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お隣に女子中学生が引っ越してまいりましたぁ 02

 お隣に女子中学生が引っ越してまいりましたぁ 02




 この白装束の人は神様だろうか?

 いや、人が神様というのは表現としてはおかしくないか?

 人影ならいいだろうか?

 これは入試に出るだろうか?

 それどころじゃないな。


 神様なのか!

 ばちあたるのか!

 ばちかぶるのか!


「すみません、神様! ほんの出来心です」

「犯人は皆そう言うんだ!」

「もうしません! もうしませんから、どうかおゆるしを~」

「洗い物してくれたら赦す」

「おありがとう…… って、なんだ。莉子りこちゃんじゃないか。脅かすなよ~」

「誰だと思ったのよ?」

「神様だと思ったら、女神様だった?」

「上手いこと言っても駄目なんだからね」


 ちょっと頬を染めて横を向く可愛い少女、莉子ちゃんはバイト先の社長の娘である。

 社長と言っても近くの弁当屋『おふくろ弁当』の経営者であり、それが莉子ちゃんのお母様である。


 正式な従業員は『厨房の責任者』だけであり、皆は『主任さん』と呼んでいる。

 主任さんは一日中、厨房の奥で目立たないようにしている無口で陰気なオヤジだが、莉子ちゃんのお父様だったりする。

(僕も数ヶ月の間、知らなかった)


 主任さんは宝くじ以外にあまり興味は示さない。

 仕事はできるのだが、普段はあまりに存在感がなくて、奥さんである社長は近所から『後家さん』とうわさされている。

 社長は、高級料亭の女将さんみたいにつやっぽいからなあ。

(勿論、高級料亭の女将さん、なんて見たことないけど)


