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真の治癒術士《ヒーラー》4

 「ピンク髪の次女」




 昨夜は夜更かししたので、ソファでうつらうつらしていると、足下から声がした。


「教皇、暇なら散歩に連れて行け」

「外は暑いからやだ。自分ひとりで行ってよ」

「身体がなまってしまうぞ」

「元々なまってるから同じだよ」

「ほら、根性まで腐り始めているじゃないか」

「ほっといてよ!」


 変態の女騎士には言われたくなかった。


「前から感じていたが、お前は非常に怠惰な奴だな。そんな風で間違って魔王にでもなったら、すぐに勇者に退治されてしまうぞ」

「時折、政権交代があるのは、国民には歓迎すべきことだよ」

「戦争だぞ?」

「無条件降伏でもするよ。禅譲かな? 無抵抗の無能力者をどうこうするほど、勇者は無慈悲な男じゃないと思うなあ」

「歯がゆい奴だなあ。男なら天下を自由に動かしてみたいとは思わないのか?」

「向き不向きがあるからなあ。そうしたいなら、女騎士に任せるよ、ふあ~」

「何故、神はこんな男を選んだのだろうか? わからん。しかも、平和で繁栄し、民は喜んでいると言うから不思議だ」


 女騎士は足置きの体勢のまま、上体だけ持ち上げている。

 しなやかさを感じさせる全裸の雌豹のようだったが、雌豹は普通は全裸であり、そして美しい(・・・)生き物である。

 そして、猛獣でもある。

 勿論、彼女は奴隷服を着ている。

 下着類は着けていないけど……


「世の中、不思議なことばかりだよ」

「それにしても、限度があるだろう」

「きっと、国民には王だの魔王だのは必要ないんじゃない? 神もピンチにならないと呼ばれないしさ」

「おお。神よ、異教徒の発言をお許しください」

「許す」

「お前が言うな!」

「はいはい。じゃあね」

「お、おい、寝るな! 起きろ! 散歩に連れて行け!」

「別に、ひとりで行けばいいじゃないか」

「馬鹿者! ここは魔王城だぞ! 魔王の敷地で、魔族がうようよと売るほどいるんだぞ」

「だから? 捕まえて売るなよ」

「私がこんな格好でひとりで歩いていたら…… その、だからな」

「なんだい?」

「私はこれでも聖騎士だぞ!」

「みんな知ってるからね。足置きってこともだけど」

「だからだな、神にこの身を捧げた聖騎士なのに奴隷の格好でうろうろしていたら、魔族の男どもに蹂躙されてしまうだろう?」

「戦争は終わっているから戦闘は起こらないよ」

「そっちの蹂躙ではなくてだな。何と言うか、私はいい女だろ。だから魔族どもに『強姦』されて『輪姦』されて、辱められて、陵辱されたりして、お、お嫁さんになれない身体にされてしまうじゃないか! お前はそれでもいいのか! いいのか? どう、どうなんだ! 嫌だろ! 責任とりたいだろ? お嫁さんだぞ?」


 聖騎士云々はどうなったんだ?

 どちらにせよ、面倒な奴だった。

 喧しくて眠れないじゃないか。


「大体、お前の私に対する扱いがちょっとばかり酷いぞ。女剣士なんて、すぐに許されて、今じゃ近衛兵の隊長ではないか! 確かにあいつの攻めは凄いが、受けなら私の方が上だぞ。黙って総受けだぞ!」

「そう言う割には、口やかましくないか?」

「ううぅ、すまん。私は昔から口が災いしてなあ。教会でも良く叱られたし、『断食』より『無言の行』の方がつらかったんだ」


 駄目だ、話をやめる気配がない。


「それで、ひとりでは寂しいのかい?」

「さ、寂しくなんかないぞ。ひとりでも全然平気だ。散歩だってひとりで行って、魔族の5人や10人、受けきって見せる!」

「そう、じゃあ、行ってらっしゃい」

「教皇! お前冷たいぞ! なあ、私がついて行ってやるから、一緒に散歩しようよ~」


 女騎士は僕の脚を引っ張り続けた。


「わかった。わかったから」

「本当か? 本当だな?」


 本当は眠いんだが、喧しいから仕方がない。

 少しぐらいは付き合ってやろう。

 女騎士は嬉しそうに立ち上がって、ピョンピョン跳びはねていた。


 今日は、王女プリンセスたちは披露宴のドレスを選んでいて、女魔法使いも女剣士も女だからか興味があるようで、そっちに行ったきりである。

 先生も『自分の分も』とか張り切ってついて行ってしまったし、誰も残っていない。


 東宮に侍女は銀髪の王女(プリンセス)が連れてきたひとりしかいないし、大変だからと雇い入れた人間族の少女の下働きたちも、なんだかんだと理由をつけて王女プリンセスたちに付きっきりである。

