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鎌倉ヴァンパイア・ヴィンテージ ~独占欲強め銀髪メイド様は、私(の血)を独り占めしたい~~  作者: つきよ


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第21話「メイド長の隠し事、暴走族の女の子を監禁していた件について」



無事に、ソフィア様の初のデートは終了したらしい。

デートの翌日にお会いしたソフィア様は、なんだかすごく嬉しそうだった。それに心境の変化が起きているのか、それまで飲まなかったコーヒーを飲むようになったのだ。(しかも、これでもか! というぐらいにドバドバと蜂蜜を入れる激甘仕様だが)


私の生活も、すこぶる平穏である。

最近の悩みといえば、景ちゃんと一緒に生活するようになって、彼女が作ってくれるお弁当が美味しすぎてちょっと太ってしまったことと。

学校ではまだ私と話す時に『ヤンキー口調(孤高の狼モード)』なのに、家に帰ると『良妻のような口調』と甘えてくるギャップに、日々萌え殺されそうになっていることくらいだ。


だが、平穏な日々はそう長くは続かない。

学校を終えて、今日も洋館で給仕のアルバイトをしていた時に、事件は起きた。


この洋館のメイドは、私と景ちゃんの他にもたくさんいて、全員がヴァンパイアのお姉さまたちだ。基本的にいい人が多いのだが、国籍がバラバラなので、文化の違いでよくいざこざが起きる。

(ちなみに私は、ソフィア様のデート作戦の折にアナスタシアさんから少し血を受けたせいで、なぜか皆さんの話す母国語が自動翻訳されて分かるようになってしまった)


今日は、私がキッチンメイドさんのヘルプで夕食を作ることになっていた。


「ちょっと! 誰よ、私のピザにパイナップルを入れたのは!!!」


厨房でブチギレているのは、そばかすがチャームポイントの緑色の目をしたイタリア出身のキッチンメイドのお姉さま。実家はマフィアらしい。


「わたしだけど? 普通に考えて、ピザにパイナップルは常識でしょ?」


ケロッと言い放つのは、綺麗な金髪と青い目をしたアメリカ出身のパーラーメイドのお姉さま。私と同じく、ヘルプで他部署から来ている。


「あんたたちアメリカ人は、なんでも自分の国仕様にしがちなのよ! こんなの冒涜的だわ!」

「心が狭いのよ。甘じょっぱくて本当に美味しいんだから」

「イギリス人といい、アメリカ人といい、あんたらの『食』に関しては1ミリも信用してないわ!!」


二人がバチバチと火花を散らす中、アメリカ人のお姉さまが急にこちらに話を振ってきた。


「しぐれもそう思うわよね?」


(こっちに振ってきた……嫌だなぁ)


「あはは……私はハンバーガーとか好きですよ……パイナップルピザも美味しいと思います……」

「じゃあ、カリフォルニアロールについてどう思うのよ!」


イタリア人のお姉さまが詰め寄ってくる。


「あれは『寿司』とは認めません」


私は真顔で即答した。申し訳ないが、日本人として寿司にはうるさいのだ。


「ちょっと、イタリア人の肩を持つなんて残念だわ。てか、あれは日本人が考案したものよ! 景はどう思う?」


飛び火した景ちゃんは、少し考えてから答えた。


「えっ……カリフォルニアロール、好きです」


そんな不毛な食の対立をしていたら、厨房にメイド長のヒルデがやってきた。


「まぁまぁ、落ち着きな。あと、そのピザを二枚もらうぞ」


メイド長はそう言うと、焼き上がったピザをひょいと持ち上げ、そそくさと厨房を出ていってしまった。


その背中を見送りながら、景ちゃんが私の耳元で小声で囁いた。


「しぐれ……。最近、メイド長の様子がおかしいんです」

「え、どういうこと?」

「筋トレもあんまりやらなくて、ずっと自分の部屋に引きこもりがちなんです」

「えっ、それはおかしいね。あの、筋トレの為に生まれてきた『筋トレの妖精』みたいなメイド長が?」


ストライキ事件の後、メイド長と景ちゃんは和解(?)したらしく、最近は師弟みたいな良い関係を築いているらしい。


「あと、私がたまに夜の7時ぐらいまで仕事をする時に見たんですが……夕食を、自分の部屋に持ち帰って食べてるんです」

「ほう……」


それは確かに怪しい。

ソフィア様が食事を終えた後、使用人たちは厨房の隣にある控え室で賄いを食べるのが習わしだ。

(みんな血がメインの食事だけど、人間だった頃の癖や習慣で、普通の料理も食べるのだ。ソフィア様曰く「血だけすすっていると獣みたいになるから、普通の食事もすることで品位を保っている」らしい。私にはよく分からない感覚だが)


「それは気になるね。……これは、調査する必要があるな」


俺の嫁候補(景ちゃん)が気にしているなら、ここは俺が調べなければ!

