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運命の悪戯  作者: リル
二章 偽りに歪んだ世界
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10

朝の着替えを済ませたリーフェルは、すぐにサイラの部屋に向かった。廊下に(そび)える『ちから』の壁は既になくなっていた。扉を叩くと、それを開いたのはセフミナミヤだった。

「おはようございます、リル様。姫様は珍しく早起きされて、落ち着かぬご様子で待っておられました。緊張されているようです」

にこりと笑うセフミナミヤに、リーフェルはその背後のサイラを一瞥し、尋ねた。

「おはよう、セフミナミヤ。サイラ様のご容態は?」

「昨夜は寝つきが悪かったようで寝不足のご様子ですが、体調は問題ないと思われます」

リーフェルは了承を返して部屋に踏み込む。セフミナミヤは一礼して扉を閉めた。侍女と入れ替わりに入ってきたリーフェルに、サイラは目を輝かせた。抱き着かんばかりに近付いた顔は、どこか緊張に強張っていた。

「おはようございます、サイラ様。朝食の前に少々お付き合い願えますか?」

震える手を握り返し、リーフェルはサイラを部屋から連れ出した。銀髪の頭上で、ティアラが輝いていた。

彼女らが出会ってから、一週間が経過していた。その間、リーフェルは食事をサイラと彼女の部屋で摂っていた。王と姫の和解と根回しが終わった今日は、食堂で食事の約束をしている。しかし、リーフェルは政塔に向かった。

早朝のこの時間に政塔には人気がなく、彼女らは誰にも会わずに目的の場所に来ることができた。後ろで戸惑っているサイラの手を握り、リーフェルは扉を押し開ける。中から現れた人影に、リーフェルは相好を崩した。

「おはよう、ティオロ、ユシャセ。朝早くから呼び出して悪かったわね」

口々に挨拶を返した彼らの視線がサイラに固定される。彼女は慣れない注目に慌ててリーフェルの後ろに隠れようとするが、手を繋いだリーフェルが許さない。涙を滲ませて縋るような目を向けるサイラにリーフェルは微笑んでみせる。

「サイラ様、彼らが以前話した人よ。私を助けてくれた二人。そして、これからあなたの力になってくれる二人よ」

その言葉に、サイラは彼ら二人におそるおそる目を向けた。リーフェルの言葉を受けるように口元に微笑を乗せ、一歩サイラに近づいたのは、ユシャセだ。足元に跪き、最敬礼を向ける。

「お初にお目にかかります、天姫様。僕はユシャセと申します。尚武軍の準主将を務めており、これより姫様の身辺の警護を承ります。常にお傍に仕えることを、どうぞお許しください」

サイラの強張った顔から怯えと緊張が消えた。ユシャセを見下ろし、彼女は目をぱちくりさせて、呟く。

「ユシャセ、ですか?」

「はい。ユシャセ・キフェイラと申します」

彼の柔らかな声音にホッとしたのか、サイラの青い瞳が優しく和んだ。そう、と相槌を打つ声は安堵が滲み出ている。

「今上陛下が娘、サイラ・アルファル・シーク・パノストよ。よろしくね、ユシャセ」

優然と微笑むサイラは、リーフェルよりも確かに姫たる威厳が板についていた。



雪の降る前に公布された姫という存在は、サイラのことであると弁明がなされた。リーフェルが姫として振舞っていたのは、サイラの体調が優れなかったためと説明された。幽閉については王家の名誉を守るため、闇に葬り去られた。

王がリーフェルを姫だと知っていた者たちに語った弁明はこうだ。

天姫は三十年間、現界の信頼できるところに預けていたが、王の容体が悪化したために()び戻された。『ちから』が多少弱いため、天姫は天界に来てしばらくは体調を崩していた。王が倒れたことにより国主の名代が必要となったが天姫はまだ体調が整わず、止むを得ず、王は名代に現界で天姫の指導役だったリーフェルを据えた。

これを聞いて、彼らは王家に対して不信感を抱くどころか、むしろ安堵した。リーフェルは『ちから』の波動が全く感じられないが、サイラからは微弱ながら『ちから』の存在を感じられ、その波動や容姿から王との血統を確認できたからだ。__こうして、サイラは概ね寛大に受け入れられた。

リーフェルの立場は姫から陛下直属の補佐官に改められた。彼女が天界に滞在する間、王がいない間の政務はリーフェルが執り仕切ることとなった。

今日からサイラはリーフェルの傍らで過ごす日々が始まる。すぐに打ち解け、和やかに笑い合う彼らは、水面下で進められる陰謀など今はまだ気づいていなかった。


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