江戸川乱歩のこと
乱歩は探偵小説の作家ですが、そのトリッキーな作風はSFに通じるものがあります。
江戸川乱歩の作品に『パノラマ島奇談』という小説があります。ずいぶん昔に読んだ中編です。細かい筋は忘れてしまいましたが、資産家の男が、某県の沖合の小島に今で言うテーマパークのようなものを造って、そこへゲストが招待されて事件が起きる、というような内容だったと思います。いま思えばSF的です。乱歩のデカダンスな色合いが出ていた作品でした。
松本清張は乱歩の『D坂の殺人事件』、『心理試験』といった初期作品は褒めているのですが、後年のけれん味の強い作品については「出版社の通俗趣味に迎合した作品」と、やや批判的でした。
社会派の清張からすれば、ひとつ間違えれば単なる猟奇趣味にしか思えない設定の奇抜さが通俗に見えたのでしょう。『一寸法師』だったか、等身大の石膏像から血がしたたり落ちる、というような導入の作品もありました。
先日、書店に行ったら珍しく『江戸川乱歩傑作選』という文庫があって、思わず買ってしまいました。新潮文庫のものです。
十代の頃に読んでいた乱歩は角川文庫でした。作品にも流行りすたりがあるのでしょうか。小説のジャンルというものを教えてくれた存在として、江戸川乱歩は私にとって懐かしさと昭和の郷愁がこもった作家です。
読んでいただきありがとうございました。