ソフィア様からも「また何か不穏な動きがあったら報告して」と言われているので、これは正当な業務の一環だ。



私たちは、こっそりとメイド長の後をつけた。


「あの、しぐれ……。この『段ボール』を被って移動する理由って、何かあるんですか?」

「古今東西、潜入任務は段ボールに入るのがマナーなんだよ、景ちゃん」


私たちは各々、みかん箱サイズの段ボールを被り、長い廊下をしゃがみ歩きで進んでいく。

メイド長が自分の部屋に入ったのを確認して、私たちは急いでドアの前に屈み込み、聞き耳を立てた。


「……よく聞こえないね」

「あ、待ってください。この『盗聴用のマイク』をドアの下の隙間から入れて聞きましょう」


そう言って、景ちゃんがおもむろにポケットから、黒くて細い集音マイクのようなものを取り出した。


「なんでそんなプロ機材持ってるの……?」


純金組のお嬢様だよね?

私のツッコミをスルーし、景ちゃんは手慣れた手つきでマイクをドアの隙間から滑り込ませた。そして、イヤホンの片耳を私に渡してくる。

二人でイヤホンを耳に当てると、中からメイド長の声が聞こえてきた。


『おい、夕食を持ってきたぞ。ほら、温かいうちに食べろ』

『ほら、食べないと死ぬぞ。私が食べさせてやる。口を開けろ』

『んんっ! やめろ、自分で食べられるから放せ!!』


――知らない女性の声が聞こえた。

なんだろう、これ。完全に『監禁事件』の現場の音声だ。


これはソフィア様に即報告案件かもしれない。

私がそう思って隣を見ると、景ちゃんもコクリと頷き、アイコンタクトを返してきた。


そしておもむろに、景ちゃんはさらに黒い布袋を取り出し、床に展開した。

中には、細い綿棒のような金属のピックが何本も並んでいる。

景ちゃんはこれまた流れるような手慣れた手つきで、ドアの鍵穴にその細い棒を突っ込み、カチャカチャと動かし始めた。


(こ、この子、ピッキングしてる!!!? 本当にどんな人生歩んできたのよ!?)


数秒後。

カチャッ、と小さな音がして、鍵が開いた。

景ちゃんが私に向かって、ドヤ顔で親指を立てる。……うん、私たちはまだ完全に心を通じ合えてない気がする。


景ちゃんが口パクで「突入」と言った。

予定とは違うが、こうなったら行くしかない。


「メイド長ぉぉぉぉぉ!!! 警察だぁぁぁ!!」


私は大きな声で叫びながら、ドアノブを引いて部屋へ突入した。


そこには――首に革の首輪と鎖を繋がれた、特攻服姿のヤンキー風の女の子(私たちと同年代くらい)と。

手にピザを持ったまま硬直している、メイド長の姿があった。


「お、お前たち!!! なぜここに!」


メイド長が、刑事ドラマの犯人みたいなベタなセリフを叫んだ。


「最近、メイド長の行動が怪しいということで、尾行してきました!!」

「なっ……これは、ちゃんと説明するから!」

「分かりました。では、まずは話を聞きましょう」


私はバタンとドアを閉め、部屋の中に入った。




「――というわけで」

「経緯は分かりました。が、これは完全にソフィア様へ報告する案件です!!」


メイド長の言い分を要約するとこうだ。

ストライキの時に景ちゃんが言っていた「海側にいる暴走族レディース」の件を聞いて、深夜に一人でカチコミに行ったらしい。

そこで、この総長らしき女の子と戦って物理的に屈服させ、そのままお持ち帰りしてきたのだという。


「……って言ってますけど、本当ですか?」


私は、鎖に繋がれている特攻服の女の子に尋ねた。


「……全然違う!」


女の子が涙目で叫んだ。ですよね。知ってました。


「うちらがいつものようにパトロールしてたら、『うちらのことを嗅ぎ回ってるヤバい女がいる』って仲間から報告があって、そいつを呼び出したんだよ!」

「パトロールって……それ、オヤジ狩りとかしてるんじゃないんですか?」

「はぁ!? 違えよ! ……いや、違くはないけどよ! うちの高校の生徒に痴漢したり、パパ活をあっせんしてる汚い大人たちをシメて、復讐してるだけだ! うちらは、学校にも家族にも信じてもらえない居場所のないヤツらの味方なんだよ!」


(……あれ? 思ってたより正義の不良集団だった)


