サイボーぐぇ 11
11 興奮しよう
一種の『覗き行為』をしてしまい、恥ずかしい思いをしていたが、被害者である美少女の方もやっぱり恥ずかしいようで、先生がいないこともあって、二人きりで沈黙したまま暫く居心地の悪い時間が過ぎていった。
僕の方は『やっちまった感』が半端ではないが、彼女ぐらい明るく気さくな美少女なら、もっと男慣れしていて気軽に流してくれるような気がしたのだが、意外とそうではなさそうだった。
まだ、赤い顔をしていらっしゃるのだった。
ご機嫌も良くないのかもしれない。
「ねぇ、先生にもいやらしい目を向けたの?」
「そ、そんな訳ないよ! 僕は『圏外』だと言われたし……」
「でも、先生のパンツを見ていたじゃない。それも先生に自分で、ま、捲らせたりして…… そう言うの『鬼畜』って言うんでしょう?」
美少女は色々と思い出したようで、冤罪を並べだした。
先生は僕の言うことを聞いてくれるような人物ではないと思うのだけれど、まるで僕が「スカートをめくれ」と命令したかのようになっている。
女性が自らめくって見せるなんてことは、美少女にはあり得ない現象なのかもしれなかった。
勿論、僕もこれまではお目にかかったことはない。
「ああ、あれはですね…… その、僕がちゃんと女性に興奮するか確認したかったみたいで、先生の方から、そのう……」
我ながら『酷い言い訳』してると思うのだけど、これが事実である。
先生には申し訳ないのだが、責任の一端は彼女にもあるだろう。
「えっ! こ、興奮しないの?」
「いや、だから、それを確かめようと、先生が勝手にめくり、いえ、しでかしたことでして…… 僕悪くないよね(小声)」
美少女はスツールから立ち上がるとベッドサイドに寄ってきた。
ちょっと、どぎまぎした。
先生がしでかしたのと同じ場所まで来たからだ。
「そ、それで、結果はどうだったの?」
「結果?」
「だから、先生に興奮したの?」
「いや、あの時は、君が突然入ってきて、それで……」
それで、どうだったんだっけ?
「君が現れて、挨拶して、目覚ましが飛んできて、色々と壊れて、叱られて…… あぁ、良くわからないよ」
「そうなの?」
「うん」
「それじゃあ、私が大事な実験の邪魔しちゃったのね」
「いや、違うよ。大事と言うほどでは……」
「なら、仕方ないよね」
ぴらっ。
いつまでも美少女じゃ、いい加減に表現が貧困で困るのだけれど、僕は彼女の名前を正式には聞いてはいなかった。
今は、聞いても頭に入ってこないかもしれない。
僕の脳細胞は、純白のパンツに占領されて陥落していたからだ。
捕虜になったと表現してもいいだろう。
「どっ、どうなの?」
美少女は顔を赤くして横を向いているが、それがより一層、凄い光景を演出していた。
僕は眼球が動かせなかったが、視神経に入ってきている映像情報を上下左右と確認しながらも、ほぼ中央部の映像の衝撃に意識も記憶も持って行かれていた。
右往左往かな?
「だっ、駄目なの?」
彼女は両手で持ったスカートの裾を、軽く持ち上げていたが、更に上まで持ち上げてブラウスの裾まで見える位置に持って行き、暫く静止した。
つまり、おへそまでは見えなかったが、白いブラウス、白いお腹、純白のパンツ、白い太股となだらかで真っ白な、爽やかで甘やかな平原と言うか高原と言うか、素晴らしい景色をすべて見渡せたのだった。
プリーツスカートの裏側なんて見たことがあっただろうか?
そうじゃないな!
僕は生まれて初めて見る構造物に(本当は2度目なのだが忘れている)、興奮どころか畏敬の念を抱いていた。
思うに、パンツに興奮するのではなくて、そのパンツをその形に仕上げている構造の中身に興奮するのだろう。
構造主義は正しかった。
レヴィ=ストロースの著作は『パンセソバージュ』だったが、これは『野性のパンツ』と言う意味なのかもしれない。
(違うよ)
多分、彼女のパンツだけを渡されても、いや、すげえ興奮するだろうが、これはそう言う次元の問題ではなかった。
今まで体験したパンチラが『天使の悪戯』だとするなら、これは『美の女神様の御降臨』である。
この世には、これ以上のものは存在しないのだ。
しかも、女神様は太股の良いところを普段はスカート丈でお隠しなのである。
そして、今は片足を少し引きつけて内股になり、ちょっとモジモジしていた。
「まだぁ?」
もう、死んでもいい!(死んでるけど)
生前の短い人生ながら、地表で蠢いて暮らしていた僕は、普通のパンチラでも飛び上がった。
しかし、例えば中3の時のクラスメートの女子の一人にこれをやられたら、一挙に地表3万メートルに飛び上がるくらいに興奮しただろう。
密かに憧れていた3Bの設楽奈央にしてもらったら、月軌道ぐらいまで飛んだかもしれない。
だが、女神様のこれは、一気に太陽系どころか、銀河系をも飛び出して、アンドロメダ星雲と大小のマゼラン雲と銀河系を同時に仰ぎ見るくらいに興奮する光景だった。
何を表現したいのかわからないだろうが、僕にもわからないので、安心して欲しい。
だけど、この奇跡は1秒でも長く味わっていたかった。
ガチャリ。
「今戻ったぞう~」
「きゃわー」
奇跡の瞬間は、残念な悪魔によって終わりを迎えた。
「あ、明日、また来るから、じゃあね、サイボーぐぇ!」
ガチャ、バタバタバタ……
「一体、何があったんだ?」
「……」
「おい、義体人A。大丈夫か? にやけたままポックリ逝くなよ! おい、何とか言え」
「ぐぇ!」
僕は呼吸も忘れていた。
死にそうだった。(死んでるけど)
つづく
すみません。
まだ、体調が治りません。