ハイエナライオン4
ハイエナライオンの物語は校内に出回る同人誌『月磨き』に掲載された。一年生にしてはなかなか構成のしっかりした粗筋だった。
三年で部長の北上美空は望を褒めた。
「君、なかなかやるじゃない」
望は顔を赤らめて、軽い会釈で返した。
「どこからこの話を発案したの?」
望は肩から下げていたかばんを長机の上に置き、ジッパーを開けると、そこからいそいそと何かを探し始めた。
その時間帯、部室には北上と、望と、二年の奥村裕紀の三人だけがいた。奥村も読んでいた小説から顔を上げると、興味深そうに望の行動を追った。
望はかばんの中から一冊の本を取り出した。北上は前かがみになってその本を凝視する。彼女のボブカットが本の上に薄い影を作った。
「イサム・ノグチ? 準備いいね」
北上の言葉に望はうなづいた。表紙には一人の男の白黒写真が中心に添えられている。
「もしかして伝記なのかな?」
望は頷く。
「何をする人?」
望は言いよどんだ。半開きの口から沈黙が発露されていく。
「ねえ、この子話せないの?」
北上が奥村に声をかける。奥村はさあ、とのんきに返事をするだけだった。
パラパラパラと本の頁がめくられる。望はその一箇所を指し示してみせた。
「建築家・インテリアデザイナー。つまり、この職業ってわけね。ねえ、君話せないわけじゃないんでしょ?」
望は再び顔を赤くして、こくりとうなづいた。
「ちょっと、裕紀、この子かわいい」
「北上先輩、とって食っちゃだめですよ」
「なにそれ、まるで私が毎度の如く何かを口にしている言い草じゃない」
「実際その通りじゃないですか」
「そうなのよって、下手なノリつっこみさせないでね、そこ」
北上は奥村を指さした。
「笑ってますよ」
奥村が言った。望はしどろもどろにはにかんでいた。
「ねえ、声出して笑ってもいいのよ?」
北上は満面の笑みでやさしい声を出す。