第二話 僕と元田んぼの荒地
「さぁいたぁ、さぁいたぁ、チュウリップぅのはぁなぁが」
ピアノの音に合わせて、 子供達の歌声が木霊する。
「なぁらんだぁ、なぁらんだぁ、あかしろきいろぉ」
いや、これは歌というより叫びだ。
メロディなんて存在しない。
「どのはなぁみぃてもぉ、きぃれぇいぃだなぁ」
僕も音痴だから、人のこと言えないけど。
僕、山崎有馬は今、幼稚園に通っている。
この幼稚園という施設、なかなかに便利なものだ。
施設に子供を預けることにより、忙しいお母様方に余裕が生まれる。お子様方は、新たにお友達を作ることが出来る。
両働きのお家、近所に同い年の子供がいない子。彼らにとっては正に救世主であろう。
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我が家の隣には、空き地がある。
元々、 稲を育てていた場所だったらしい。
今はもう、雑草がぼうぼうに生えて見る影もないけど。
「魔導方程式、完成。『微風』発動」
僕の言葉と共に、一直線に魔法が放たれる。
雑草がざわりと揺れ、土が舞い上がる。
今唱えたのは、「風」の初級魔法だ。
「……はぁ」
僕は溜息を吐いた。
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話は変わるが、僕の情報収集は主にテレビから。
箱型の機械で、前面についているガラス部分に子供用の劇から、各地で起こっている出来事について映像が流される。
僕がいるのは日本という国らしい。エルフや獣人がいなくてびっくりした。
更に、この国を治めるのは、王じゃない。「民主制」らしい。前世の僕は、「民主制」なんて学者たちの机上の空論だと思っていた。
まさか、実現している国があるなんて。
この世界は僕の元々いた世界よりも、発展している。
文化も、工業も、商売も、農業も、医療も。
そして、錬金術。
この世界では、科学という。
あの馬のない車も、錬金術によって動いている。テレビを作り出したのも、錬金術だ。
この世界の何もかもが、錬金術で動いている。
そう、何もかもが!
前の世界では、殆どが魔法で動いていた。
何が言いたいか分かる?
この世界では、全くもって発展していないものが一つだけある。
魔術だ。
誰も魔導要素が見えない。
誰も自分の魔力を感じられない。
誰も魔導方程式が組み立てられない。
誰も、魔法が使えない。
この事実を知った時、僕は混乱した。僕の前の人生は、まさに全てが魔術だったからだ。
中級魔導師だし。
一体どうすればいいのだ。
その質問に答えたのは、またもやテレビだった。
それは、幼稚園の休みの前夜に流された。
タイトルは、「異能者の闘い〜血と涙〜」
それは、人とは違う能力を持った者たちが、自分たちを兵器に使おうとする犯罪組織や、自分たちを実験体にしようとする政府と、自分と仲間達を守るために闘うという話だ。
僕の魔術だって、この世界から見たら異能なんじゃないか?
魔法を人々の前で使ったら、これと同じことが起きるんじゃないか?
頭にチップを埋められて、頭をナイフであばかれて。
嫌だ。
絶対に嫌だ。
僕は人前で、魔法を使わないことに決めた。
でも、ばれることがあるかもしれない。
この世界には、銃なんてものもある。
対抗手段として魔術は必須だ。
だから、こうやって人のいない空き地にて、魔術の練習をしているわけだが。
わけだったのだが。
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「あぁぁぁああ!?」
僕は叫ぶ。甲高い子供の声は、響きやすい。
「建設予定地ぃぃい!?」
僕の練習場は、空き地は、今青いフェンスにて囲まれていた。
ゔぃぃぃんと、獣の唸り声みたいな音が辺り一帯に響く。
看板の中で、黄色い帽子をかぶった男が頭を下げていた。