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鎌倉ヴァンパイア・ヴィンテージ ~独占欲強め銀髪メイド様は、私(の血)を独り占めしたい~~  作者: つきよ


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第35話【鎌倉の狂犬レズによるソフィア様Vtuber計画】

「……私の本当の名前はね、ソフィアじゃないの」


月明かりだけが差し込む静かな寝室。シーツ越しに伝わる彼女の冷たい体温を感じながら、私はその長い昔話に耳を傾けていた。


「私の本名は、ウァレリア。古代ローマ帝国の、代々将軍を輩出してきた軍事名門貴族の娘よ。その頃のローマにね、エジプトから一人の美しい女王――クレオパトラが滞在していたの」

「クレオパトラ……私でも知ってます」

「私は彼女の世話係だった。そして、彼女に惹かれていたわ。野蛮な男たちの権力闘争の中で、彼女だけが唯一の『光』に見えた。……だから、ローマの独裁者の手から、彼女を奪い返そうとしたの」


ソフィア様の声に、微かな悲しみが混じる。


「でも、反逆はあっさりと潰された。一族は粛清され、私を慕ってくれていた二人の使用人……今のファーストとセカンドも巻き込まれて、致命傷を負ってしまったの」


ソフィア様は、自らの首筋にそっと触れた。


「冷たい地下墓所へ逃げ込んだ時、二人は血まみれで……今にも息絶えそうだった。その時、地下の奥深くから現れた化け物が、自分のことを『女神』だと言ったわ。でも、私から見たらただの恐ろしい化け物だった。着ている服もいつの時代のものか分からないし、何より、彼女が口にした言葉は、当時のローマですらとうに滅びていた『エトルリア語』だったの」


神降ろしの祭祀録の中でしか見たことのない、不気味な呪文。それが人間の歴史の外側にいる存在だと、本能で理解したわ、と彼女は自嘲するように笑う。


「それでも、目の前で死にかけている二人を救うため……そして愛する人を奪い返す力が欲しくて、私は自ら進んでその得体の知れない化け物の血を飲んだのよ」


しかし、不死の力を手に入れて地上に戻った時、すべては終わっていた。独裁者は暗殺され、クレオパトラはエジプトへ帰り、最後は戦争に敗れて死んでしまった。


「人間の果てしない欲望に絶望した私は、ウァレリアの名を捨て、『叡智』を意味するソフィアと名乗ったわ。……それからの450年間、私たちはローマの歴史の影で生きた。不老不死を怪しまれないよう、女であることを捨てて男装し、時には漆黒の鎧に身を包む傭兵の将軍として。時にはその弟たちとして……私と同じ化け物にしてしまった二人と一緒に、戦場を渡り歩いて血と戦術に塗れて生きたの」


何百年も戦い続け、ローマが崩壊に向かい始めた頃。彼女たちはついに帝国を離れ、ヴァンパイアの気候にあった今のイギリスへ逃げた。そこでも最強の軍事顧問として、歴史の影に息を潜めて生きてきたのだという。



時折、息抜きに訪れた極東の島国で、のんびりと『はにわ』を作って並べる平和な人間たちを見て、心を癒やされながら。


だからこそ、鎌倉で頼朝さんたちに出会った時。

権力も寿命も関係なく、ただの「悪友」として笑いかけてくれた彼らが、ソフィア様にとってどれほど眩しい光だったか……私には、痛いほどよくわかった。


「……ソフィア様」


私は、彼女の冷たい手を両手でぎゅっと握った。


「もう、一人で抱え込まないでください。クレオパトラさんのことは助けられなかったかもしれないけど……今のソフィア様には、一緒に怒って、一緒に泣いてくれる私たち(家族)がいますから」

「……ふふっ、生意気ね」


ソフィア様は私の頭を優しく撫でた。

その手はひんやりとしていたけれど、さっきよりもずっと、温かく感じた。


* * *


翌朝。館に泊まった私と景ちゃんは、学校へ向かうため、セカンドさんが運転する黒塗りの高級車に乗せてもらっていた。

ふいに、運転席と後部座席を隔てていた分厚いパーティションが、ウィーンと音を立てて下に降りた。


「しぐれ、そして景……昨晩は失礼いたしました」

「い、いやいや……! こちらこそ、部外者が土足で踏み込んで邪魔しちゃって……ごめんなさい」


私が慌てて首を振ると、ルームミラー越しのセカンドさんは静かに首を横に振った。


「いいえ。今だから言えますが、お嬢様からご希望を聞いた時……私はひどく複雑でした。しかし、救ってもらった恩のため、最期まで忠義を貫くことだけが私の使命だと決めていたのです」


私は、その言葉の重みを噛み締めた。2000年前の絶望からずっと、彼女たちはソフィア様を守り続けてきたのだ。その忠義がどれほどのものか、今なら痛いほどよくわかる。


「それに、お二人は決して部外者などではありませんよ。……大切な、家族ですから」


セカンドさんの顔はこちらから見えなかったが、その声色だけで、彼女がどんな優しい表情をしているか容易に想像できた。


……しかし、そんな感動的な朝の空気は、校門に着いた瞬間に一変した。

車から降りた途端、登校中の生徒たちの間にざわめきが広がったのだ。理由はすぐにわかった。


黒塗りの超高級車。外交官ナンバー。しかも、フロントにはイギリスの国旗がはためいている。

(また目立ってしまった……!)