 社長と主任さん以外は正規雇用の社員ではなく、近所のおばさんのパートと僕みたいなバイトであり、それでお店を運営している。

 そんな状況だから、一人娘である莉子ちゃんは人手が足りない時にいつも手伝わされて迷惑そうである。


『だって、バイト代も出ないのよ。ちゃんとお小遣いに入ってるとか何とか言ってさぁ』


 しかし、週に何日かの『しがないバイト』の僕からすれば、社長は社長であるし、莉子ちゃんは社長令嬢であり、上司でもある。

 ふたりの間に立ち入る勇気などない。


 それでも、莉子ちゃんは放課後の部活や塾通いもせずに、いつもお手伝いをしているいいである。

 休日だって友達と遊びに行きたいお年頃なのに、随分と我慢しているようだ。

 クラスメートらしき男子が、時々、お弁当を買いに来るが、あれは様子見だと思う。

 僕が憶えているだけでも10人は下らないのだ。


 しかし、今日もお正月だと言うのに、莉子ちゃんはお店の制服(白い厨房用である)を着ている。

 流石にマスクはしていないけど、キャップは被っていた。


 女の子なんだから、晴れ着のひとつも着たいだろうに……


 しかし、お店の厨房は暑いけど、厨房用の制服で木枯らしが吹く冬の神社は寒いだろう。

 僕はコートを脱いで莉子ちゃんに着せ、マフラーを巻いてあげる。


「あ、ありがとう、浪人生……」


 大きめのコートを両手で掴んで羽織っている莉子ちゃんは照る照る坊主みたいになってしまったが、いつもより年相応に見えた。


「お店、大丈夫なの?」

「元日の午前中からお客なんか来ないわよ。お父さんがいれば十分よ」

「大丈夫かなあ?」

「大体、2日、3日は親戚回りでお休みするんだから、元日もお休みにすればいいのにさぁ」

「社長は?」

「商店街へのご挨拶とかで新年会に行ったわ。おせち料理ばかりじぁ飽きるだろうとか言って、お総菜を山ほど持っていったわよ。そのまま宴会でしょ」

「昼間から?」

「お正月は昼間からお酒が飲めるのよ」


 そうかあ。


「それにしても、酒の席には社長みたいなタイプって喜ばれるよね。華やかだしさ」

「男が馬鹿なだけよ」

「そうかなあ? 優しいし、美人だしなあ」

「基本は、ケチよ。お総菜の費用は商店街から経費で出るから、それで嬉々として出かけたの。お正月は学生が帰省していて、売上げが落ち込むし」


 ちなみに莉子ちゃんはお母さん似で美人だけど、僕にはちょっぴり厳しめの性格をしている中学2年生で、Aカップである。

 お母さん似だから、これからである。

 頑張ろうね。


「何か言った?」

「いや、ごほん、でもまあ、社長はしっかりしているよね」

「何よ! 浪人生もお母さんの方がいいと言うの!」

「ええっ! いやあ…… 考えたことないなあ」

「少しは考えなさいよ、浪人生!」

「いや、流石に人妻というのは、僕には…… ハードルが高いというか、何というか…… うへへ」

「ち、違うわよ! 気持ち悪い! それより参拝は済んだの?」

「ああ、そうだった。肝心のお願いをするの忘れてた」

「まったく、相変わらず間抜けでドジな男ね。元日から店の前を挙動不審な男が通るから、心配でついて来ちゃったじゃない」

「すみませんでした」

「いいから、さっさと済ませるわよ」


 僕たちは拝殿前で並んだ。


「今年は莉子ちゃんも3年生か。受験は厳しいぞう」

「余計なお世話よ。それよりキチンと神様にお願いするのよ。ちゃんとした浪人生になるんでしょ?」

「ええっ? 違う、それ微妙に違う」

「じゃあ、しっかりとした浪人生?」


 ちょっぴりと首を傾げる莉子ちゃんは年相応で、ちょっぴりと可愛かった。

 でも、ちょっぴりだ。

 何しろ、うちは『社内恋愛禁止』である。

 上司がそう言っているのだから確かである。

 それに相手はまだ中学生なのだ。


「だから違うって! 浪人生ではなく大学生になるんだよ」

「それって微妙じゃなくって決定的に違うんじゃない。ちゃんと国語も勉強してるの? 浪人生!」

「うぅ、言葉が痛いです、莉子さん。ハートに突き刺さります」

「何がハートよ。どうせ、将来はパートかニートになるんでしょう」

「うぅ……」

「まあ、そうなったらそうなったで、うちで雇ってあげるから、元気出して!」

「うぅ、慰められていません」

「何よ! うちじゃ就職先に不足だとでも言うの?」

「逆ギレ?」

「フンだ!」


 莉子ちゃんは制服の内ポケットから可愛い財布を取り出すと、5円玉を取り出して賽銭箱に優しく投げ入れた。

 後ろで纏められていた髪が揺れて、僕の心のようだった。


 ウソです。

 Aカップ、ごほん、中学生は子供だから、恋愛対象ではありません。

 ちなみに、Aカップ情報は見たのではなく、偶然、聞いたのだ。

 本人が友達に『どうせAカップよ』とか話していたのを…… 

 多分、正しい評価である。


 でも、大抵のラノベやアニメだって、ヒロインは女子高生じゃないだろうか。

 例えば、エ○ーとかクラ○ドとかエ○ジェルビーツとかシャー○ットとかリライ○とかだな。


 偏ってるって?

 いや、リラ○トのヒロインは小学生だったかな?

 リ○イトって、デスノートの主人公じゃないんだぞ。

 ライトとリライトじゃ、ギョギョと漁業ぐらい違うんだぞ。

 わけわかんないな。


 ガラガラン。


「浪人生?」

「ああ、ごめん。お賽銭、もう一度出さないと駄目かな?」

「ケチくさいこと言ってると、浪人が治らないわよ」


 パンパン。


「今年こそ浪人が良くなりますように」

「浪人は別に病気じゃないよ」

「パンパン、人見知りのあがり症が治りますように」

「それは、僕もそう思う」

「パンパン、へたれが……」

「パンパン、優柔不断が……」

「パンパン、甲斐性なしが……」

「パンパン、短足が……」


「莉子ちゃん? 参拝が山手線やまのてせんゲームみたいになってるよ! しかもテーマが僕の悪口になってるしぃ! しかも、幾つもお願いしてるけど、自分のお願いは?」


 パンパン!


