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妖狐と過ごした夏休み

作者: ぴっくぴく
掲載日:2016/12/25

ちょっと別の作品で行き詰まったので書いてみました。





 ミーンミミミミ


 夏、暑い日差しが肌をジリジリ焦がし汗が吹き出る。

 そんな大人だったら辟易するような雲ひとつない青空の下でも子供達は元気に走り回っていた。


「タッチ!お前鬼なー!」


「くそーーっ!」


 小学校は夏休み、子供達はその多くが宿題なんてそっちのけで汗だくになりながら駆けずり回る。

 それがどうしようもない程楽しい時期が今の彼らなのだった。



 陽がだんだんと傾いて辺りが暗くなる。

 日照時間が長いこの季節であっても6時を過ぎて仕舞えば街灯の少ないこのド田舎では子供には危険だ。

 そうなる前に帰らないと服を泥だらけにしただけでもカンカンな母親が般若のようになってしまう。


「またなー、明日も昼食ったら集合だからな!」


 そう言ってそれぞれの家へ帰って行く。

 みんな門限に遅れて親に怒られないよう駆け足で。



「…」


 明日は何をして遊ぼうか?

 そんなことを考えながら帰路につく少年達を羨ましそうに見つめる瞳があったことには誰も気づいていなかった。




 次の日も子供達は皆んなで集まって遊んだ。

 夏休みはまだ始まったばかり、きっと明日も最高に楽しい日々が続くに違いない。


「あの…!」


 散々遊んで皆んなが帰り出す頃、木陰に隠れていた少女が一人の少年に声をかける。


「ん?誰だ?」


「たっち」


「へっ?」


「たっち!」


 少女はぺしっと少年の肩を叩いて「たっち」と言い続ける。

 それを聞いて少年も少女が何を言いたいのかわかった。


「鬼ごっこ一緒にやりたかったのか?」


 こくこく


 少女は期待に満ちた表情で首をすごい勢いで縦に振る。


「そっかーでももう皆んな帰っちゃったしな、俺もそろそろ帰んないと母さんがすっげー怒るし」


 少女は少年が無理だと言いっていると分かると目に見えてしゅんとしてしまった。

 少年としてもそんな反応をされては仲間はずれにしているみたいで気分が悪い。


「あ、明日なら大丈夫!明日遊ぼう!」


「…うん!」


 少女は笑顔を取り戻すと嬉しさのあまり少年に抱きついた。


「ちょっ!?は、は、はなせって!」


「…?」


 赤面して少女を押し退けようとする少年。

 それもそのはず、少女はとんでもなく可愛らしい姿をしていたのだ。

 キツネ色の長い髪と瞳、何故か洋服ではなく和服を着ていて神秘的な雰囲気を感じさせる。

 何より青空のように晴れやかな笑顔が可愛かった。

 総じて小学生男子と言えばウブでどうしてようもないくらいの恥ずかしがり屋なものだ。

 女の子を好きになるのは恥ずかしいことで、もし友達に好きな人がバレれば死活問題、そう言う人種だった。

 だが少女がそんなこと知る由もない。


「い、良いか?こう言うのは大人になってからするもんなんだぞ?俺の父さんと母さんもいつも喧嘩ばっかりしてるけどこの間、夜中トイレに行く時裸でギュッとしてるのみたんだ」


「裸…大人…」


 よくわからないけどそう言うものかと少女は少年から離れる。


「よし、じゃあ明日な!あ、そうだ。俺の名前は武。お前は?」


「妖狐…?」


「ヨーコか、それじゃあな!ヨーコも親に怒られる前に帰れよ」


 少年は沈みつつある夕陽を見て、これは怒られるのは確定だと嘆息しつつ家へ駆けて帰った。





 少年は食卓に着くと炒飯を飲むように胃に流し込み、マジックテープの靴をバリバリいわせながら履いて外に飛び出す。


「こら武!ご馳走様くらいちゃんと言いなさい!」


「ごちそうさまいってきまーす!!」


 



