ガリ勉(1)
「もうすぐ中間テストだね、愛男くん」
「それがどうした」
ある日の休み時間、国語の教科書を開いていた愛男に瓶谷が声を掛けた。
「試験勉強ははかどっているのかい?」
「まあまあだな。今お前に邪魔されなければもっとはかどってたと思うが」
「そりゃ失礼したね。じゃあお詫びに僕から何か問題を出してあげよう」
どうやら最初からそのつもりだったらしい。『何か』と言いつつ瓶谷の顔はもう既に何かを思いついているようだった。
「第一問」
「待て、それは第何問まであるんだ?」
「一問しかないよ」
相変わらず適当である。
「では改めて……第一問!畑の肉といえば大豆、森のバターといえばアボカド、では海のキュウリといえば何でしょう?」
一瞬ぽかんとする愛男。
「お前、それは問題と言うよりクイズだろ……」
「いいからいいから」
若干呆れつつ愛男はクイズの答えを考えてみる。畑の肉といえば大豆、それは知っている。森のバターといえばアボカド、それも知っている。では海のキュウリといえば…………分からん。大豆はタンパク質が豊富であるため畑の肉と呼ばれる。アボカドは脂肪分が豊富であることから森のバター。だとすればキュウリってなんだ?ビタミンか?栄養価がキュウリと似ている海の食材のことだろうか、しかしそんなもの聞いたことがない。
「ギブアップかな?」
瓶谷は嬉しそうに尋ねる。おそらく予想外の難しい問題に愛男が頭を抱える姿を見て喜んでるんだろう。なんて性格の悪いやつだ。察するに、問題は単純に知識ではなく捻りが加えてあるはずだ。となれば分からない時はいくら考えても分からないので、早めにギブアップするのが得策だが、こいつの喜ぶ顔を見るのは何か癪だ。
「いや……もう少し考えさせてくれ」
「そうかい?じゃあ制限時間は今日の放課後までね」
キィィィンコォォォン カァァァンコォォォーーーンッ!!!!!
威勢のいいチャイムと共に授業が始まった。国語教師の田上田緑が教室に入ってくる。とても若い、まだ二十代である。しかし若い女性教員にとって、とりわけ国語教師にとってはこのクラスは厳しい。彼女は神妙な面持ちで教壇の前に立つと、一言、
「成績が……低いです」
そう、このクラス、とても成績が低いのだ。クラス平均は学年ワーストを独走中だ。
「理系だから国語出来ないのは仕方ないと思うけど……もうちょっと頑張って欲しいかなぁって……」
そんなことないですよ先生、数学だって低いです。と、愛男は心の中で慰めた。むしろ数学だけでなく全科目ワーストだが、中でも国語は特にひどい。
「ほら、例えば知識さんを見習ってもっと勉強してみるとか」
先生がその名前を出した途端、教室中に諦めたような空気が流れた。
「知識さんは特別だから……」
「あんなに何時間も勉強できないよ……」
「爪の垢を煎じて飲んでも無理だと思います……」
あちこちからそんな声が聞こえる。まあ無理もない。知識さん、こと知識ひな子はこのクラスの学級委員長なのだが、とにかく勉強することで有名なのだ。いわゆるガリ勉。当然結果も出しているが、その勉強量は凄まじく、それこそ爪の垢を煎じて飲んでも無理だろう。
「まあ、知識さんみたいにとは言わないから、とりあえず今日提出の宿題を出してみるとか……」
最後にそう言って田上田先生は授業に入った。
ありがとうございます。
昨日、今日はあと一作投稿する的なことを書いたんですが、それ、これのことなんです。
実は昨日は投稿する前に『雨音と晴太のワンダーランド』の続きを考えてたらそのまま寝落ちしてしまって……。もしも、何が投稿されるのかと楽しみにしてくれていた方いたら申し訳ありません。一応そういう方がいた時のために。
あんまり予告とかしちゃだめですね。。。
予約投稿でもよかったか。
ここからは作品の話になりますが、瓶谷くんのクイズ、みなさん分かりますか?その知識があればすぐ解ける問題なんですが、知らなければちょっと難しいかも。果たして愛男くんは解けるのか!
次回をお楽しみに(笑)