サイボーぐぇ 03
03 名前を受け入れよう
「まあ、悪いことばかりではないぞ。君の、その、あの、あれはだなあ、奇跡的に大丈夫だった」
この微妙な年頃の女性は、医者か、何か専門の学者みたいだ。
僕が生きているのなら『命の恩人』になるのだろうが、死んでるのなら『命の恩人でも何でもない』と言うことになるだろう。
一体、何になるのだろうか?
巨乳かな?
「何が大丈夫なのですか?」
「だから、そのだな、男性の器官のひとつで、……特徴的なものだな」
「何でしょう?」
「だから、だな…… その、ち」
「ち?」
「その…… ちんぴん(小声)かな?」
「ああ、男性器ですね」
「あっ! その、ゴホン、そうとも言うな。世間では特に、時々な。女の私が口にできる言い方ではないがな」
どうやら特殊な言い方だが、態々恥ずかしい思いをしてしまったようである。
どんな呼び方をしても同じものだと思うけどね。
しかし、この人、医者ではないな。
しかし、何かしらの学者だろうから先生でいいだろう。
「だから、性欲もあるし…… 一応は食欲もあるし、ついでに睡眠欲も排泄要求もあるから、元人間として生きる分にはそれほど違和感はないと思うぞ」
先生は急に早口になった。
恥ずかしいのか、それとも誤魔化そうとしているのだろうか?
「その、先生が確認したんですか?」
「なっ、私がか? いや、お前など圏外だ!」
「ひどぉ! 僕は携帯じゃないんですよ?」
「大気圏外だ!」
更に酷くなったよ!
でも、顔が赤いから意地っ張りなだけだろう。
「アンテナひとつぐらいは立つんじゃ?」
「しつこいぞ。圏外!」
確かに死人だから、好感度など期待できないかな。
生前なら、話もしてもらえなかったかもしれない。
「……それで、その、元人間って言い方はなんとかなりませんか?」
「そうだな、では義体人と書いてサイボーグとでも呼ぼうか。そうだ、君は私の初めての実験体だから『義体人A』と言う名前にしよう。うん、なかなか格好いいではないか、義体人A!」
「坂下当と言う、今まで使っていた名前じゃ駄目なのですか?」
「格好悪いな!」
「ほっといてよ!」
「義体人Aの方がずっと格好いいだろう?」
「でも、今までずっと坂下当だったし……」
「だが、坂下何某は法的に既に死亡しているから拙いだろうな。葬式も終えたし、お墓も作っていると思うよ。住民票にも死亡と書かれているだろうし、それに死者の名前は縁起が悪いだろう?」
死んでるのに、縁起が良いも悪いもないよね。
待てよ、死んで人間でなくなったのなら、人間だった時以上に幸運が必要かもしれないな。
でも、死んでから幸運とか、あまり意味がないような気がする。
しかし、坂下当は既に死んだのだ。
潔くそれを受け入れて、これからは、義体人Aとして新たな人生を歩むべきだろうか?
つづく