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運命の悪戯  作者: リル
一章 少女の重い枷
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 カルレーテは彼女に見えないように苦笑し、カーテンを下ろす。わずかに気まずい沈黙は、しかしリーフェルに破られた。

 「あっ!」

 がばりと効果音付きで体を起こし、驚き振り返ったカルレーテを見て安堵する。

 「良かった、まだいてくれて。あのね、何個か頼みたいことがあるの。いい?」

 「はい?」

 「あのね、明日あなたの都合がいいときで構わないから、書庫に案内をしてもらいたいの。だめかな?」

 まるで頼み事をすると叱られるかのように、リーフェルは身を縮ませて、唇をかんでいた。頼みたいことと言いながら、それはとても簡単なことで、カルレーテは拍子抜けした。

 「それは、お安いご用ですが…何をお求めですか?」

  「政治についての本を探そうと思ってるの。あ、探すのは自分でするから、あなたは仕事に戻っていいから」

 早口に付け加えられた言葉に、カルレーテは思案顔をする。

 「すみません。私も副医院長の仕事がありますので…。本の所在は司書さんにお聞きになったら分かると思います。でも…いっそティオロさんにもついていただきましょうか?」

 「いっいいえ!私事に付き合わす訳にはいきませんっ本を探すぐらい、一人で大丈夫ですわ」

  あくまで強情を張る主に、困ったものだと内心でため息をつく。自分よりも幼いはずなのに、頼ってくれないことがどうしても寂しい。

 カルレーテが二度目のため息を心中で漏らしかけたとき、名前を呼ばれ、いつの間にか俯いていた顔を上げる。

 「それから、女官の官服って用意できますか?さすがに、官服を着てない女がうろうろしたら不審がられてしまうわ」

 「はい、では陛下に奏上しておきますね」

  そのとき、小さく、本当に小さくだが、リーフェルの口元に笑みが宿った。

  「ありがとう、よろしく頼むわね」

 他の人と変わらないはずの礼の言葉が、しかし、妙に深く響いた。

 彼女の主は明らかに心に傷を負っている。それは、既に時間が経ちすぎていて、そう簡単には消えることはないように思えた。

 それでも、少しずつ互いの心の距離を縮めていけば、やがては消えるのではないかとカルレーテは思う。

 どれくらい時が必要かは分からないが、あらかじめ用意されているタイムリミットまでもまだ二年以上あるし、どのみち彼女は残りの一生をここで過ごすのだ。焦らなくていい。

 そう結論を出して、カルレーテはそのまま部屋を後にした。

 彼女の足音が聞こえなくなると、リーフェルは今まで詰めていた息を吐き出した。無意識のうちに左手首の傷に右手を当て、目を閉じる。その(まなじり)から、涙が滑り落ちた。

 頭の中で響く曲がある。

 それは幼なじみが得意な歌で、挫けそうなときはいつもぎりぎりのところですくい上げてくれたものだ。何度も聴いていた歌で、すぐに思い出せるような、彼女自身も大好きな歌だった。

  しかし。

 その歌が彼女を追い詰めていると、果たして幼なじみの彼は知ってるだろうか。

 いつもならその歌は、彼女の心が諦めそうになるとき、軋んでそのまま砕けそうになるとき、意識せずとも大好きな人たちの声とともに励ましてくれるのだが、しかし今はその期待が、余計に彼女を追い詰めるのだ。

 つらくて、それはもう息が詰まるほど胸が苦しいから、呼吸が出来なくなるくらい泣くのだ。胸のあまりの苦しさに自分の嗚咽さえ聞こえず、謝罪の言葉だけが頭に浮び、やがて、気絶するように眠りについている。

 それが、ここ最近のリーフェルの夜だった。

 カルレーテと友になった今日も例に漏れず、毛布を頭までかぶり身を縮める。

 胸の痛みに堪えきれないうめきは、その天井裏にいるユシャセだけが聞いていた。

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