 奴隷は地下とか裏庭の目立たないところにしか入れないから、仕事で命じられない限りは東宮の主な場所では見かけることはない。

 唯一、女騎士が謁見の間に寝そべっているが、これは足置きの刑だから仕方がない。

 魔族の男たちはいるが、全員が女剣士の部下の近衛兵であり、警護兵として建物周りを見張っているだけである。

 つまり、今日は当分の間、足置きと二人きりなのだ。

 だから、女騎士は寂しかったのだと思う。


「散歩は良いな。実に良いものだ」


 女騎士は僕の腕にしがみついて歩きながら、上機嫌だった。

 奴隷服の一番良いのを着込んでいる。

 とは言え、全裸ではない程度の代物だった。

 普段の被るタイプの毛皮の貫頭衣ではなく、毛皮の上下のビキニタイプだった、

 ターザンに登場するジェーンだっけな。

 まあ、古代人とか恐竜時代のSFに良く登場する、無駄に露出が多い衣裳?である。

 SF映画ではないから、金髪でなく赤髪だったけれど、プロポーションは抜群である。

 女騎士は僕よりも僅かに背が高く、僅かに年齢も高かった。

(僅かにしておかないと、背の方は僕の機嫌が悪くなり、年齢の方は女騎士の機嫌が悪くなる)


「教皇、あれは何だ。ひょっとしてクリルタイと言うやつか」

「いや、クリルタイではないんだけど、クリルタイよりも人が集まっているらしいよ。魔王のお祝いなんだ」

「戦勝の祝いか? 今頃にか?」

「魔王には嬉しいことがあって(魔王頭髪治癒事件である)、お祝いしたい気分だったから、ついでに戦勝のお祝いもしてるんだ。景気が良くなってきたから各魔族たちも沢山集まっている。魔族のお祭りみたいなものかな」


 東宮と皇宮の間には中庭と練兵場があり、その先には皇宮の巨大な前庭があって、かなり広い。

 だが、押し寄せた魔族たちは前庭だけに納まらず、今日は練兵場にもあふれ出ている。

 幹部は皇宮内に割り当てられているのに、外にはテントがあちこちにできていて、練兵場など青空市場としか表現できないほど、魔族で賑わっている。

 もっとも、今まで戦費に振り分けられていた予算が、殆ど市場経済に流れるようになって、世界は好景気でもある。


「練兵場の方は歩けそうにないなあ。裏庭の方に行ってみようか?」

「裏庭? いいな、そうしよう」


 練兵場の裏側には大きな湖と言うか池みたいなものがあり、湧き水によって飲めるぐらいに綺麗である。

 その池の向こう側の裏庭は、魔王城(皇宮)の裏手に繋がっているが、東宮の裏側からも繋がっている。

 手入れされた森林を抜ける遊歩道もあり、魔王城の保安のため、部外者は立ち入り禁止である。


「戦争がなくなると景気が良くなるとは思わなかった。戦争の需要が経済の基本だと教わっていたからな」

「うーん、戦争があろうとなかろうと、景気の良し悪しはあると思うよ。戦争で儲かるのは当事者にならないで、当事者たちに物を売る連中だけだよ。できれば、戦争している両方の陣営に売りつけることだねえ」

「そんなことはできないだろう?」

「普通はね。ただ、軍需産業が儲かるのと、景気不景気は違うんだよ」

「どうしてだ? 売れれば儲かるんだろう?」

「売ってるところはね」

「どう言うことなんだ」

「戦争当事国は戦争してるから、国民はかなりつらいよね。不景気以上に景気が悪いようなものだよ」

「つまり、世界を平均して眺めれば好景気にはなってないと言うことか」

「軍需産業の売上げは、軍事費を上回ることはないよね。国は特定の産品を買い上げるけど、凶作でも高くは買ってくれない。一方で平和なら、国民のひとりひとりが買い上げてくれる。これは軽く見積もっても国家予算の数十倍の売上げになると思う」