「浪人生がずっと浪人でありますように!」


 今度は真面目にお願いしていた。


「ひどぉ、それが莉子ちゃんのお願いなの?」

「だって、浪人生がいなくなると……」


 莉子ちゃんは俯いてモジモジした。


「いなくなると?」


 ちょっとドキドキした。

 ちょっとだけだよ。


「私の仕事時間が増えるでしょ!」

「そんな理由で! 大学に行ってもバイトできるのに!」

「えー! 勉強しながらバイトできるの?」

「えごぁ!」


 確かに、シングルタスク人間には難しいことかもしれないな。


「今だって、ちゃんと勉強もしてます!」


 莉子ちゃんは大爆笑した。


 その後、落ち着いてから莉子ちゃんに訊かれた。


「そう言えば、お手水はしたの?」

「しないと拙いのかな?」

「当たり前よ。神様と女の子は『不潔』なのが大嫌いなのよ。そんなイカ臭い手でお願いしたって叶えてもらえないわよ!」

「誤解デス。昨夜ハシテマセン」

「何をよ? 急に固まって怪しいわ」

「……ダカラ、イカ臭いコトデス」

「でも、松前漬け作るからって、沢山のスルメを切ったんでしょ? ハサミ貸したじゃない! ちょっと手を出してみてよ」


 勿論、僕には抵抗感はあったが、上司の命令には逆らえなかった。

 してないから大丈夫だろう。

 莉子ちゃんはお手水の前で僕の手を取って臭いを嗅いだ。

 ドキドキした。

 変態的行為に見えるけど、逮捕されるのはきっと僕の方だろう。

 相手は上司で、しかも中学生なのだ。


 けれど、イカ臭いのは犯罪だろうか?


「スルメ臭いわ」


 有罪だった!


