サイボーぐぇ 04
04 体質に合わせよう
「さて、名前も決まったことだし、早速第2次起動実験をしよう。なあに、第1次起動実験は君の意識がない時にだが、やって置いたから問題はないと思うよ」
先生は僕の寝ているベッドの脇のコンソールに向かい、何かを操作し始めた。
「さあ、これでいいぞ。ゆっくりと立ち上がってみたまえ。慌てるんじゃないぞ」
僕はゆっくりと起き上がり、毛布をめくりながらベッド脇に立ち上がった。
ぺきぺきぺき。
首回りに差し込まれていたケーブル類が勝手に外れていく。
蒸気とかドライアイス的なものは、何も漂わなかった。
それでも、サイボーグらしく、ピカピカの金属で覆われているかと思ったら、大分、印象が異なっていた。
「木造ですか?」
体表面はベニヤ板みたいで、手脚の関節には間接球がはめ込まれていて、サイボーグと言うよりは、できの悪い木彫りの人形みたいだった。
軽くて良いかもしれないが、強度には不安がありそうだし、パワーも感じられなかった。
起き上がるだけで、パキパキ、ギシギシいってるし……
「骨格ぐらいは鋼鉄製にしたかったのだが、君には重度の金属アレルギーがあってな。間に合わせだし、竹とベニヤを加工して作ったんだ」
「間に合わせなんですね……」
つまり『やっつけ仕事』と言う意味だ。
別の意味でも軽かった。
確かに、生前の僕は金属アレルギーだった。
腕時計など、革ベルトや合成ゴムベルトでも、ケース部分が金属なので駄目だから、専ら懐中時計を使っていたが、それでも薄いポケットの布越しで懐中時計を感じると痒くなった。
勿論、興味はなかったが、ピアスやネックレスなども不可である。
虫歯の治療も、クラウンとか金属類は使えない。
携帯端末は、プラスチックケースだから大丈夫だけど、まだ買ってもらっていなかった。
高校に入学したら、と言う約束だったのだが、生きているうちには手に入れられなかったな。
「人工心肺装置も無理なので、心臓はビニールの蛇腹式にして駆動部分とバッテリーは木箱で覆ってある。脳の活動量に応じて血流も自動調整されるんだぞ」
あの、フイゴだかアコーディオンみたいな奴だろうか?
確かにドクンドクンしていない。
ギーコギーコしている気がするのは、妄想だろう。
それは良いのだけど、僕のあそこが屹立していた。
「どうして?」
「その、 ……ちんぴん(小声)は、脳の血流の増加と同期してしまうのだ。脳が興奮すれば血流が増加するから、どうしてもそうなる。だが、元々、脳が興奮するとそうなる仕組みなのだろう?」
何か間違っている気がしたが、上手く説明ができなかった。
この先生、ひょっとしたら男のことは何も……
先生は、横を向いて話を続けた。
「おほん、肺は残った部分を浸透膜で補強したよ。まあ、金属を使用すると自重が大きくなって、その分負担も大きくなるからな。木造も悪くはなかったよ。お陰で身長149センチメートルに体重は29キログラムに抑えられた」
「強そうじゃ、ありませんね」
僕は少しばかり残念だった。
どうせ、死んでサイボーグにされるのなら、強い正義の超人みたいなのが良かった。
ピノキオではなくて。
「勘違いするなよ、義体人A。君はケガ人以下の死人だったのだ。身体を重傷者以上に労るのは当然だろう。歩くのも最初のうちは一日30分程度にしておきたまえよ。簡単な蘇生措置なのだから、いつポックリと死ぬかわからないぞ」
「死んでるって言ったくせに……」
「何か言ったか?」
「いいえ」
確かに『生きていたら』、良くても全身包帯のグルグル巻きのミイラみたいになっているだろう。
この身体に慣れるまでは、重症のケガ人と同じである。
慣れても、死人なんだけどね。
「それから…… その、ちんぴん(小声)は隠したまえ」
先生?は赤くなって俯いた。
僕は全裸で立ち上がっていたのだった。
例えピノキオみたいな外見だったとしても、衣服は必要だろう。
芸術のブロンズ像にだってパンツを穿かせる人はいるのだ。
ましてや、本物の男性器を剥き出しと言う訳にはいかないと思う。
法律上は死人でも、法律上拙いだろう。
つづく