「そんで、理由を聞いたら……『お前たちの体力が有り余っているようだから、私が成敗して飼ってやる』とか意味分からんこと言ってきたんだよ、この女!」

「ふむ」

「それで、全員で叩きのめそうとしたら……一瞬で全員やられちまって……」

「まぁ、このメイド長は人間やめてますからね……」

「そんで……こいつが……」


女の子はギリッと唇を噛んだ。


「『お前の仲間を全員亡き者にするか、お前が責任取って私の部屋に来るか、選べ』って……脅してきやがったんだ!」


私と景ちゃんは、無言で『ジトーッ』とメイド長を見つめた。

メイド長は冷や汗を流しながら、明後日の方向を向いて下手くそな口笛を吹いている。


「仲間を売るなんてできねぇ。だから、こいつの言う通りにしたら、ここに連れて来られて……! 最初は抵抗して叫んだりしたけど、その度に腹を殴られて……。夜になると、いきなり首に噛みつかれて……っ!」


今にも泣き出しそうな彼女を見て、私はたまらなくなり、歩み寄ってその手をギュッと握った。


すると、彼女はビクッと肩を震わせた後。

自ら特攻服の襟元をずらし、私に向かって『自分の首筋』をスッと差し出してきたのだ。


「……え?」

「い、いいよ……吸って。その代わり、殴らないで……」


どうやら、私が血を吸うヴァンパイアだと思ったらしい。

こんな風に、恐怖と諦めで『自然と首を差し出す』ようになるまで、メイド長が毎夜どんな恐ろしい調教(吸血)をしてきたのか、容易に想像できた。


「もう、大丈夫ですから……。私は人間です。血なんて吸いませんよ」


私は優しくそう言って、彼女の頭をポンポンと撫でた。

……ふと背後に冷気を感じて振り返ると。

そこには、氷のように冷たい目で私を『ジトーッ』と睨みつけている景ちゃんがいた。

(ち、違うんだよ景ちゃん! これは浮気じゃないから! 傷ついた小動物を保護してるだけだから!!)


私は必死に弁解のアイコンタクトを送りつつ、メイド長に向き直った。


「メイド長……ごうが深すぎます……!!」

「いや、だって! 私もアナスタシアのように、自分だけの特別な子が欲しかったのだ!!」

「いや、普通に誘拐と監禁の犯罪ですからね!? てか、まずはお風呂に入れてあげてくださいよ!」


女の子からは、何日も入浴していない汗の匂いと、それを誤魔化すためのキツい香水の匂いが混ざり合って漂っていた。


「えっ……私は、この必死に抵抗した後の『汗の匂い』が好きなんだ! だから風呂には入れさせない! ちょっと匂いがキツくなった時は、上から香水を振りかけて、いい塩梅に熟成させて……」


「だから、業が深すぎるんですってば!! ド変態!!」


私の怒号が、メイド長の部屋に響き渡った。


この後、ヤンキーの女の子を引っ張って、私たちはソフィア様の書斎へと報告に向かうことになった。


(第21話 完)

【用語解説:洋館のメイドたちの役職について】

本作に登場する「キッチンメイド」と「パーラーメイド」は、ヴィクトリア朝やエドワード朝時代の英国貴族のカントリーハウスにおける、使用人の階級制度ヒエラルキーに基づいています。同じメイドでも、その役割と立場は大きく異なっていました。


■ キッチンメイド(Kitchen Maid)

屋敷の裏側で働く「下働き(below stairs)」に分類されるメイドです。

厨房の絶対的権力者であるコック(料理長)の助手として、野菜の皮むきや肉の下ごしらえなど、調理の補助全般を担います。一番過酷な鍋磨きや這いつくばっての床掃除などは、さらに下の階級である「スカラリーメイド(皿洗いメイド)」が担当するため、キッチンメイドは「未来の料理長候補」として料理の腕を磨く立場でもありました。


■ パーラーメイド(Parlour Maid)

主人や来客の目に直接触れる「上働き(above stairs)」に分類されるメイドです。

主に1階の客間パーラーや書斎、食堂などの清掃や管理を担当し、来客時の応接、アフタヌーンティーやディナーの給仕も行います。屋敷の「顔」として人前に出る仕事であるため、容姿の端麗さや洗練されたマナーが求められました。現代で一般的に想像される「フリルやレースのついた華やかなメイド服」は、彼女たちのような上働きのメイドだからこそ着ることが許された特権でもあります。


(※作中でキッチンメイドのイタリア人が職人気質で怒りっぽく、パーラーメイドのアメリカ人が華やかで物怖じしない性格なのも、こうした「裏方」と「表舞台」の職務の違いが影響しているのかもしれません)

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