サイボーぐぇ 10
10 プリーツを語ろう
気がつくと再びベッドに寝かされていた。
片目は見えないから、まだ右目の眼球は完成していないのだろう。
しかし、左目の視界に美少女が見える。
先生はいないようだった。
留守番だろうか?
二人っきりみたいだ。
どうやら、美少女は眼球用のガラス玉にリキテックスのチタニウムホワイトを塗ってくれているみたいだった。
優しい女の子である。
しかも、美少女だし。
そればかり言ってる気がする。
この義体の目蓋は閉じないから、って言うか、能面は普通は瞬きなどしないから、僕が気付いたことに彼女は気付かないようだった。
暫く身動きしないで観察しよう。
実は視覚情報は固定焦点の広角レンズをCCDで撮影した映像なので、眼球も動かないのだった。
けれども、視神経に入ってくるその平面的な情報を、僕の意識は好きなところに振り向けて見ることができる。
本来なら人間の目は中央部しか詳細に見ることはできないのだが、周辺視野に注目することもできる。
眼球を動かしているかのように周辺視野を注視するだけで、CCD画像の端っこも見れるのだった。
例えば囲碁の碁石を盤面にバラバラに並べておいて、その数を数えるときに、一度に10個ずつとかは普通は認識できない。
普通は3個2個で5個、2個2個で4個とか見ながら数えている。
視力だか認識力が優れた人でも5個5個の10個とかで数えており、パッと見て20個19個の39個とかは数えられない。
だけど、視界には入っているのだ。
CCDによる撮像には全部がちゃんと写っているから、眼球を動かさずに視神経の集中するところを動かして周辺視野までを見ることができる。
正面を見ながら左端に注目できるのだ。
例えば本を読む時には、眼球を動かさずに20行ぐらいは読めてしまうと言うことである。
勿論、20行の情報があっても、僕の視神経は1行を上から下に追っていくのだけど、これは以前の目による癖であり、訓練して凝視しなくなれば全部が同時に見えるようになるかもしれない。
簡単ではないだろうが。
そう言うわけで、僕は眼球を動かさずに左目の端っこに映る美少女を凝視して観察できるのだった。
長い黒髪、明るい容貌、切れ長の印象的な瞳、長い睫毛、思ったよりも可愛らしい鼻、薄い赤い唇、白い肌、上着を脱いでブラウス姿だから胸のあたりの柔らかそうな隆起も見える。
DかEカップぐらいはあるかもしれない。
おっぱいは日本人ならCカップまでに80%が入ってしまう。
だから、『ある』と感じるのはDカップからである。
極論を言ってしまえば、Dカップより下は小さいと分類してもいいだろう。
(個人の感想です)
当然のことながら、好き嫌いは別である。
彼女なら、小さくたって好きだ。
大きければ、もっと大好きだ。
問題なのは、彼女が上着を脱いで予備のスツールに浅く腰掛けているので、高めのウエストから長い脚の膝上10センチまでのプリーツスカートが全部見えるところである。
ミニ丈だけど過激ではなく、今では大人しい方の部類に入るだろう。
そして、本来、プリーツスカートと言うのはカッチリとしているが優雅で真面目な格好である。
僕たちの年代では、おしゃれ着よりも訪問着とかフォーマルに近いだろう。
ドレスよりもスーツに近いのである。
そして、その格好良さというのはウエストから裾までの総合的なラインと言っていい。
締まったウエストから女らしいヒップラインを包み、その下の太股部分はプリーツに隠されて、歩く度にプリーツが緩んだり閉じたりして。スカートの裾が女性らしく揺れて動くのを演出する。
この時、ウエストから裾までに「ある程度」の長さがあると、プリーツが格好良い女性のボディラインを維持しながら、美しい揺れを見せてくれるのだ。
プリーツが広がるのは女性の動きを表現しているのであり、すぐに戻って女性の持つ本来の魅力的なラインを維持するところがいいのだ。
女性らしく清楚であり、カッチリとしていて高級感がありながら、女らしい色気や若い躍動感が隠しきれないのがプリーツスカートの特徴なのである。
最近のなんちゃって制服調の短く。上着によっては裾の部分しか見えないプリーツなど、本来のプリーツの良さが活かせていないと思う。
(太股が見えるのはいいのだけど)
びらびらとだらしなく広がっているのであれば、サークルやフレアスカートでもいいのではないだろうか。
(屈むとパンチラしそうなのはいいのだけど)
ミニ丈なら、ふんわりと柔らかいギャザースカートの方が女の子らしくて可愛さが表現できるが、プリーツの真面目な色気は表現できない。
(でも、パンチラはいいものだ)
つまり、プリーツが美しく揺れ、それでいて女性らしい美しいラインをキープするところが、プリーツの本領であり、清楚な女らしさを強調するのだ。
これほど、媚びずに女らしい美しさを強調できるスカートは他にはないのである。
(だから、パンチラは別だよ)
実は、コートにも女物にはプリーツが入っているものがあり、男にはできないお洒落が、女にはできるのだと言う証拠でもある。
僕はプリーツが好きだし、それが似合う女の子が大好きだ。
太股を見せる『なんちゃって制服』や『なんちゃってアイドル』的なものではなく、彼女のように上品に女らしいプリーツが大好きだ。
プリーツの彼女が大好きだ。
つまり、彼女の下半身が大好きだ。
「気付いたの? サイボーぐぇ?」
「あ、ええと、夢を見ていたような……」
「エッチね」
「決めつけないでよ!」
「でも、私の下半身ばかり見ていたでしょ! 首が少しづつ左向きに傾いていたわ」
「ぐえっ?」
間違いではないけど、どうしてわかったんだろう?
「実はここに、サイボーぐぇの視覚画像がモニターされているのでした!」
彼女は先生のデスクにある、小さめのモニターをこっちに向けてくれた。
左右に分割された画像は、両目がどう見えているかの調整用画像だろう。
その左目の画像は、今は彼女の顔とデスクを映していた。
目の修理をしているのだから、当然そう言うことも起こるのだった。
「本当は、ずっと気付いてたの。とても、恥ずかしかったんだからね!」
いや、僕の方が恥ずかしいって!
早く教えてよね!
義体人Aには、プライバシーはないのだろうか?
嫌われたらどうしよう。
つづく