私は周囲の痛い視線を浴びながら、逃げるように校舎へと向かった。


* * *


授業中、私はずっと今後のことを考えていた。

ソフィア様の悔しい気持ちを解決する方法。彼女の生きた証を、歴史の影から引っ張り出す方法……。

歴史に疎い私がいくら考えても良いアイデアは浮かばず、部活動・同好会の一覧表をぼーっと眺めていると、『歴史研究同好会』という文字が目に留まった。


(……ちょっと、専門家に聞いてみようかな)


放課後。私は景ちゃんに事情を説明して別れ、一人で歴史研究同好会の部室へと向かった。


「すみませーん」

ドアを開けた瞬間。


「あ、はい、なんのご……ひぃいっ!! 犯さないでぇ!!!」

「え?」


部室の奥から、悲鳴が上がった。

眼鏡をかけた部長らしき女子生徒が、他の部員たちを背中に庇うように両手を広げて立ちはだかった。


「みんな、下がって! ……な、何の用ですか!? 女を探しているなら、この子たちにだけは手を出さないで! 私が相手するから……隣の部屋で……! みんなは、今日は帰って……!」

「えっ!? なんですか急に……」

「急にも何にも……! 大庭さんといえば、『鎌倉の狂犬レズ』の大庭さんでしょ!?」

「は?」

「いろんな女の子をとっかえひっかえして、気に入った子を食い物にするっていう……自分の女の梶原さんのファンクラブを物理的にボコボコにして、その取り巻きも全員犯したって、校内で有名です……! イギリス政府の裏組織とも繋がりがあって、逆らうと消されるって……!」


(『狂犬レズ』って……さすがに酷すぎるでしょ!? どんだけ尾ひれがついてるのよ!)


どうやら、私は知らない間に学校で絶望的なまでに悪い方向で有名人になっていたらしい。


「いや、違いますから! 目についた女に手を出す悪代官みたいなことしませんから! ちょっと歴史のことで教えてほしくて来ただけです!」

「わ、わかりましたから……命だけは……」


なんとか誤解(?)を解いて話を聞いてもらえることになったが、部室の空気は常にお通夜のようだった。


「こ、こちら……粗茶ですが……」

「あ、ありがとうございます。私、午後ティーのレモンティー好きなんですよね」

「ひっ……! そ、その子は恋人がいるから……お願い、手を出さないでください……!」

「だから出しませんってば!!」


私はため息をつきながら、フェイクを交えて本題を切り出した。

小説を書いていて、その主人公である数千年生きたヴァンパイアが、知り合った世界的偉人たちの『本当の歴史や事実』を世間に伝えるにはどうすればいいか、と。


「なるほど……。現在『通説』と言われている歴史も、一次資料と呼ばれる文献を元にしています。新しい発見によって歴史が覆ることは、実はよくあることなんですよ」


部長さんは少しだけ警戒を解き、歴史オタクとしての顔を覗かせた。


「例えば、その偉人とのやり取りがあった手紙とか、当時身に着けていた服とか。そういった『物的証拠』が本物だと証明されれば、歴史の通説になることもあります。ただ、どこの馬の骨とも分からない人が突然そういうものを持ち込んでも、専門家には門前払いされてしまいますから……」

「知名度を上げていく必要があるってことですかね?」


「そうですね……現代なら、どうなんでしょうか。手っ取り早いのは……配信者になって昔話をする、とか面白そうですね」


(配信者……)


「その主人公はローマ時代の方なんですよね? なら、当時の言語はラテン語のはずです。それを配信で流暢に話したり、色々な言語を使い分けたりすれば面白いかもしれません。考古学的目線で言うと、その主人公が『あの地域のあそこには、歴史的な遺跡が埋まっているわよ』と発言して、後日そこから本当に遺跡が発見されたりしたら……皆さんも納得すると思いますよ。まぁ、小説の中の話ですけどね」


「いや……それ、すごく良い案です!! アイデアが決まりました!!!!」


私は興奮のあまり、テーブルを乗り越えて部長さんの両手を強く握りしめた。


「ひゃっ!? 」

「ありがとうございます! また相談事があったら来ますね!! 今日は本当にありがとうございました!!」


私は怯える部長さんを残し、部室を飛び出した。

興奮が冷めやらず、私は廊下を走りながらスマホを取り出し、ソフィア様に電話をかけた。


『なに、しぐれ。今日はお休みのはずだけど、何か用?』

「ソフィア様! 例の件で、すっごく良い案を思いつきました!!」

『あら、早いわね。話してみなさいよ』

「ずばり……【ソフィア様・VTuber計画】です!!!!」


私は息を切らしながら叫んだ。


「 詳しい話はこれから館に向かいます! 待っててください!!」

『……なによそれ? まぁ、わかったわ』


私はスマホを握りしめ、西日に照らされた校門を駆け抜けた。

長い長い夜が明けた感覚がした。

◆ プロスクリプティオ(粛清のリスト)

紀元前43年、カエサル暗殺後にローマの権力者たち(アントニウスやオクタウィアヌスら)が作成した、国家公認の「殺人リスト」です。

このリストに名前が載ったが最後、法の保護を完全に剥奪され、誰に殺されても罪に問われないばかりか、首を持ってきた者には莫大な賞金が支払われました。昨日までの友人や使用人に裏切られ、数千人の貴族が虐殺されたという、人間のエゴが詰まった恐ろしいシステム。ソフィア様が人間不信になるには十分すぎる地獄でした。


◆ エトルリア語

地下墓所で出会った化け物(自称・女神)が話していた謎の言語。

古代ローマ帝国が建国されるよりも昔、イタリア半島を支配していた先住民族「エトルリア人」の言葉です。ソフィア様が生きていた紀元前1世紀の段階で、すでに「一部の神官だけが魔術や神降ろしの儀式で使う、意味不明だけど神聖な呪文」としてしか残っていませんでした。

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