(1)愛男の友人
女とはきわめて不思議な生き物である。生物学的には男である我々と同じ人間でありながら、その性質は全く異なる。時々、本当に同じ生き物なのかと疑いたくなることもある。いや、決して馬鹿にしているわけではない。純粋に不思議なのだ。どうしてこうも違うのか、そして、どうしてこうも特別なのかと。
愛夫は放課後の教室で友人の瓶谷高校にそんなことを話していた。
「お前は相変わらず女好きだな」
あきれ顔でそう言う瓶谷に愛夫は憤慨する。
「俺は女好きなんじゃない、女を愛でているだけだ」
「じゃあ言わせてもらうが、『男である我々と同じ人間であるはずなのにその性質は全く異なる』という部分、これは男を中心に人間という生物を見ているととれる台詞であり、男尊女卑の考え方をはらんでいるようにも見えるぞ」
「…………なるほど。言われてみれば確かに、そう思われても仕方のない台詞だった」
愛夫が納得したことで瓶谷は得意げな顔になる。
「そうだろう。この男女平等の時代に男尊女卑を小脇に抱えているとなれば、いかにお前が身の潔白を主張したとしても、世間から糾弾されることは免れないだろう」
「いや待て、俺はそんな古くさいもの、小脇になんか抱えちゃいないぞ!冤罪だ!」
瓶谷の脳内でことが予想以上に大きくなっていたので愛夫は慌てて彼の妄想を止めた。
「大丈夫だ、安心しろ。お前の変態性癖のことならよく分かっている。お前の女への愛は潔白だ」
「まだ一部誤解が解けていないようだが、分かってくれて嬉しいよ」
「なに、気にするな。お前は俺の良き友だ。友の性癖を理解するのは、友として当然の義務だからな」
「次に性癖とかいう言葉を使ったら、お前の頭をちぎる」
怖い怖いと首をすくめてみせる瓶谷。こいつはこういう男である。
さて、あえて流そうと思っていたが、読者諸君が混乱するといけないのでここで一つ説明を加えたいと思う。瓶谷高校という名前、瓶谷高校という男についてである。
まず、結論から言うと瓶谷高校という名前は本名である。びんと書いてかめと読ませる名字もさることながら、高校という名前もかなり珍しい。おそらく日本中探してもこの男しかいないのではないだろうか。本人曰く、青春時代を大切にしろという父親の願いが込められた名前らしいのだが、願いの込め方ならもっと他にあったような気がしてならない。
とはいえ瓶谷自身はこの名前をいたく気に入っており、「もしも瓶谷高校が甲子園に行ったら絶対に応援に行く」といつも言っている。ちなみに「そんな高校があるのか」と聞くと「知らん」と言う。ようはそういう男である。
クラスでも目立たない存在だった愛夫と瓶谷は自然と二人でいる機会が多くなり、今では友達と言って良いくらいの関係になった。瓶谷は愛夫の良き友を自称しているが、愛夫は瓶谷にそう言われる度、俺はなぜこんなやつと一緒にいるのだろうかといつも思っている。
しかし、愛夫の特殊な個性を受け入れることが出来る人間はおそらくこの瓶谷ぐらいだろう。
友は大切にしなければならない。
ありがとうございます。
これ以降も大体こんな感じで、愛男と女の子達、あるいは瓶谷との会話を中心に物語を進めていくつもりです。一場面を極力短くしたいと思っているので、読みやすくなると思います。
ちなみに、小那古愛男と瓶谷高校、他にも変な名前がたくさん出てくると思われますが、基本的に読み仮名は最初の一回しか付けないのでよろしくお願いします。
さいごに
『雨音と晴太のワンダーランド』は二話分ぐらいはもう書けてるのですが、もう少し先までストーリーを固めてから投稿します。