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ハイエナライオン1

前に書いたものを手直ししたものです。

劇中劇の構造を使うのがとても好きです。

   ハイエナライオン

               青人




 望の父親と母親は地下室に入ってしまった。

「もう限界」

 だから、と。


 望は『こすずめのぼうけん』という絵本を手に、二人がリビングから離れるのを見送った。

 それから一人で絵本を読み返すのだった。

 望の両親は仲のいい夫婦だった。互いに互いを尊重し合い、深く愛し合っていた。

 共働きをし、家事も役割を分担した。父がキッチンに立つ日があれば、母が立つ日もあった。日ごとに二人はその家事を交代した。生活はバランスが取れていて、非常に行き届いていた。

 それまで望の両親は一か月の内一日だけを特別な記念日として迎えていた。

猛獣のように襲い掛かる生活の中で時間を見繕った。出来合いで設けられた記念日ではあるけれど、時間を重ねることのできた純粋な喜びを二人は祝い合った。

 その日一切の家事や雑務を忘れ、二人だけの外食に出かけた。おいしいものを食べて、夜景に感動した。若いころの淡い思い出にならいつでも帰っていくことができた。

 望が生まれてからというもの、二人だけで外食に行くことはできなくなってしまった。

 もちろん望がかわいくないことはないのだが、もう少し自分たちの時間を大切にしたい、という素直な欲求を隠すことができなかった。

 その点、二人は若い考え方を持っていた。


 望が三歳を向かえ、望に対しての余裕が生まれた頃合だった。一階にあるリビングに、地下室をつくるというリフォームを行った。ボタン一つで床が開き、地下へとのびる階段が現れる。普段は空気清浄器の下になっている。


 望の両親は互いに二人きりになりたいと思ったとき、地下室に入ることを求めた。地下室はまるで駆け込み寺のように、二人のもつれた感情をそのまま受け入れた。

 二人が地下室の中に入る姿を望はソファの上から見ていた。望は一度たりとも地下室に入りたいとは思わなかった。地下室の中でうごめいているように見える、有無を言わせない胡乱な闇が恐ろしかった。


 望は絵本を手に、この家にはいない本当の両親のことを空想した。望の想像する本当の両親は、地下室の中になんて入っていかない。


16:57 2015/01/08

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