番外 とある先生の手記
幼稚園の先生視点。
四月一日
幼稚園での初仕事。ばらの2組担当になった。先輩の佐藤先生と共にこれから頑張っていこうと思う。
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四月十三日
僕の受け持った組には、有馬君という子がいるのだが、変わってる。
いつも隅っこで絵を描いていて、時折じっと遊んでいる他の子たちを見ているのだ。
今までは、仲間に入りたいのかなと思っていた。そこで、今日話しかけてみたのだ。
みんなの所に行かないのかって。
そうすると、彼は大丈夫ですって答えた。で、もう一度遊んでいる他の子達に視線を向けた。
その眼付と言ったら、子供を見守るお母さんのようだった。
「あらあら、うちの子ったら。あんなにはしゃいじゃって」
てな感じだ。
因みにそのあと、僕にも同じ目が向けられた。
お仕事大変ですねって言われた。
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五月二日
通君が前を見ずに有馬君にぶつかって、有馬君は転んでしまった。
通君は、他の子を殴ったりするちょっと問題のある子だ。
膝小僧が血で真っ赤になっているのに、有馬君は一切泣かなかった。
通君は案の定そのまま無視して逃げようとするので、慌てて捕まえて、謝らせた。
そのあと有馬君に、痛いかって訊くと、彼は少し痛いって答えた。
でも、その顔を見て思った。
有馬君は自分に起こる出来事をまるで他人事のように捉えているんじゃないかって。
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五月二十三日
有馬君が通君を叱った。
通君は、有馬君の恐竜の絵を奪い、破ったのだ。
その朝、有馬君が凄く落ち込んでいた。いつも、にこにこしているので驚いた。
子供たちに呼ばれ僕が駆け付けたときには、有馬君は淡々と通君に説教を始めていた。
笑いながら怒る、というものを始めて見た。
通君が泣くのも初めて見た。
言いたいことを言い終えると、有馬君は母の目に戻った。
そして、おもむろに絵を描き通君に渡した。
通君が有馬君にありがとうと言うのを見て、思った。
アメとムチの使い方が上手いな。見習わなければ。
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五月二十六日
通君が悪いことをしなくなったと、山野先生が喜んでた。
他の先生もほっとしたようだ。
有馬君と、最近よく遊んでいる。
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六月十七日
有馬君と通君が一緒に魔法使いごっこをしていた。
紙に魔法陣を描いていた。
有馬君も子供っぽいところがあるんだな、と思って紙を覗いたら、クオリティーがおかしかった。
絵でも習っているのだろうか?
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七月四日
同窓会があった。
奥野さんもいて、随分ときれいになっていたが、結婚したそうだ。
初恋は敗れた。
七月五日
まりちゃんをかばって、有馬君が頭を強く打った。
まりちゃんは新しくこの幼稚園に通うことになった。有馬君のお隣に引っ越してきた子だ。
なぜだか、有馬君にくっついて離れなかった。
有馬君がけがをしたとき、僕は慌てて通君と共に駆け寄った。
そこでの、有馬君の笑った顔が忘れられない。
誇らしげで、その癖泣きそうな顔だった。
でも、痛かったからというわけじゃなさそうだった。
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七月八日
大事をとって幼稚園を休んでいたのだが、有馬君がついに戻ってきた。
心配するみんなに、大丈夫だと笑っていた。
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九月一日
夏休みが終わった。みんなは、休みが終わって悲しそう。僕も……
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十一月二十七日
学芸会の日。今まで練習してき……
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十二月二十五日
クリスマス。僕は赤……
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一月一日
実家に……
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一月三日
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二月十日
二月
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三月二十五日
ついに僕の受け持った組が卒業することになった。
みんなに、ありがとうと言われて、嬉しかった。涙が少しでた。
あの日、あの夏、有馬君があんな顔をした理由を、僕は結局訊けなかった。
これから先、皆は小学校に行き、中学校に行き、成長していくのだろう。
子供から大人になって行くのだろう。
有馬君は大人のフリをしている気がする。
有馬君も、同じようにちゃんと、子供から大人に成長できたらいい。
とりあえず、みんな、卒園おめでとう!!!
これで、幼稚園生編は完全に完結。
ありがとうございました!