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運命の悪戯  作者: リル
一章 少女の重い枷
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正面に王と思われる男が一人、豪華な椅子に腰を掛けていた。寝間着のようなゆったりとした服を身に纏っていた。きんきらに輝く衣装を着ているものだと思っていたリーフェルは拍子抜けした。しかし表情には出さずに、数歩前に進み出て、カルレーテを思い出しながら同じように礼をとった。

 「お初にお目にかかります、陛下。わたくしはリーフェルと申します。本日は陛下にお聞きしたいことがあったため、お目通りを願いました。わがままをお許しください」

 「申してみよ」

 その声には凄みがあり、威圧感を感じられずにはいられなかった。リーフェルは再び緊張し、同時に王の声に応えるべく立ち上がる。

 「はい。実はわたくしの生い立ちについてなのですが、わたくしは現界での生活しか記憶にありません。本当にわたくしは天界(ここ)の住人で、陛下のお求めになった者なのですか?」

 リーフェルは現界でも高貴な出ではなかった。そんな自分が姫なのか、いくら考えても想像がつかないのだ。

証拠を持っていない他人では本心から認めることは出来ないことを知っていたリーフェルは、喚んだという本人に確かめたかった。これからの不安はさておき、これからの生活にこの不安を引きずるのは嫌だと思った。

 だから、次の言葉への恐怖を追い払いながら訊く。

 「そうじゃ、そなただ。そなたは、わしの子じゃ」

 リーフェルは心の奥底で安堵した。

 「しかしっ」

 それでも、リーフェルは言葉を続ける。まだ理由を聞いていない。まだ納得する証拠をもらっていない。

(なのに、何故安堵するの……)

 安心した自分が許せず、又泣きたくなった。それを隠すためについ声に力がこもる。八つ当たりだった。

 しかし、王はそんなこと気にした風もなく、答える。

 「記憶のことか?それは仕方ないぞい。『ちから』と共にわしが封印したのだから、無いのは当然じゃ。…不安か?」

 王の温かな質問にリーフェルは甘えて頷く。

 「わしがそなたを我が子と判断したのは潜在能力ではない。存在していた『ちから』の名残り、ところどころに見える残りの『ちから』の波動じゃ」

王は(すべ)ての『ちから』を封印したのではなかった。いや。そんなことは不可能だ。『ちから』は生まれたときから、すでに血液に多少混じっている。それは死ぬまでなくならない。そういうものなのだ。

「波動は家族…親族は似る。それを判別したのだ」

 どうだ、分かってもらえたか?と訊く王に、リーフェルは再び頷く。

 「…でも、何故私をお喚びになったのですか?」

その質問に王は一瞬視線を下げたが、それでも言いにくそうに口火を切った。

 「あのまま現界にいたら、そなたは死んでしまうだろう?」

 「――っ!!」

 思わずリーフェルは息を詰まらせる。

 「そなたはわしの一人娘だから、そなたが死ねば後継者がいなくなる。わしは若くはないから、どちらにしてもそなたが15歳になったら連れ戻すつもりだった。それが少し早くなっただけじゃ。戴冠する歳を変えるつもりはないから、それまでは心の傷を癒すように。時間は限られてはいるがたっぷりとある。ゆっくり過ごせ」

 リーフェルは胸元の首飾りを握りしめた。後悔と安堵が混ざって、手放しで喜ぶことが出来なかった。

 (私は…逃げてしまったのだから今更後悔するのもおかしいわね)

 心の中で自嘲し、やり直す機会を与えてくれたことに感謝する。

 「あ、りがとうございます」

 「うむ。疲れたであろう、今日は休んだらいい。ユシャセ頼むぞ。ああ、ティオロは残れ」

 「「はっ」」

 二人の短い返事が重なる。退室の挨拶を終えて、リーフェルとユシャセは部屋を辞した。しばらく無言で歩いていたが、やがてリーフェルがぽつりと漏らす。

 「あの、ユシャセさんは護衛をされるのですよね。部屋までついてくるつもりですか?」

 「はい。離れていては護衛できませんからね。あ、一つ注意していただきたいことが……」

 「あ、あのっ」

 リーフェルは彼女らしくなく、人の話が終わらないうちに声を挟んだ。

 「はい、何でしょうか」

 「えっと、今は一人になりたいので、お帰りいただけませんか。今日はどうかご遠慮ください」

 「いえいえ、それでは護衛の意味が…ってちょっとっ姫様!?」

 言うだけ言うと、リーフェルは駆けだした。追ってくる気配はなかったが、彼女は止まらなかった。それよりも、どんどんスピードが上がっていき、やがて全速力で自室についた。取っ手を引っ掴んで、乱暴に開け、大きな音を立てて閉める。そして、扉にもたれた。

 普段はこれぐらいを走ったくらいでは、決して上がることのない息が荒い呼吸を繰り返す。片手を額に置いて瞳を隠す。

 心臓が大きく鼓動する音が聞こえ、同時に手首の脈も大きく波打つ。

 脈動する自分の体が気に入らなくて、(かざ)していた手の手首を下ろし、反対の手で掴む。脈が止まることを祈りながら力を込めるが、指の肌からは脈を感じるだけだった。左手に血が通わなくなることもなかった。

 (どうして!?)

 やるせない思いを残して、右手の力を弱める。すると、手首を横切る斜めの傷跡が目に入った。すでに消えかけているそれに、涙が落ちる。

 (私はもう現界では生きられない。だから、がんばろう。ここに、居場所をつくるために。みんなに認めてもらえる人になるために。――失敗はもうしない。だって、そうたくさんのチャンスは巡ってこないから)

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