賢者の選択
賢者の選択
ある街に、貧しいけどお互いを慈しみ合う仲の良い夫婦がいた。
妻は美しく貞淑であり、経験が少なく下手だった。
夫は真面目な働き者だったが、稼ぎは少なく下手だった。
二人とも子供が欲しかったが、今のところその兆しはなかった。
聖夜が近づく寒い冬の日に、妻は最近元気がない夫に何か良いプレゼントはないかと考え、街一番の娼館を尋ねた。
「ここは奥さんが働いて良いところではありませんよ。借金で首が回らないとか、債権者に犯されるようになってから来てください」
娼館の経営者は、そう言って奥さんを帰そうとしたが、妻は頑固だった。
「いえ、ここで働きたいわけではありません。ただ、最近夫が元気ないのです。きっと、私が下手だからなのです。ここで一番の娼婦にお相手していただければ、夫も昔のように元気になるのではないかと思いまして、ご相談に伺いました」
妻は、とても良い思いつきだと思っていた。
「しかし、一番の娼婦はとても高いですよ。ご主人の小遣いで払えるのですか?」
「私が頑張って貯めた銀貨が3枚あります」
「銀貨3枚? それではねえ」
「どれくらいかかるんですか?」
「おまけしても銀貨5枚ですね」
「そうですか、とても足りませんね」
妻は、それでも諦めきれない。
夫のためだからだ。
「こうしたらどうでしょう? 奥さんがここで働いて上手になってご主人を直接喜ばすんですよ。お金も入ってくるから、聖夜までに銀貨の5枚や10枚は稼げるでしょう。下手でも愛想良くすれば失敗しても、ご主人に一番の娼婦をプレゼントするぐらいは稼げますよ」
「ああ、神様。なんていい話なのでしょう? それで、よろしくお願いします」
「では、今から接客の基本を教えますから、隣の部屋のベッドで裸になって待っていてください」
「わ、わかりました。頑張ります!」
「はい、よろしく」
妻は隣の部屋で見事な裸体を晒していた。
子供ができないことが悩みのひとつだったが、そのせいで身体の線は維持し続けていたのだった。
「あぁ、先生、とっても良いです。うぁぁん」
「奥さん、そこでもう少し大胆にお尻を振ってください。ご主人も喜びますよ」
「あぁぁ、で、でもぅ、こんな格好でしたこと、あぁ、今までありま、あっ、あっ、あぁ、いい、いい」
勿論、夫の方も愛する妻がどうすれば喜んでくれるか、悩んでいた。
悩んで悩んで悩み抜いた末、妻が妊娠した時のためと思って貯めていた銀貨3枚と、経理に行って前借りしたボーナスの銀貨1枚を合わせて、都合、銀貨4枚を持って、街一番の娼館に向かった。
「……そういうわけなんで、どうかこの銀貨4枚で一番の娼婦とさせてくれないでしょうか。妻の喜ぶ顔が見たいんです」
夫は土下座までして経営者に頼み込んだ。
「そう言われましても、有望な新人を獲得しましてね。上手いというかとても家庭的でしてね。それが評判になり、凄い人気でして、値段はまだわからないんですが、どうも銀貨6枚から8枚ぐらいになりそうなんですよ」
経営者は、かなり疲れたげっそりした顔で、心ここにあらずの感じだった。
「で、では、元一番で結構です。どうか、どうかお願いします」
「ふああー、失礼。しかし、元一番でも銀貨5枚なんですけどねえ。まあ、何処かで聞いたことある事情に似ているので、今回だけは聖夜と奥様のために、特別に話をつけときましょう。隣の部屋に行って裸になって待っててください」
「隣? 最初から裸で待つんですか?」
「ああ、つい癖で。えー、303号室に行って待っててください」
夫は喜び勇んで、廊下で服を脱いでから303号室に入っていった。
「ちょっと、あんた。いつも正常位じゃないでしょうね?」
「えええっ、他のやり方があるんですか?」
「あきれた、当たり前じゃないの」
「例えば、どんなのがあるのでしょうか」
「銀貨4枚のしけた客には勿体ないけど、特別に教えたげるよ」
「はい、お願いします!」
「そう、後ろから女を支配するように、そう、もっと突き上げてね。うん、上手よ」
「はいー、頑張りますぅー」
などがあって、夫婦は無事に? 聖夜を迎えた。
「ああっ、あなた、せ、聖夜なのに、こ、こんな格好をさせるなんて、あぁ、あぁ、いい、いいのぉ」
「い、いつもより、いいかい?」
「ああ、いいわ、凄いわ、うぁぁ」
「はあはあ、お前も凄いよ、お尻がこんなに、こんなにぃ、こんなにぃー」
「あぁ、あぁ、あっ、あっ、あっ、あん、あんあん」
二人はその後も娼館通いを続けた。
「あなた、私、赤ちゃんができそうな気がしてきたわ」
「僕もだよ」
妻は1回に銀貨6枚を稼ぎ、夫はせいぜい月に一度、元一番のところで銀貨5枚を使うぐらいだった。
必然的に、夫婦はお金持ちになって、その後も幸せに励んだ。
これぞ、賢者の選択と言えよう。
それとも、命の洗濯か?
菊茶ケツ作短編集より(抜粋)