「確かに、軍隊の徴兵率は国民の2%から5%くらいだな。それ以上は能力者以外の後方支援部隊だ」

「まあ、能力者とは言っても、鍛えたり経験を積ませたり、育てるのにも時間がかかるし金もかかるからね。冒険者をやっていてもらわないと国家予算が破綻するよ」


 僕たちは池の裏側に出て、池のオーバーフローが作り出す小川のせせらぎ沿いを歩いていた。

 せせらぎの皇宮側は芝生が多く、後宮の裏まで続いている。

 東宮側は森林である。

 小川が自然の境界になっていた。


「しかし、軍需産業は不景気になるだろう?」

「正常に戻ると言った方が正しいと思うよ。平和になっても騎士団とか、近衛兵とか、都市警備とか、警察とか、国家予算がかかる部署も多いし、兵員も早々減らないよ」

「予算の奪い合いも激しくなるしな。我ら騎士団は金食い虫の役立たずだな」


 寂しそうな横顔を見せないでね。

 そう言うのにちょっと弱いから。


「でも、景気不景気は、本当は売上げとは関係ないんだ」

「何で?」

「好景気ってのは、実はお金持ちがお金を使うかどうかなんだよね」

「貧乏人が金を使ってもたいした金額にはならんのか?」

「て、言うか、貧乏人はいつでもお金を使うんだよ。生活のためにね。切り詰めても個人的にはたいした資産にはならないんだ」

「金持ちは唸るほど持っているがな」

「金持ちは、戦争中は金を守ることしか考えない。出て行くばかりだと金持ちから転落するから必死だよね」

「確かに、金を持ってるから金持ちをやってられるんだな」

「それに戦争中だと、高価なものとか、娯楽とか、外食なんかも難しくなるよね」

「不謹慎だとか言われるな」

「だから、金を持っていても使えないし、未来のために貯め込もうとする。だから金を使ってくれない」

「平和になると使うのか?」

「色々な産業が復興してくると、金持ちが最初に考えるのは投資だ。更に儲かる話には金を出す。しかも、平和だから比較的安全な投資になるし、選択肢も沢山出てくる。一つぐらい失敗しても、別ので儲かれば大丈夫なんだ。そして、儲かれば再投資するから更に金が市場に流れ出す。他の金持ちも遅れれば格下の金持ちになりかねないから、投資し始める」

「ふうん、そんなものか」

「金をしまっておいても増えないからなあ。まあ、そう言う投資先が沢山あって、金持ちが金を遊ばせておかない状態が好景気なんだよ」

「更に儲けようとしているのにか?」

「投資して、市場に流れている時は誰の金でもないんだよ。上手く儲けた奴のものに決まるまではね」

「すると、軍は使うばかりで再投資がないなあ」

「軍事費が急に2倍とかになってもみんなが困るだけだよ」

「そうだなあ」

「どうした。疲れたのか? 少し顔色が悪いんじゃないか?」

「いや、そのだな。ちょっとトイレを……」

「ああ、そうか」


 この時代、実は上流階級のトイレは、侍女の持ってくるオマルとかである。

 僕にも侍女がいれば、呼ぶと溲瓶しびんを持ってくるだろう。

 いないけどね。

 魔王は世話する侍女に次々と手を出して、ついにはきさき溲瓶しびんを持ってくるようになったらしい。

(妃が多すぎて覚えきれず、間違えて人妻に世話させた、と言う冗談ジョークすらある)

 侍女たちは自分たちで処理するらしい。

 奴隷は奴隷でする場所が決まっている。


 僕は適当に外でしている。

 それは男だからだろう。

 奴隷でも女は外ではしないと思う。


「小川の下流に目隠しのあるトイレがあったな」

「本当か! 覗かれたりしないな!」

「板塀の向こうは小川だし、両側は茂みになっているから大丈夫だよ」

「そうか、連れて行け! すぐにだぞ! いや、ゆっくりと行け!」


 もしかしたら、散歩に行きたいと言い出したのも、それが原因だったのか?

