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運命の悪戯  作者: リル
一章 少女の重い枷
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「ん…?」

 目が覚めて、最初に目に入った物は白い天井だった。顔を横に倒すと自分が寝ているベッドを囲む、赤い天幕が視界に入った。その先に女性がいる。

 「カル、レーテ…?」

 リーフェルが声をかけるとカルレーテは振り返り、駆け足で近寄る。リーフェルは体を起こし、寝台から足を垂らした。

 「お目覚めになられたのですね。気分はいかがですか?」

 「ん?うん、大丈夫」

 「それはようございました。ところでリル様。ご自分が何故倒れられたのか、覚えていらっしゃいますか?」

 リーフェルは視線を上に向け、覚えていることを一つ一つ確認するように、たどたどしくも言葉を並べる。

 「え、と。ティオロさんと話しをして、王様に会いに行こうって立ち上がって、それで…。そだ。足が痛くなったんだ」

 「足?」

カルレーテが怪訝(けげん)そうに顔をしかめる。

 「……見せてください」

 声の裏に焦りの色が見える。リーフェルは素直に左足を見せた。しゃがんで傷を見るカルレーテの手が青白い光を発し、それを赤く(あざ)になっているところに当て、彼女は説明を始めた。

「私達はリル様が天界に来られる際、又は暮らしておられる最中に、何らかの異変が起こることを予測していました。『ちから』のない空気に慣れている『人間』が『ちから』の集まる世界に来るというのはそういうことです。私達はもっと重く考えていたのですが、軽かったですね。でもリル様、お気をつけください。もし、何か異変があれば、小さなことでもすぐに私に教えてください。軽傷に見えてもお命に係わる危険があることをご理解ください」

 言葉の終わりと共に手が外される。痛みは完全に無くなっていた。

 「他は大丈夫ですか?」

 優しい(いたわ)りの声にリーフェルは嬉しくなって微笑み、頷く。

 「うん。あの、『ちから』って何?」

 「それは『不思議な現象』を起こす力やその源のことです」

 「…『不思議な現象』を魔法とすると、魔力みたいな?」

 「はい。魔法という呼び名を私達は使いませんので、『現象』と『ちから』と呼んでいるだけです」

 「そう…。あ、カルレーテ、王様の部屋までの道を教えてください」

 リーフェルは不意に、倒れる前の会話を思い出した。

 「はい。それでしたら、ティオロ様からリル様の体調が整い次第、呼ぶように言われていますので。…もう行かれますか?」

 「うん。もう大丈夫だから」

 リーフェルは口を笑みの形にして答え、カルレーテも頷く。

 「わかりました。でしたら、リル様はここでお待ちください」

 軽く礼をし部屋から出て行く。それから数分と経たない内にドアがノックされ、ティオロが入ってきた。

 「リル様、もう大丈夫ですか?」

 半ば叫びのような声でティオロは確認し、リーフェルは落ち着いて微笑みと共に答えてやる。ティオロがリーフェルに手を差し出す。

 「お手をどうぞ、リル様」

 古めかしい言葉に噴出しそうになるのを(こら)え、彼の手を取る。そのまま、リーフェルは引かれるままに歩を進めた。

 そして、一つの扉の前で二人は足を止めた。

 そこが一段と大きく、複雑な彫刻がしてあるなど立派だったため、リーフェルはここが王の部屋の入り口なのだと一目で悟った。

 「ユシャセ」

 その出入り口でしかない扉に、ティオロは声をかける。すると、端のほうから返ってくる声があった。声の主は背中を預けていた壁から離す。

 「やっと来たか。待ちくたびれたぞ」

 暗がりから出てきた顔は、苛立ちによって眉は寄せられているものの、髪と瞳の色ぐらいしか違わないのでは…と疑うほど、ティオロによく似た青年だった。彼の青に近い緑の瞳が、好奇を宿してリーフェルに向けられる。

 「お?誰だこのお嬢ちゃん。だめだろこんなとこまで連れてきちゃ」

 あーあ、これだから…と首を振るユシャセにリーフェルは視線を向ける。

「あなた方、双子さんですか?」

 二人は互いに目を見合わせ、ユシャセが噴き出した。

 「あっはっはっは…はははは――」

 「違いますよ。両親が双子のためよく間違えられますが、ぼく達は双子ではありません」

 ティオロの声も笑みを含んでいる。

 「でも、お二人とも武術習っておられるでしょう?」

 二人は唐突に笑いを収めた。再び、目を見合わせる。

 リーフェルは彼らの動きに隙がないことに気づいていた。もとい、それに気づける者はほとんどいない。特にティオロは文役だという役職のため気づかれることはごく(まれ)だ。 ユシャセの好奇の色が濃くなる。

 「おや。ずいぶん鋭いとこにお気づきで。そう、俺は尚武に属している。こいつも小さい頃から一緒に習っていた。君はなぜこんなところに?」

 「お、おまっ。姫様に『君』はないだろ?」

 ティオロが慌てて注意をし、ユシャセは目を見開く。当の本人は全く気にしていない。

 「え、姫様?」

 リーフェルは優美な笑みを口元に浮かべる。

 「はじめまして、ユシャセさん。私はリルです。一応、姫として連れてこられました。お見知りおきを」

 「姫が何でさっきの見破れるんだ?」

 ユシャセは心底びっくりしていた。

(ティオロさんに比べて感情がよく顔に出るのね)

 そう思いながらリーフェルはふふっと笑う。

 「家が家でしたので。それに、私のことはリルと呼んでください」

 「はぁ…。家が家ってどんなっ……つうー」

 ティオロの突きが鳩尾(みぞおち)に入り、ユシャセは体を折る。ティオロは彼を気にもかけず、事務のように会話を続ける。

 「では参りましょうか」

 「ああ、そうですね」

 無情にも、リーフェルは笑顔で応じた。

 ユシャセは痛みがある程度治(おさ)まったことで体を起こし、ティオロにくってかかる。言葉に覇気がないのは痛みのせいだろう。

 「――っ。痛かったぞティオロ。くそっ何なんだよ?」

 ティオロはこめかみに手を当てながら対応する。それすら面倒くさそうだ。

 「なんだじゃねえよ。つか、なんだって何だよ。お前、姫様に無礼が過ぎるぞ。今後、このような態度をとるなら、お前は姫の担当から外れてもらう。敵の攻撃からお守りし、少しでも不安をなくすために就けたボディーガードが、姫様を危険にさらす――誰がいるとも知れない廊下で、情報を流そうとするなど論外だ。…分かったらこっちに来い。扉を開ける」

 「ああ…そうだな」

 短く答え、リーフェルに向かって歩いてきた。顔が引き締まって見えるのは、負っている役職の重みからだ。尚武の準主将を務めるそれから、声が自然と真剣みを帯びる。

 「姫様。我々は常に厳重な警備をしているつもりです。でも、広い城ですから、どこに敵が潜んでいるのか、目や耳があるのか気づかないこともあります。お気をつけて…と言うのは簡単ですが、我々の仕事は姫の護衛です。ご自分の御身を大切に思うのならば、一人の外出はお控えください」

 「……はい」

 僅かな沈黙の後、リーフェルは答えを口にする。それを聞いてからユシャセはティオロの方に足を向け、扉の片側に付いた。二人は両開きの扉を手前に引き、一切の抵抗も音もせずに扉は開く。

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