サイボーぐぇ 02
02 法的に考えよう
「気がついたようだな」
声がする方を見ると、縁なしの眼鏡をかけ白衣を着た、若いのかは微妙な女性が立っていた。
美女ではあるだろうが、僕にはお姉さん過ぎて判断できなかった。
「僕は助かったのでしょうか?」
「そうとも言えるな」
「何です、その思わせぶりな言い方?」
「ふむ。法律上では君は死人に過ぎない。つまり既に死んでいるってことだな」
死人? 何の冗談だろう?
こうして意識もあるし、身体だってちゃんと動かせ……ない!
「何故、どうして?」
「君は大型トラックに跳ねられ、あちこちがグチャグチャになって死亡した。先週の葬儀には私も出席し、焼香してきたから間違いない」
「でも、こうして意識があるじゃないですか! まだ、生きてますよ! きっと」
少しだけ自信がなくなってきた。
声も自分のものとは少し違う気がする。
ちょっと高くて、声変わりする前の子供の頃にはこんな感じだった。
とは言え、意識はあるし、身体は動かないが、ちゃんと存在している気がする。
「だから、法律上はと言っただろう? 君は法的には死者ではあるが、生物学上は、その……」
「生物学上は生きているんですね」
「いや、それも難しいかな?」
「何で? そこは肯定しましょうよ!」
「ふむ。君の身体は今、比較的無事だった脳神経を含めても70%以上が機械なのだ。遺体を検死して、死亡確認した監察医から、多少強引にだが奪い取ってきたのだ。幸い、外側と駄目な部分を遺族に引き渡しただけで、文句は出なかったよ」
何となく得意そうに言っているが、僕には不満だった。
外側とかは重要だよね?
それに、駄目な部分って何だろう。
ちょっと、聞きたくないかも?
70%以上が駄目人間とかじゃないよね。
駄目じゃないのに『駄目な部分』とかにされてないよね?
顔とかは…… 自分補正を入れても微妙かな。
いいや、せめて、50%ぐらいは駄目人間じゃないと信じたかった。
実際は駄目だろうけど、駄目じゃない部分もあったと思いたい。
「生物というのが生まれ持った自らの身体のみで生きる能力を有する者と定義するなら、君は生きているのではなく生かされているに過ぎないから、生物と定義するのは難しいだろう。さりとて無生物と言うのも、私の立場としては何となく面白くない。まあ、半人間と呼ぶより、元人間とでも呼ぶべきだろう」
無生物? 元人間?
法的にも死んでいるって?
何となく、駄目そうな気がしたが、現実は更に厳しく、駄目そうだった。
元人間と駄目人間と、どちらが上なのだろう?
それよりも、法的に死人ってどう言う立場になるのだろうか?
つづく