「おっすヨーコ」


「おはよタケシ」


 2人は昨日別れた場所で落ち合う。

 今日も今日とて和服の妖狐を訝しく思ったがドッヂボールよりおままごと、鬼ごっこより人形遊び、ほとほと女の子と言うものが分からない武は女の子は不思議生物なんだと思うことにする。


「今日は健太は塾で良樹とかっちゃんは『オボン』で婆ちゃんちに行ってるらしいから2人だけだけど何して遊ぶ?」


 『お盆』が何かわからなかった武はそれが祖父母に会いに行く行事か何かだと思っていた。

 と言うのも武は母親の両親と共に暮らしており、父親の両親は亡くなっている為に自分には関係ない行事だと思っていたせいかもしれない。

 


「おにごっこ!」


「2人で鬼ごっこするのか?」


「…だめ?」


「しょうがねーな鬼ごっこするか。偉大な武様に感謝するんだぞ」


「する!」





「じゃーなーまた明日なー」


「ばいばい!」



 2人で時間目一杯遊んで今日も武は家へ帰る。


 次の日からも2人は鬼ごっこをして遊んだ。

 ただ武の友達がたくさんいる時は妖狐はやってこなかった。

 2人の時に聞くと妖狐は「人間がいっぱいいると怖い」とのことだった。

 なので午前中は妖狐と遊んで午後は別の友達と遊ぶ、そんな夏休みを武は謳歌していた。


「最近あんた午前中も遊びに行くけど何やってんのよ」


 今までは昼前に起きて午後から遊びに行っていた息子が最近早起きするようになったので不思議に思った母親が武に尋ねた。


「なんか新しい変な友達ができたんだけどそいつ人見知りでさ。だからみんなと遊ぶ前に2人で遊んでる」


「その友達には引っ越しのこと言った…?」


「ううん、学校の友達には言ったけどその子はまだ」


「そっか、その子も寂しがると思うけど早めに言わないとダメよ」


「わかった、明日も遊ぶ約束してるからその時言うよ」


 武の家は父親の転勤の都合で引っ越すことになっていた。

 今の友達と遊ぶのもこれで最後だと武の母親も帰宅時間が多少遅くても大目に見てきた。

 せっかく出来た友達と早くも別れなければならないのは辛いが仕方ないことだといつになく母親の口調も哀しげに聞だった。




ーー〇〇地方は記録的な豪雨が降り続き、悪天候はしばらく続くものとーー


「今日も雨か…」


 武は窓の外を見る。

 流石にこの雨じゃヨーコも家から出られないはずだ。

 学校の友達とは電話で連絡して母親が車で友達の家に遊びに言った。

 いくら外が雨でも家の中なら家の中でテレビゲームやら室内かくれんぼやら遊ぶ内容には事欠かなかった。

 本当は妖狐とも遊びたかったし、引っ越しのことを言わなければならないので連絡を取りたかったがどこの小学校なのかも知らないのでそれもままならない。



 降りしきる雨の中、一人の少女はいつもの場所で少年を待っていた。


「タケシ遅いな…」





「忘れ物はないか?」


 結局空が真っ青に晴れた日は引っ越しの時まで訪れなかった。

 ずっと大雨が降っていたわけではないが断続的に降り続いた雨のせいで夏休みの最後の方は外で遊ぶことができなかった。


「うん、全部ダンボールに詰めたから平気」


 武は父親の運転する軽トラの助手席に乗った。

 母親と妹は先に新居の方で荷物整理をしている。

 

