サイボーぐぇ 05
05 相手を知ろう
「あのう、下着類が見当たりませんが?」
「ああ、すまん。今日は起動実験だけで外には出ない予定だったから、用意するのを忘れていた。次までに用意しておこう」
「今日はないのですか?」
「仕方がないだろう。男物の下着など買ったことがないのだから」
「病人用のパジャマとかは?」
「ここは病院ではないんだ」
確かに、死んでから入院というのもおかしいかな。
「部下とかアシスタントはいないのですか?」
「難しいところだな。ここは深溜院財閥の経営する義体研究所内のラボだが、私は義体研究所の人間ではないのだ。金属を受け付けない君のために急遽雇われたフリーの研究者みたいなものでなあ。研究所の人たちは敬意を払って接してくれるし、頼めば手伝ってもくれるが、私はお客さんみたいなものだし、彼等も部下ではないのだよ」
僕は話を聞きながらベッドに腰掛けて、毛布で局部を隠すことにした。
全身が『木造』なのに局部だけ人間の(男の)ままと言うのは、何だか恥ずかしいより滑稽だった。
人形に取り付けただけの代物みたいだから、エッチな人形みたいである。
ピンク色をして、そこだけ周囲の木目と異なるから、余計に生々しくいやらしい感じだった。
特に目が覚めたばかりだからか、恥ずかしいことに、大きくなると言う現象に見舞われている。
先生に反応してるのかもしれないが、どちらにせよ恥ずかしい。
恥ずかしいからなくても良かったかと言う訳ではないが、そこが残っているだけ幸せなことだろうか。
いや、不幸かも?
こんな身体になって、今後(排泄以外に)使う機会などあるのだろうか?
もっとも、生きている時も同じ不安を抱えていたから、心理的にはそれほど違和感はなかった。
むしろ、これが無くて『穴だけ』とかだと、男としての存在価値が相当割引になるような気がする。
女子トイレを使えとか言われたら、死ぬるかもしれない。(死んでるけど)
「それで、先生は、いや、あなたは何者なんですか?」
「先生がいいな。先生と呼べ、義体人A」
「では、先生?」
「ああ、いいな、凄くいい響きだ」
「それで、先生?」
「ふむ、私は某工科大学の講師をしていたり、していなかったりする研究者だ」
「何です、それ?」
非常勤とか言う職業のことだろうか?
「上司である教授は、殆どをアメリカの研究所で過ごしているのだが、日本に戻ってくる度にアメリカに来て『現地妻になれ』と煩いから、教授が日本にいる間は大学には顔を出さないようにしてるんだ。それに嫌な助教授がいてなあ。独身なのを良いことに講師でも学生でも片っ端から飲みに誘って、お触りしたりする。どうやら、キャバ嬢のかわりらしい」
「良くわかりませんが」
「まあ、大人の社会には汚い部分が沢山あると言うことだ。沢山どころか全部かもしれん。とは言え、そうした教授たちほど優秀な研究者だから無碍にもできない。私も自分の研究を進めて、実績を残したいからな。今回のことはチャンスでもある」
先生は先生で、色々と複雑な事情を抱えているようだった。
その殆どは、大きなおっぱいに起因するのではないかと思ったが、口にはしないことにした。
どうせ、圏外ですよ~!
つづく