ハイエナライオン2
時は経ち、望は中学校に入学した。
望はそこで文芸部に所属した。
望の入学した福平私立中学校は地区で唯一文芸を推奨し、国語教科への取り組みも他校の先生が見学に来るほど盛んだった。
あるときこの学校の校長がとある生徒の父母から、
「どうして国語教育にばかり力を入れるのですか」
と質問されたことがあった。
「映像分野の発達、普及した今日において、あるいはグローバリズムの広まる世界情勢から言っても、小説ばかり読んだり、日本語教育に力を注ぐことは至極時代遅れではありませんか。
そんなことよりは、英語教育に重きをおくなど、レベルが極まる高校の進学に向けた授業内容に変えることのほうが全うだと思いますが」
校長は闊達に答えた。
「国語というものはどの分野の学問においても基礎となるべきものです。基礎をおろそかとするところに発達も応用もありません。
始めにみっちり基礎を固めることのほうが、長い目で見ると効率のいいものになってきます。
小説にいたっても同じことが言えます。たしかに小説は昔ほど読まれなくなりましたが、それはツールの問題であり、使用用途の違いによるものです。何事によらず、若い年齢の時分におきましては、自分の頭でものを考えることの方が優先されうるべき事項なのであります。
小説のように時間を酷使する表現媒体は、今申し上げた目的に合致するものだと、断言しなければいけないでしょう」
校長の方針がぶれないためか、それともそんなことはまったく関係ないことなのか、とにかくこの学校の文芸部の活動は活発だった。
望も先輩たちに文章の伊呂波を鍛え上げられた。
やがて望は初めての小説、『ハイエナライオン』を創作した。