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はじめに

2054年2月現在まで、国連航空宇宙軍の人的被害はゼロである。

 リハビリの効果が表れ、宇宙へ旅立つ前の身体能力よりも低いものの地球の重力に苦しめられることも無くなった日の事だ。毎朝のように歯を磨き顔を洗い、そしてタオルで拭いたときに思った。


 そうだ、本を書こうと。


 だから僕はこうして今パソコンの画面の前で文字列を四苦八苦しながら入力している。私、僕、自分。色々な一人称を試し、色々な書き出しを試しに書いてみたもののどれもしっくりと来ることは無かった。だから僕は一人の人間として、等身大の人間として語ろうと思う。多分、それが一番伝わりやすいと思うから。

 初めに僕の自己紹介とちょっとした情勢説明をしようと思う。おそらく興味のない人間、すでに知っている人間が大半だと思うから読み飛ばして貰っても構わない。


 僕の名前は相原だ。現在国連航空宇宙軍。略して航宙軍の主力兵器である自立式無人戦闘機の開発をしていた男だ。なぜ苗字しか名乗らなかったかと言うと、調べれば出てくるでしょう。だからわざわざ名乗らなかった。

 と言うのは冗談で、実際の所僕が下の名前で呼ばれた事なんてこの本に書こうと思っている期間中は一回たりともなかった。

 つまり書いて覚えてもらうだけ無駄と言う訳だ。


 相原。もしくはアイハラ。たまに主任。それだけ覚えてもらえれば僕の識別には困らない筈だ。


 先に書いておくけども、僕以外の登場人物は全て偽名だ。調べればクルーの名前なんて簡単に出てくるけども、それとこれとは話は別。勿論登場させても良いかという許可はとってある。遠慮なく検索してくれて構わない。




 地球と月の戦争。正確には完成間近だった宇宙エレベーターを砲撃で吹っ飛ばされてしまった人類と、月に居るエイリアンと推測されるモノの戦いが始まったのは2040年だ。

 僕はその時大学生だった。ニュースで、足元の現場作業員やら近くの町やらを巻き込んで崩れ落ちていくエレベーターの映像が繰り返し放送されていたのを毎日眺めていた。文字通り、毎日だ。

 新聞もネットニュースもトップは全部エレベーター崩落事故の事だ。辛うじて生き延びた人が撮影した映像は、それはそれは悲惨な物だった。絶叫しながら逃げる人、人、人。連日連夜犠牲者の名前欄が更新されていった。世界的なプロジェクトだったから大勢の日本人技術者がそこに居た。


 そんな風に世界中が大パニックになっている時に月を観察していた全衛星が機能停止した事なんて、全くの些事。取るに足らないニュースだった。


 事件発生三日後だ。三日後に人類は奇妙な事実に気が付いた。あれ、落ちてくるデブリの数が明らかに少ないぞ、と。

 そこで色々と専門家が調べた結果、恐ろしい事が分かった。


 月から砲撃されている。


 そう、僕らは月から攻撃を受けていた。衝撃の事実だったよ。月なんて人っ子一人居ない星だ。宇宙開発が盛んに行われていると言ったって、それは周回軌道上の話。月も開発計画が有ったし、宇宙エレベーターはその一環だと言ってもまだ手も付けてすらいない。精々いつも通りに衛星を飛ばして撮影する程度だ。月に砲台なんて作って撃って来る奴なんて居ない筈だった。


 人類が月に居る謎の何かに対話あるいは反撃。どちらを行うかという議論が持ち上がった時また衝撃の事件が起きた。月に大量のデブリ。宇宙エレベーターの残骸だけじゃない。宇宙空間にもともとあった岩が大量に。文字通り大量に集まって層を形成した。

 これで僕ら人間は月観察という娯楽を失った。

 月の様子を見ようとデブリの切れ間から探査機を突っ込ませれば、月面もろくに撮影することなく唐突に撃墜される。


 国連の偉い人達は遺族への補填をどうしようか考えつつも、新たに出現した外敵への対応に頭を悩ませた。

 そして国連は対話できない、定期的に砲撃してくる。宇宙エレベーター吹っ飛ばした。この三点から月を敵として戦う事を決めた


 敵の砲撃の大部分は大気という高性能の防壁で無力化できると言っても、たまに被害を及ぼすことが有る。それを迎撃するべく、衛星軌道上にエレベーターの様には簡単に打ち落とせない防空施設。つまり宇宙ステーションを多く作って、宇宙空間で打ち落とすという計画が実行に移された。




 なぜ僕がこんな社会常識を長々と書いているかと言うと、もしこの本が後世に残ったとして、この時代を教科書に書かれた文章でしか知らない人々に説明する為だ。

 だからこの前置きは読み飛ばして貰っても構わないと先に書いた。


 二千文字近くに及んだ前置きもそろそろ終わりにしようと思う。無人兵器の試験運用にまつわる高度に政治的な内容とか陰謀とか。そんな事柄は登場しないからそれを目当てにこの本を開いた人には先に謝っておく。

 これから始まるのは僕の自分語りだ。僕が見聞きた事柄。思った事。そして考えたこと。延々と続く人の自分語りに耐えられるある意味勇者だけがこの先に進んでほしい。




 前置きの最後にこの疑問だけは投げかけておきたいと思う。


 今、人類は月と戦争しているのだろうか。僕ら人間は本当に戦争を続けているのだろうか。


 それだけが聞きたい。

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