 確かに東宮では二人きりだったから、言い出せなかったのかもしれない。


 やがて、目的の場所に来た。

 目隠しの板塀には簡易の扉が付いていて、両脇は茂みで覆われている。

 中には2本の板だけだが、板の下には小川の流れが来ていて、自然の水洗式になっている。

 勿論、向こう側の森林からは覗けるだろうが、立ち入り禁止区画のこんな場所では覗きも現れないだろう。

 気にはなるかもしれないが。


 女騎士は、最早黙ったままトイレに向かい、僕が近くにいるのを確認すると、扉を開け放った。


「えっ!」

「ふぇ!」

「ひぇ!」


 一瞬、3人(・・)の時間が止まった。


「き、きゃー!」


 ぶうん!

 がきゃーん! じりじりじりん!


 トイレ内でこちらを向いて排泄していたピンク髪の少女は、確かに少女だった。


「しかし、何故、目覚まし時計?」


 女騎士は扉を閉めて足踏みして待っていたが、すぐに出てきたピンク髪の少女と凄い勢いで交替した。


「貴様ー、僕の、僕の…… を見たなー!」


 ショートヘアで、下は半ズボンにハイソックスの美少年風美少女が怒鳴りつけてくる。

 見た目と口調はアレだが、彼女は可愛らしい声の持ち主であり、姉大好きの可愛い女の子である。


「ああ、魔王ちちうえから頂いた僕の大事な時計が壊れてるー」

「そんな大事なものなら、投げつけたりするなよ」

「だってぇ、僕の大事なところを……」


 そこで何かに気付いたようだ。


「貴様ー、僕から大事な姉上を奪って置いて、あんな女と何をしていた!」

「散歩?」

「ふざけるな! この淫魔め! しかもだ、それに飽き足らずに僕のまで見るなんて許せない! 時計も弁償しろ!」


 最早、何に対して怒っているのかもわかってないようだった。


「いや、君のは見てないよ」

「嘘をつけ! バッチリと見ただろう?」

「そもそも、どうしてこっち向き(・・・・・)でするんだ? 男なら男らしく、川に向かってすればいいだろう!」

「ふぇ、だって森の方は怖いんだもん」

「何が怖いんだ?」

「だってぇ、何かが出てきたら怖いし、覗かれているようで怖いじゃない」

「男がそんなことでどうする!」

「僕は女の子だ! 見ただろう!」

「いや、ちっちゃくて見えなかった」

「ちっちゃい訳じゃない! 女の子なんだ!」

「そうかな?」

「疑うのか? これを見ろ!」


 ぼーん。


 確かに姉よりもデカい。

 着痩せするタイプなのかもしれない。


「ふむ、確かに大きいなあ」

「そうだろう。実は姉上よりもだな…… あっ、み、見るなー!」


 ぶん!

 がきん! じりじりん!


「だから、時計を投げるなよ」

「うるさい! 僕のばっかり見て! 貴様のも見せろー!」

「だが、断る!」

「な、何故だ? ずるいぞ!」

「だって、お嫁に行けなくなるだろ?」

「そ、それは、僕のセリフだー!」


 ついに切れたピンク髪の王女プリンセスは僕に掴みかかり、流石に魔王の家系なのか無能力者の僕を圧倒して、ズボンを引き摺り降ろした。


 べろん。


「き、き、きゃー!」


 王女プリンセスは目の前のモノを見て、叫んでから気絶した。

 予想と違う形をしていたからだろう。

 おっぱいを見せるからだよ?


「これは、僕の勝ちで良いのか?」

「そんな訳あるか!」


 ばきい!


 僕は女騎士の回し蹴りで吹っ飛んで、トイレの扉をぶち抜いて、2本の板の間に頭から落下した。


「女騎士の匂いがする」

「きゃわー、嗅ぐなー!」


 女騎士は走ってくると、僕の頭を踏みつけた。


 ごふぅ。


「ひぃー、飲むな! 味わうなー!」


 ごんごん!


 僕は頭を踏みつけられ続けた。



「ヒール」


 僕は色々と治癒ヒールを行った。

 自分。

 王女プリンセス

 目覚まし時計(ネジ式)。

 トイレの扉。

 2本の板。


「僕は貴様を許した訳じゃないぞ、教皇」

「僕はお前を許した訳じゃないぞ、女騎士」

「ず、ずるいぞ。私が言う相手がいないじゃないか!」

「水は低きに流れるから、お前が全部悪いんだ。諦めて受け入れろ、女騎士」

「しょ、しょんなあ」


 とは言え、治癒ヒールしたと言うのに全員が疲れていた。

 治癒術ヒールは精神的な効果はないのだろうか?

