プロローグ
扉が開き、光が差し込む。
私の一日は、いつもそうして始まった。
以前の私が一体どこにいたのか、実はよく覚えてない。
ただそれを思い出そうとする時、漠然とした恐怖と、そしてわずかな怒りが私の中に生まれる。
なんにせよ、覚えていないものはしょうがない。
思い出したとして、それが良いものでないのなら、思い出せない方がずっといい。
私は、現状にとても満足しているのだから。
私は今、とある道具屋にいる。
正確には『骨董店』と言うらしい。
そしてここの店主であり、私の敬愛する『彼』は今日もカウンターに立っている。
彼と出会ってから、さほど時間は流れていない気がする。
しかし、確実に流れているのだろう。
出会った頃に比べ、彼の身長は伸び、顔にはシワが刻まれている。
私は彼を見てきた。
ここで働く彼をずっと。
彼は時々、仕事中こちらを見、そして身嗜みを直すことがあった。
私はその瞬間かとても好きだった。
その日もまた、いつもと変わらぬ日が過ぎる筈だった。
しかし、そうはならなかった。
彼が倒れたのだ。
少し前まで何事もなくカウンターに立っていた彼は、突然胸を押さえたかと思うと、その場に倒れて動かなくなった。
それからどれほどの時間が経ったのか、訪れた馴染みの客が彼を見つけ、助けを呼んだ。
程なくして大勢の人が店に踏み入り、そして彼を連れて行った。
私はそれをただ見ていた。
ただ見ていることしかできなかった。
それからどれくらいの時間が経ったのか、私にはわからない。
扉を閉めてくれる人はいない。
私の一日は終わらず、そして始まらない。
ふとその時、店が揺れた。
知っている。
地震と言うものだ。
ただ、以前感じたものよりも揺れが大きい。
揺れの大きさに耐えかねたのか、私の体が軋みをあげ、どこかが壊れた。
その場に立ち尽くす私と、床に散らばった私。
その時初めて、私は私を映した。
少し古びた木枠に収まり、両開きの扉を備えた大きな鏡。
それが私だった。
そしてそれを最後に、私は途切れた。
私がどうなるのか、どこへ行くのか。
それは気にならなかった。
ただ一つ、『彼』の帰りを待てないことだけが心残りだった。
初めまして、『小説家になろう!』に投稿している様々な方に刺激を受けまして、調子にのっての初投稿になります。
遅筆になってしまうかとは思いますが、どうぞ気が向いたときにでもご覧下さい。