち上げられない剛剣だ。
「隣国コドリスのドワーフが鍛えた名剣だ」
国王が自慢げに胸を張る。
「ああ、待て、王族方の御前で抜いてはならん!」
「ぐ、グリ、グリフォンがっ、そ、そっ」
ダリルが剣を抜き放つのと、露台の窓の前にいた兵士が叫ぶのが同時だった。
グガシャーン、キュエーーエーッ
露台から窓を破壊しながら、雄叫びを上げる巨大な生き物が突撃してくるのと、一度の跳躍で距離を詰めたダリルが、周囲の近衛騎士四人を切り飛ばし、国王の喉元に剣を突き付けるのは同時だった。
続きは出来れば今日中に、でも四月の1日ですから・・・