 これは疲れではなく、トラウマに近いかもしれない。


 3人で何となくトボトボと歩き、小川の源流になる池の前まで来ていた。

 王女はここに来る途中だったらしい。


「暑いな。僕は夏は苦手だな」

「確かに暑い。だが、冬も苦手だ」

「虚弱体質か、お前は」

「じゃ、女騎士は夏も冬も好きなのか?」

「別に平気だぞ」

「春夏秋冬、総受けか?」

「勿論だ」

「総受けって何だ?」

「お前は知らなくてもいい」

「僕を仲間はずれにするな!」

「いいや、子供扱いだからね」

「もっと、酷い!」


 何となく3人で池の端に座って、風が吹くのを待ちわびていた。

 突然訪れた、平和な景色だった。


「実は、僕は冬が大好きだ」

「理由があるのかい」

「冬にはこの池が凍ってだな。スケートができるようになるんだ」

「スケート?」

「ああ。平らに凍り付いた池の上を滑るんだ。気持ちいいんだよ」

「王女の得意魔法は『凍結フリーズ』だったな。今、凍らせることはできぬのか?」

「流石の僕でもこれだけの規模を、夏に凍らせることは無理だね」

「そうなのか」

「そう言う女騎士の得意魔法は何だ?」

「私は聖光フラッシュだな」

「どんな魔法なのだ?」

「敵に攻撃する時に全身が眩しく光る。目つぶしの一種だが、効果的だぞ」

「セコいな」

「聖光だけにな」

「二人して酷いぞ。聖光は聖人にしか使えない魔法なんだぞ」

「はいはい、凄い凄い」

「馬鹿にして!」


 女騎士は涙目でいじけまくったが、僕たちは可笑しくてしょうがなかった。


「ああ、魔族たちが集まっているこの時に池を凍らせることができれば、みんなにスケートを楽しんでもらえるのにな。だけど、魔王ちちうえですら難しいと言うんだ。きっと恐ろしいほどのパワーが必要になるのだろう」


 王女はピンク髪を僅かに揺らし始めた。

 風が吹いたのではなく、王女のパワーが出たのかもしれない。


「恐ろしいほどのパワー?」


 女騎士が首を傾げた。


「何か良いアイデアでもあるのか?」

「あるぞ! お前だ!」


 それで、僕は例の合体ブースト魔法を試すことになった。


「ひゃぁぅんんん」

「だから、キャラが違う声を出すなよ」

「でもぅ、うぅんん、何かしゅごいのが、しゅごいのがぁ」


 僕は王女プリンセスを絞り込み、流し込んだ。


「あっああっ、変に、へんになるー」


 凄い、デカい。

 でも、それどころではない。


「ヒール!」

「うあぁぁん、で、出ちゃう、出ちゃうぅ、らめー」


 それで、池は綺麗に凍結し、スケートをする魔族で賑わった。

 夜は夜で、女騎士の聖光フラッシュの下位バージョンである聖明ライトアップなどにより、魔族の恋人たちのデートスポットになった。

(勿論、合体ブースト魔法だったが)


 ピンク髪の王女プリンセスは、スケートする時にはとっても女の子らしい衣裳を着ていて、そのピラピラはとっても可愛らしかった。


「駄目ですぅ、もう第5夫人まで予約されているんですからね!」


 金髪の王女プリンセスは、謁見の間にやってきたピンク髪の王女プリンセスを涙目で威嚇した。


「僕は別に第1とか第2夫人にはならないよ」

「なら、いいですけど」

「僕がなるのは、第二皇妃(きさき)だからね!」

「そんなぁ、ずるいですぅ」


 噂によると、例の合体ブースト凍結フリーズ魔法によって、世界中の池などが凍り付いてスケートリンクになり、ピンク髪の王女プリンセスには巨額の『使用料』が入ってきて、王女プリンセスは世界スケート協会の名誉理事にもなったと言う。


「教皇、頑張ってくれたまえ」

「3日に一度は凍結させないといけないなんて聞いてないぞ!」

「仕方がないだろう、夏なんだから」

「夏は苦手なんだよ」

「でも、僕のおっぱいは気に入ったのだろう?」


 間違ってはいなかった。




 おしまい






 勇者は、魔王城に移送される途中、脱走して行方不明だそうである。

駄目押しの第4話!

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