 ククククッ


 軽トラのエンジンに火が灯る。

 慣れ親しんだ街並みが窓の向こうを流れてった。

 途中、妖狐といつも待ち合わせしていた場所を通りかかる。

 結局別れを告げることが出来ないままで彼女には悪いことをした。

 武は心の中で懺悔しつつぼんやりとその場所を眺めた。


「…っえ?」


 妖狐はそこにいた。

 膝を抱えて一人寂しそうに座っていた。


 ふと何気無く妖狐が顔を上げる。

 武と視線が窓ガラス越しに絡まる。


 妖狐はあの青空のように晴れやかな笑顔を見せた。

 本当に嬉しそうな、そんな笑顔を。


 そしてその笑顔は景色と同じように流されて行き、窓枠を過ぎるともう見えなくなる。

 武は急いで窓から顔を出した。

 外の暑いムッとした空気に頬を叩かれながら後ろを見が、今しがた渡った交差点の信号が青から赤に変わり、横向きの車の流れが2人の間を引き裂いた。


「どうかしたか?今エアコンをつけるからそんな顔を出さなくても平気だぞ」


 何も知らない父親は息子が余程暑さに耐えかねたのかと苦笑しながらエアコンのスイッチを入れた。


「別になんでもない」


 武は座席に座りなおすとレバーを回して窓を閉めた。

 カーステレオの両脇から生暖かい風が噴き出し顔に当たる。


 そして心の中で少女に別れを告げた。



 

 武は知らなかった。

 信号が変わり、車の流れで遮られた視界の先で武の乗る軽トラを追いかけようと走っていた少女のことを。

 



〜8年後〜



「おーひっさしぶりだなー、何にも変わってないや」


 武は少年から青年になっていた。

 父親の転勤先が今度は海外に決まり、母親がそれについていったため母親の実家があるこの街に帰ってきたのだ。

 高校はこっちで受けて、3つ年の離れた妹もこちらの中学校に入学することになっている。


「婆ちゃん家はこっちだったっけか?」


「違うよお兄ちゃん!全く逆!なんで私より覚えてないのよ!?」


 旅行鞄を引きづって降りたローカル線のホームで久しぶりの故郷の空気を吸う。

 景色は昔と殆ど変わらなかった。

 駅の錆びた手すりがペンキを塗り直されていたが、やっぱりそれが剥げて錆びを晒しているあたりに田舎に帰って来たんだなぁと奇妙な感慨を感じる。


 まあ、いくら景色や街並みが変わってないとはいえ道の細部までは覚えておらず、駅から妹の紗夜と四苦八苦しながら祖父母の家を目指した。



「…見つけた」



 ◇



 ジリリリリッ!


 目覚ましが甲高い音を響かせ俺の安眠を妨害する。

 あと5分…いや2時間くらい…いやまて、今日から学校だったか。


 まさか入学早々遅刻するわけにはいかないな。

 俺は布団の中から腕だけを目覚ましを止めようと手を伸ばす。


 もにゅっ


「んんっ…」


 なんだ?やけに柔らかい目覚ましだな…


 もにゅもにゅっ


「んあっ…!」


 なんだこの新感覚は?!柔らかく、それでいて弾力があって暖かい。

 何かこれを揉んでいると心の底から込み上げてくるものがある…?


 その時階下からズンズンと足音を響かせノックもなしに俺の部屋へ飛び込んで来た浸入者が現れた。


「ちょっとお兄ちゃん!?いつまで寝てんのよいい加減起きないと遅刻する……にゃぁあっ!!?」


 遅刻するニャア?何言ってんだコイツ。

 アニメの見過ぎでおかしくなったか?


「お、お兄ちゃんが全裸の金髪美女と…しかも猫耳のコスプレ!?最低変態キモい!!!いったいナニしてたのよ!?」


 本当に何言ってんだ。

 朝から人のことを散々言いやがって。


「大人になったから…?」


 俺のすぐ隣で知らない女の声がした。

 誰だ…?


「大人なったって…ふ、不潔、お兄ちゃん不潔よぉぉーーー!!」


 紗夜がバタバタとどっかへ走って行く音が聞こえる。

 流石に様子がおかしいので掛け布団を退かして顔を出す。

 

「おはよタケシ」


 ………ドチラサマ?

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