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鎌倉ヴァンパイア・ヴィンテージ ~独占欲強め銀髪メイド様は、私(の血)を独り占めしたい~~  作者: つきよ


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第26話「三人の折衷案、どうやってしぐれを共有するか」

(拝啓、父上様。お元気ですか。

 最後にお会いしたのが懐かしいです。日本は初夏の香りを感じる季節になりましたが、いかがお過ごしでしょうか。

 現在、私は――)


「しぐれ、話を聞いている?」


景ちゃんに肩を揺すられ、私はハッと目を覚ました。

目の前に広がる意味不明な修羅場に、私の脳内CPUは完全にフリーズし、現実逃避のアナログ手紙を生成していたらしい。


「あ、ごめん。もう一回お願い」

「ですから」


コホン、とアナスタシアさんが澄ました顔で咳払いをする。


「月・水・金が、私とお風呂に入り、ベッドを共にする日になりました」

「……あ、はい。一応、聞こえてました」

「それで、火・木・土が……私が、だ、ダ……『ダーリン』と過ごす日」

「ダッ!? ダーリン!?」


顔を真っ赤にして言い放った景ちゃんに、私は盛大に吹き出した。

アナスタシアに見せつけるための精一杯のマウントなのかな。


「は..はらしょー」

まだフリーズしている私は普段使わないロシア語をつかってしまった。



「えっと……日曜日は?」

「「三人で、か、お休みです(ね)」」


二人の息はピッタリだった。

リビングの机の上には、Excelで作ったような几帳面なカレンダーの表が置かれている。私の名前が横に曜日ごとに並び、その下に二人の名前が交互に記載されていた。狂気のシフト表だ。


「あの、すみません。なんでお二人と一緒にお風呂に入るんですか?」

「当たり前です。家主の背中を流すのは、メイドの『正室』としての務めですから」

「この吸血鬼が言うことを聞かないので、私も入って監視する『折衷案』になった」

「折衷案て……」


二人があまりにも当たり前のように、スラスラと狂った理論を話すのに圧倒される。折衷案なんて単語を聞いたら、なんだか浅草のあんこ玉が食べたくなってきた。


「わ、わかりました。でも一緒に寝るのは……」

「主の護衛のためです。お部屋にいないとダメなので」

「さっきのお風呂と同じで、私も護衛するから『折衷案』になりました」

「また折衷案……」


私は天を仰ぎながら、二人の矛盾バグを指摘する。


「でも、アナスタシアさん、言ってましたよね? レディースメイドやメイド長のような上級使用人は、自分の部屋を与えられてそこで寝るのが歴史的習わしだって」

「ん……っ」

「景ちゃんも、私より先に爆速で寝るよね? 護衛できないよね?」

「う……っ」


二人が言葉に詰まった隙を突き、私は席を立って廊下へと逃亡した。

そして、スマホを取り出し、ただ一人の頼みの綱へ電話をかける。


「ソフィアも〜ん様〜!!」

『電話に出て早々、国民的アニメの青いタヌキ型ロボットにすがる小学生みたいな声を出さないでちょうだい』


電話口から、呆れたようなソフィア様の声が響く。ヴァンパイアにこんな的確なツッコミを入れられるとは驚きだ。


「アナスタシアさんが、うちの家に住み着いて……!」

『ごめん、今回は無理できないわ』


私が言い終わるのを遮るように、ソフィア様が冷酷な宣告を下した。


「まだ、全部言ってないじゃないですか……!」

『言いたい事はわかっているわ。でも無理なの。今回、ナースチャが私に『なんでも願いを叶える申請』を使ってしまったから』

「なんですかぁ〜、それ」

『私に仕えている使用人の福利厚生の一環よ。すごい成績を収めた使用人には、その都度出している報奨の権利なの。今回、あの子が『しぐれの家に住み込む』という願いを申請してきたから、主として無下にはできないわ』


意外にも、ヴァンパイアの館は福利厚生がしっかり整っていた。ホワイト企業か。


「ア、アナスタシアさん……いったいどんな成績を残したんですか」

『何回かあるけど、直近の権利は、北アフリカで私が『狐』に囲まれたところを助けてくれた時の功績ね』

「狐? 誰なんですか、それ……密猟者か何かですか?」

『あら、知らないの? 『砂漠の狐』……日本語だとピンとこないかしら。エルヴィン・ロンメルよ。日本は同盟国じゃなかった? 勇敢で紳士的な指揮官だったわ。ヒゲと貴族軍人達は好きじゃないけど、あいつは好きだったわね。平和な時代に語り合いたかったわ』

まったく知らない人だけど、ソフィア様がフルネームで言っているてことは一目置いていた人なんだろう

たぶん、歴史的功績なのにその対価が、「しぐれの家での同棲権」でいいの、アナスタシアさん。


「わ、私だって……! 刑事さんとのデート案、この間手伝ったじゃないですか……!」

『それは確かね。恩にきているわ。まぁでも、今回の件との相殺は無理だから。私も『夏のコミケ(戦場)』の原稿で忙しいから、またね』

「はぁっ!? ちょっ、ソフィア様――」


ツーツー、という無情な電子音が響く。

リビングからは、「夕食の時、どっちがしぐれに『あーん』をするか」で、再び激しい討論(戦争)が始まっている声が聞こえてきた。


「……私の生活、どうなってしまうの……」


初夏の鎌倉。

私のささやかな平穏は、完全に終わりを告げたのだった。

【用語解説】


■北アフリカ戦線について

1940年から1943年にかけて、第二次世界大戦においてエジプトやリビアなどの広大な砂漠地帯を舞台に行われた戦いです。遮るもののない過酷な環境下で、戦車などの機動力を用いたダイナミックな戦闘が繰り広げられました。

作中でソフィア様が「狐に囲まれた」と言っているのは、ロンメル率いる戦車隊による大規模な包囲網のことを指しています。


■エルヴィン・ロンメル(砂漠の狐)について

当時のドイツ軍の名将です。圧倒的な数と物量を誇る連合国軍に対して、神出鬼没の機動戦と奇策で善戦し、「砂漠の狐」と恐れられました。

また、泥沼の戦争下でありながら「捕虜を虐待しない」「騎士道精神を重んじる」という紳士的な戦い方をしたことで、味方だけでなく敵国であるイギリス軍からも深く尊敬されていた人物です。


■貴族軍人とロンメルの対比について

当時のドイツ軍の上層部(将軍たち)は、「ユンカー」と呼ばれる由緒正しいプロイセン貴族(名前に『フォン』がつくエリート層)が多くを占めており、彼らは伝統や血筋を非常に重んじていました。


一方で、ロンメル将軍は平民(中産階級)の出身でした。そのため、貴族軍人たちからは「成り上がりの新参者」として見下されたり、反発を受けたりする立場にありました。


何百年も生きているソフィア様からすれば、血筋ばかりを誇る頭の固い貴族は数え切れないほど見てきてウンザリしているので、自らの知略と実力で這い上がり、かつ紳士的であった平民出身のロンメルを個人的に気に入っていた……という背景があります。

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