「変異」
「どうすればいい」
『あれはそのうちこちらに気づくわ。だから、倒しなさい』
群体はまだこちらに気づいてはいないものの、目視出来る距離だ。油断ができない。
「倒す・・・か。つまりはそういうことか」
『そ。あんたの頭ん中には入ってるでしょ?人に害を及ぼしたり、最悪死す場合のある化学反応の全てが』
確かに理論上は可能だ。しかし・・・
「それでは化学反応による影響が自分にも被害をもたらす可能性がある」
『そのための【能力の解体】じゃない。つまりは創り出した元素の消去をするのよ。反応によって生じた有毒な気体なども発生源は構築物だから消去対象よ』
なるほど。そこまで読んでのこの能力か。案外この少女も侮れないな。
「・・・わかった。やってみよう」
「ん?あそこに誰かいるぞ」
と、案の定やはり気づかれたらしい。
『気づかれたわね・・・。まあいいわ。あなた全てを使って倒しなさい』
敵の群れはこちらに近づいている。
距離にして約50メートル。
『知識の限りを尽くし敵を屠りなさい』
半信半疑ではあるこの能力だが・・・。
出来る。
どこから来てるかも分からない自信があった。
右手を前に突き出し、どうすればあの敵の塊を壊滅させられるか、どういった方法で敵を屠るかを考える。
よし、これならいいだろう。
前述された通りの方法で敵と自分の丁度中間らへんに5メートル四方の空間をイメージする。
そこに硫黄25パーセント、酸素25パーセント、その他空気に該当する成分を想像する。
するとおよそ想像していた通りの大きさ、場所に巨大な立方体が出現した。
かなりのスペクタクルに内心ドギマギというか、強い高揚感を抱いていた。
未知であるそれが自らの手によって生成されたものだと思うと、ワクワクが止まらない。
自分には青い半透明の立方空間が視界に映っているが、敵には見えないらしい。
これで敵を倒せるのかには一抹の不安を感じざるを得ないが、その空間に敵が侵入するのを待つ。
生成し数秒。
敵の群体がその空間を侵した。
今だ。
それと同時、その空間に黄リンを生成する。
本来第3類危険物である黄リンは空気干渉を避けるため水中保存するものである。
なぜなら。
黄リンは酸素量の多い空間で急激に酸化し、大量の硫黄と接触する事により。
バアァァァァァン!
大爆発を引き起こすためである。
爆発を直に受けた兵士達は断末魔の叫びを出すこともなく散っていった。
爆風は穴蔵までも届き、その多大な熱は風通しのないここまで届き、肌は熱さの為ピリピリとかゆくなった。
辺りは静まり返る。
「な・・・んだ?」
倒れた群体のほか、周りにいた戦闘兵数人がざわつきだす。
「なんの魔法だ・・・」
彼らの顔は戦慄していた。
それもそうだ。何の前触れもなく、突如として何十人もの兵を消し炭にしたのだから。
「おい、あいつらも倒すのか」
ここにいる以上、見つかるのは必至だ。それならば、と問う。
『あんたえげつないわね・・・』
お前まで引き攣った声を出すな。
「それで、どうすんだ」
『え、えぇ。倒すのが得策でしょうね。今のうちに倒しておきなさい』
「分かった」
と言ってもまた爆破して焼死体を増やすのは嫌だ。流石に吐き気がする。
「それじゃ適当に・・・」
敵の顔付近に何かしら気体を創るかと言おうとした矢先。
「グロウウィンド!」
「ん?」
声がしたかと思ったら兵の一人が彼方へ飛んでいったのだが。
「こっちに来てください!早く!」
いつの間にか穴蔵の前に少女が現れ手を差し伸べてきた。
「・・・は」
思考が働かずただ呆然と立ち尽くしていた。
すると。
「もうっ!」
・・・。
ポカンとしてたら手をつかまれ引きずられていたんだが。
「痛い、痛え、痛ぇよ」
「あ、すみませんっ」
「痛!」
穴蔵から左にかなり遠ざかった所で手を離された。
走ったまんま。
誰だか知らんが慣性の法則を知らんのか。
「痛った・・・って、お前は誰だ。何の用だ」
引きずられた箇所に手当てをしながら問うた。
「そのっ、さっきの・・・すごかったですっ。あの、その、あんなの初めて見ました・・・」
なるほどこの女は人の話を聞かないタイプだな。
「お前は誰で何の用かを聞いてるんだが・・・」
「あっそうでしたっ。私はシル・ウィル・カンナって言いますっ。その、さっきあなたの使った魔法がかっこよくて、その・・・っ」
「あぁ、あれは魔法じゃn」
「誘拐しましたっ!」
・・・なんだって?