「初死」
「・・・は」
意味が分からない。頭でもおかしくなったのだろうか。そもそも元々おかしいのか。そのどちらか一方だろう。後者ではないことばかりを祈る。
ってそうじゃない。くだらない事を考えるのは俺の悪い癖だ。
まず状況の整理だ。俺はさっきまでトイレをしていて立ち眩みに似た現象が起きた後、周りが硝煙立ちこむ血腥い戦場に。
すまんが分からん。理解に苦しむ。とうとう現実に愛想つかして薬でもキめたか?いいやない。
ただ分かったことは考えても分からないことが分かった。
「誰だあいつは?何なんだあのカッコは」
っとそうだった。ここは戦乱真っ只中なんだった。
周りの雑魚兵と思われる数十人の服装に目をやる。
なんというか・・・中世ヨーロッパの戦闘服に近い形をしている。それに数人長いローブのような黒いマントというか・・・そういうものを着ている。
そして何故か皆こちらを見ているのだが。
「よくわからんがとりあえずそいつを殺せ!」
「うおぉぉぉ!!!」
おいおい、なんかあいつらこっちに猪突猛進してるんだが?
「・・・まて、落ち着いて聞いて」
「やれぇ!」
だめだ聞こえてねえ。
もう敵はすぐそこまで来ているのだが、俺は何をどうするのが正解だろう。
いやまあ正解なんてものは分かり切ってることで?首を差し出すのが正解なんだろう。
しかしそれは正解であって打開策でもなんでもない。死を受け入れる事に抵抗がないはずがない。
つまりどうするかといったら・・・知らん。どうもできん。
俺が死の瀬戸際に四苦八苦している間にも、無情にも迫ってきている野郎共は俺という未知をみすみす見逃そうなんて甘い考えを持つわけもなく・・・。
「死ねぇ!」
男が剣を振りかぶり俺はなすすべもなく死すのを待っていると
「ぐへぇ!」
男が情けのない声を上げた・・・と思ったら
「助太刀致す」
金髪で白銀の鎧を着た
「な・・・戦姫・・・」
戦姫と呼ばれた女性に救命されたのだった。
「大丈夫か白衣の男よ」
戦姫はこちらを見ず野郎と対峙した状態で問いかけた。
「あ、あぁ、助かった」
放心している俺は思考など回らなかった。
戦姫は一歩踏み出し剣を構えたのと同時、彼女は消え、一帯の野郎は切られた状態でほぼ一斉に地面へと伏せた。
またしても放心した。
「敵は倒した。しかし安心はするな。その内また囲まれる」
「あ、え、おお」
母音のみでしか返事ができないとは。我ながらあきれる。
「て、は?」
無言で首根っこをつかんだかと思うと
「少し移動するぞ」
という言葉を残し。
「ふんっ」
彼女は走った。
「ぬあああああああああああ!?」
物理法則を無視した速さで。
10秒後・・・
「ここらで良いだろう」
「・・・」
「ん、どうした」
「あ・・・いえ、なんでも」
到着したのは背後が山になっている場所の洞窟、穴蔵のようなところだった。
さっきまで遮蔽物のない地面の禿げた、開けた場所にいたはずだ。この速さは異常だ。
「その、何というか、助かった。ええと、戦姫」
この呼び方は癇に障るのではないかと考えたが名前は知らないし、嬢ちゃんなんて呼んだら首が飛ぶかもしれん。この際仕方がない、消去法だ。
「戦姫と呼ぶのはやめてくれ。スーヘイム・ミラ・ド・シェフォンだ」
案の定否定された。
「俺は水流誠司だ。さっきは助けてくれてありがとう」
相手が名乗ったら自分も名乗る。社会の常識だ。
「なに、礼には及ばん。気にするな・・・と、私はそろそろ戦場に戻らねば」
そう言い来た道へと振り返る。
「待て、俺はどうすればいい」
ここで一人になれば生き永らえることは困難を極める。できればここに残って欲しいが・・・
「機を見て逃げ出すのが良いだろう」
「なっ」
「私は貴様の仲間になったわけでも味方になったわけでもないぞ。後は自分の力で生き残れ。それがこの世界での生き方だ」
「あ、おお」
「それではな、水流誠司。ご武運を」
そう言い残し戦姫は去っていった。
ふむ、困った。
さっきは運よく戦姫に救命されたがつぎはそうもいかない。
どうしたものか・・・。
よし、状況を整理しよう。
・謎の現象によりこの世界に飛ばされた。
・この世界には『魔法』という基礎概念が存在するらしい。
・世界は今戦下にあるらしい。
・戦姫は物理法則をよしとしない速さで走る。
・・・何もわからん。考えることを諦めよう。
機を見て逃げるったって数百メートル先に敵はいるわけで、下手したら皆物理法則を超えてるのかもしれないわけで。その場合、見つかれば最後、あの速さで迫ってくるかもしれん。
あぁ~、どうしたものか。どうすればこの状況を打破できるのか。
考えろ、考えろ、考えろ。
駄目だ一向に光が見えん。この八方塞がりのお先真っ暗状態をどうすれば緩和できる?
頼む。何かヒントを―
『早く能力を使いなさいよ水流誠司』
・・・今度は何が起きるんだよ。