「私のハサミもちゃんと洗って干してから返してよね。イカ臭かったらやり直しなんだら!」


 昆布も切ったんですけど……


「り、莉子ちゃんはお手水したの?」

「私は女の子だからね。普段から清潔にしているし、別にいいのよ」

「ズルいぞ!」

「何よ! 私が汚いとでも言うの?」

「いいえ、綺麗です」

「えっ、もう一度、言いなさいよ」

「綺麗です」

「も、もう一度」

「莉子さんは綺麗ですぅ」

「そっ、そう、よね。赦してあげるわ」


 それからの莉子ちゃんは、何故か上機嫌だった。

 口うるさくはあったけど。


「先に左手を洗ってから、柄杓ひしゃくを持ち替えるのよ」

「柄杓に直接口はつけないの。みんなが使うのだから、柄杓から右手に注いで、それで口をゆすぐのよ」

「ハンカチぐらい持ってなさいよ。駄目男なんだから~」


 それで、都合3度目の参拝では、もう500円玉がなくて、千円札を泣く泣くお賽銭にした。


 御利益なかったら本気で泣くからね。


「さてと、次はおみくじとお守りだな」


 無人の神社でも、自販機がある。

 巫女さんがいてくれれば、そりゃ嬉しいけど、浪人生には贅沢である。


 おみくじの自販機は中央にデジタル画面があって、八角形の八卦のような模様の中央に『おみくじ』と表示されていた。

 800円である。


「おみくじはやめて、お守りだけにした方がいいわよ」

「まあ、願掛けみたいなものだから、悪くても気にしないから、心配しないでいいよ、莉子ちゃん」

「別に、心配して、言ってるんじゃ、ない、けどね」


 莉子ちゃんは歯切れの悪いツンデレみたいになっていたが、僕は気にせずに千円札を投入した。

 豆乳ではない。


 キュキューン。キューン。


 デジタル画面の八卦模様が光って回り出し、音楽的な音が流れ出した。


 キュキューン、キューン。


 知っている人にはわかるが、ピン○キャットという有名な曲の一部に似ている。


「これはピンク○ャット? 前と違うわ」


 莉子ちゃんは知っているようだった。

 直ぐに八卦の中央に『ろの3番』という表示が出た。

 そして、数小節だけMMD画像が曲と共に流れた。


「てぃ○式可変○クアペンド大人ヴァージョン!」

「詳しいね、浪人生?」

「一般教養の範囲です」

「いい訳っぽくて怪しいぃ」

「しかし、画面が小さい」

「液晶をケチったのよ」

「権利関係は大丈夫なのだろうか?」

「町会長の長男(49歳独身)がMMDに詳しいらしくて、あちこち駆け回って作ったものだから大丈夫よ」

「そうなの? 莉子ちゃんこそ詳しいね」

「この神社、相当前に破産して町会の管理下なの。戦争中は避難場所だったから、町会が残そうと努力してきたのだけど、債権者たちと協議した結果、これだけのビルやマンションが建ち並んだのよ」

「戦争中って、莉子ちゃん中学2年だよねえ」

曾祖母ひいおばあちゃんぐらいの話だって。もう誰もわからないみたい」


 ちなみに流れたMMDは『ピン○キャット』ではなく、『ぶれない○イで』だった。

 『ろの3番』以外なら別のが流れたのだろう。

 ちょっと見てみたい。


 コトン。


 画面下の取り出し口から、八角形のプラケースが出てきた。

 卒業証書とか各種賞状や免状、図面を入れるケースのおみくじサイズと言えばいいだろうか?

 早速、取り出して中身を出してみた。


 人生、努力するが吉


    ―― ○ク


 などと書いてあった。

 手書き風、デジタル丸文字印刷だった。


「おみくじというより、格言とか座右の銘みたいだね」

「だから、おみくじなのよ」

「……」


 はあ、『お○ク字』って洒落なのだった。


 ちなみに、他のものには、


『人生、諦めるが吉』

『人生、逃げるが勝ち』

『人生、逃げちゃ駄目だ』

『人生、孤独なヒューマン』


 などがあるそうだ。

 意味不明なほど人気があるらしい。


 AIが文章とか書いて諸作権を取得したら、すべての言葉を登録されて、最早何を書いても『著作権』に引っ掛かる時代になるだろう。

 数億の猿にタイプライターを打たせると、偶然にもシェイクスピアの作品が出来上がる確率があるという、確かアシモフの話と攻守が代わるだけで同じ話である。


 あれ、言語って国語として文部科学省(国)が無料で提供しているんだよな?

 流通している言語自体は、納税者(国民)は無料で使用できるはずである。

 造語や新語や外国語などを別にすれば、流通言語で書かれた詩や歌詞などは、著作物としては有料だが、中身の言語には本来、著作権などの権利は発生しないのである。


 そうでないと、新作を流通言語以外で書かなければ、どんな作品も著作権に引っ掛かる。


 けれど、流通言語を使わないと、


『カサステカラネ』

『まかっとり』

『ガルネタリスム』


 などと、誰にも理解できない話になってしまう。

 これでは著作権以前に、売れないだろう。


 以前、『○界の紋章』という有名な作品で、新言語を丸ごと作ってしまう試みをした凄い作家がいる。

 そう言えば、『○語元年』で『えいいつ』を再発見させてくれた大作家もいたなあ。

 尊敬する。


 しかし、ネットが普及し、誰もがブログとかツイッターを使う時代になると、そこで発表された『言葉』が、著作物ではないと誰が言い切れるのだろうか?

 無料のブログとかでも広告収入を得ているものは著作物になるかもしれない。


 仮に、何処かの誰かが『ネット著作権協会』なるものを作り、文部科学省の天下りを大量に採用すれば、ネット上で発表された言葉はすべて著作権を持つことになる。

 そこでAIにあらゆる文章を書かせてしまえば、作家・詩人・作詞家などは絶対に新作など書けなくなる。

 何を書いても、既にAIが発表している事態になるからだ。

 しかも、AIは死んだりしないから『没後50年』などという縛りも効かない。


 まさしく『言葉狩り』の時代になるだろう。


「ネットは文科省ではなく経産省(経済産業省)の管轄でしょう?」

「えっ、そうだっけ?」


 やぶれたりアシモフ~!


やぶれているのは、浪人生の頭の方よ」


 いや、そうかもしれない。


(本当は総務省の管轄である。念のため)




 つづく 


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